歴史的裁判の映像による保存

  • 2020.09.02 Wednesday
  • 22:57

 

 

歴史的な裁判の記録はどのようにして残すべきなのでしょうか。

 

今日パリで2015年のテロ(シャルリ・エブド襲撃事件等)の初公判が9月2日に開始しました。

もう5年前になるんですね。17人が犠牲になった事件です。

 

この事件は、フランスのテロ事件で初めて録画されることが決定しました。

 

今回の記事ではフランスの歴史的に重要だとされる裁判についての録画についてご紹介します。

 

 

 

 

 

 

日本のアンスティテュ・フランセ(旧東京日仏学院)でも追悼式が行われました。

 

 

どんな理由があるにせよテロは許されません。風刺画のゆえにテロが正当化されるわけではありません。

ただ、その問題とは別の問題として、風刺画が何をどこまで描いていいのかということについても考えさせられました。

 

 

【テロ事案の特別法廷】

 

この裁判では、14人がテロ行為の共犯として、パリの重罪院で審理が行われます。私訴原告(被害者や遺族で刑事裁判に参加をし、損害賠償を求める訴訟当事者)は200人、弁護士は100人以上が参加するという大型の裁判です。本来はもう少し早く開かれるはずでしたが、コロナのため延期されていました。

主犯の3名は現場で射殺されているため裁判の当事者にはならず、その共犯者の11名が出席、3名が欠席の下裁判が始まります。

 

通常、重大事案の場合には日本と同様、裁判員(フランスでは参審員)が裁判に参加して、事実の認定と量刑を決めます。

しかし、テロ事案においては参審員に対する危険性から、参審員なし、そのかわり5名の裁判官により審理が行われることとなります。

 

この特別法廷はパリに一か所のみ設置されていて、フランス全国どこにおいても発生したテロ事案を管轄します。

 

通常は、シテ島にあるパレ・ド・ジュスティスの中に法廷が置かれていますが、今回は人数も多いということから、移転したばかりの新しいパリの裁判所で裁判が行われます。

 

 

パリ控訴院の入るシテ島の裁判所

今回はここではありませんが現在テロ特別法廷が準備中とのことです。

 

 

裁判の期間は2か月が予定されています。

被告人の起訴罪名はテロ行為共謀罪ということで法定刑は20年〜30年です。

 

 

今回の裁判所はこんな感じだそうです。

 

 

 

STEPHANE DE SAKUTIN / AFP

 

(引用元)https://theconversation.com/le-proces-charlie-hebdo-une-epreuve-aussi-pour-letat-de-droit-145362

 

 

【裁判の録音・録画】

 

通常フランスでは日本と同様法廷を撮影・録画することは認められていません。

法律により禁止されています。

 

しかしながら、フランスの裁判は、1985年7月11日のバダンテール法により映像の歴史的記録を残すことを目的として認められるようになり、その条件は「文化財法典」において定められています。これは通常の裁判記録の公開ということではなく、歴史の記録という意味において保存されることになります。

 

なので、この裁判の映像あるいは音声による保存は、民事訴訟法典や刑事訴訟法典などではなく、「文化財法典」で定められているのが特徴です。

 

文化財法典によると、

 

− 職権であるいは当事者等の申立により、裁判の審理を録音あるいは録画することができる

− 人道に対する罪あるいはテロ犯罪については検察官の申し立てがあれば当然に録音あるいは録画される

− 裁判確定後すぐに誰でも録音あるいは録画を視聴・閲覧することが可能

− 複製・放送は許可が必要

− ただし50年経過後は、複製・放送は自由

 

となっています。

(条文は以下抄訳してあります。)

 

【実際に録画された裁判】

 

これまで実際に行われたのは、以下の録画です。

 

− クラウス・バルビー事件(185時間の録画、1987年)

  ※バルビーはナチスの親衛隊で、フランスのヴィシー政権のリヨンにゲシュタポの責任者として赴任し、ユダヤ人やレジスタンスのメンバーを虐殺した罪で、フランスで1985年に人道に対する罪で裁かれた。終身禁固刑で1991年にフランスの刑務所で死亡。戦後はボリビアに亡命し、軍事政権に協力。軍事政権崩壊後の左派政権の時代にフランスに身柄が引き渡されていた。

 

− HIV感染血液製剤・輸血に関する裁判(被害者のプライバシー保護のため録音のみ、1992年−1993年)

 

− ポール・トゥーヴィエ事件(108時間の録画、1994年)

 ※トゥーヴィエはヴィシー政権下での民兵団に参加し、ユダヤ人やレジスタンスを弾圧、殺害。1994年に人道に対する罪で終身禁固刑。1996年にフレンヌ刑務所で死亡。

 

− モーリス・パポン事件(380時間、1997年から1998年)

 ※パポンはヴィシー政権下のジロンド県の事務局長(国家公務員である県知事に次ぐ県のナンバー2)として、子供を含む多くのユダヤ人を連行・強制収容所に移送したなどの罪で1998年禁固10年に処せられた。レジオン・ドヌール勲章剥奪。最終的に高齢のため仮釈放され、2007年に病院で死亡。フランスの高級官僚(戦後パリ警視総監にも就任。この際にアルジェリア独立を求めるアルジェリア人の虐殺も指示したとも言われている。)が初めて人道に対する罪で裁かれるということで大きな注目を集めた事件。

 

 この事件はちょうど私が高校生のときにボルドーの重罪院で審理されていました。

 存命の被害者がほぼいない(生き延びた人もすでに亡くなっている人が多い)中、多くの歴史家が証言台に立ちました。裁くのは事件か歴史かという争点に関する議論も戦わされていました。

 

− ロベール・バダンテールに対して行われた歴史修正主義者による名誉棄損訴訟(申立人敗訴)

 

− トゥールーズの化学肥料工場の爆発事件(400時間、2009年)

 ※硝酸アンモニウムの爆発で29人が死亡、2440人が負傷、2万5000戸の家屋が崩壊した事件。2001年だったためテロ説が流れたが、事故との判断。

 

− チリの軍事独裁政権に関する裁判、被告人は欠席判決(2010年)

 

− ルワンダのジェノサイドに関する4つの訴訟(2014年―2018年)

 

***

 

ニュルンベルグ裁判でも録画が行われたとのことですが、例えば歴史的な裁判では文字起こしではわからないような沈黙が何よりも雄弁だったという記録も残されています。

歴史的な裁判を録画として残しておくということも日本でも今後考えられるかも知れません。

 

この裁判を前に、現在テロの実行行為だけでなく、被告人の「危険性」をどのように裁くべきかということが問題になっています。近代刑法の理念からは正面から認められない論点です。

テロの裁判について、これから少しまとめていきたいと思います。

 

 

 

アンスティテュ・フランセ前での献花(2015年)

***

 

【文化財法典】

 

L.221-1条

司法及び行政裁裁判所の公開の審理は、本章に定める条件に従い、裁判(justice)の歴史的記録を作成するための利益があると認められる場合に録画あるいは録音が認められる。

 

L.221-2条

審理の録画あるいは録音を決めるのは、

− 権限紛争裁判所の場合:副所長

− 行政裁判系列についてはコンセイユデタは副所長、その他の裁判所は各所長

− 司法裁判系列については、破毀院については第一院長、控訴院及びその他の裁判所については管轄を有する控訴院の院長

 

L.221-3条

1.L.221-2条の決定は、職権で、あるいは当事者、その代理人あるいは検察庁の申立に基づいて行う。緊急の場合を除き、録音あるいは録画を必要とする日の8日前までに申立は行われなければならない。

 

2.決定前に決定権限者は、当事者、代理人、録音録画が予定されている裁判体の長及び検察庁の意見を徴する。決定権限者はその意見提出のための期限を定めることができる。

 

3.人道に対する罪あるいはテロ犯罪については、検察庁の申し立てがあった場合には当然に録音あるいは録画がなされる。

 

L.221-4条

1.録音あるいは録画は、審理の遂行及び弁護権を阻害しない方法で行われなければならない。録音あるいは録画は固定の位置から行われる。

 

2.前項の定めが順守されない場合、担当裁判体の裁判所は法廷警察権の行使として録音あるいは録画に反対し、あるいは中断することができる。

 

L.221-5条

録音あるいは録画は、担当裁判体の裁判長によりフ国立資料館の管理下に提供される。裁判長は録音あるいは録画を実施する際に何らかの問題が生じた場合には、その旨国立資料館に情報提供する。

 

L.221-6条

1.録音あるいは録画されたものは、歴史的研究あるいは学術的研究のため、判決確定後から直ちに閲覧可能となる。

 

2.録音あるいは録画の一部の複製あるいは放送は事前の許可を要する。許可を与えるに際してパリ司法裁判所の所長あるいは所長から権限を委譲された裁判官は利害関係を有する者がその権利を行使することが可能な状況を確保しなければならない。しかしながら、人道に対する罪あるいはテロ犯罪に関する録音あるいは録画は、その判決確定の時点から直ちに複製あるいは放送を許可することができる。

 

3.50年の期間経過後は、自由に録画及び録音を複製し、放送することができる。

 

 

司法とAI

  • 2020.08.15 Saturday
  • 15:16

 

フランスですべての判決のオープンデータ化が実際に始まります。

すでに法律ですべての判決のオープンデータ化は決まっていましたが、その実施要領を定める政令(デクレ)が2020年6月に公布されました。今後はこれにしたがって、判決のオープンデータ化が進められていくことになります。

 

 

この根拠は、2018−2020年の司法の計画に関する法(loi n°2019-222 du 23 mars 2019 de programmation 2018-2022 et de réforme pour la justice)にあり、2020年6月29日のデクレ第2020−797号により具体化されます。

https://www.legifrance.gouv.fr/jo_pdf.do?id=JORFTEXT000038261631

https://www.legifrance.gouv.fr/jo_pdf.do?id=JORFTEXT000042055251

 

 

そして、この全判決のオープンデータ化がなされるに伴い、公開されたデータをlegaltechなど民間事業者が利用してデータベースを作ることができるようになりますが、その際の検索エンジンなどのアルゴリズムにバイアスがかかり、差別的などの不適切な検索結果が表示されることのないよう、行政最高裁や弁護士会が、アルゴリズムに関する公的な監督機関の設立を要望しました。

 

 

なお、判決のオープンデータ化を認める根拠も1789年人権宣言にあるとされ、人権宣言が時代が変わっても適用可能だという普遍的理念に貫かれていることに改めて感動します。

 

 

 


【判決のオープンデータ化】

 

この判決の「オープンデータ化」は、すでに裁判と判決の公開を定めている司法組織法典及び行政訴訟法典を改正するという方法をとっています。

 

これまで法律および裁判の分野に関するオープンデータ化はすでに以下のように行われていました。

 

― 法令のオンライン上での公開:

 

 ・電子官報(1985年3月13日大臣命令)

 ・法令の検索サイトLegifrance(1999年7月6日大臣命令)

 

― 判決のオンライン上での公開(最高裁判決及び権限紛争裁判所判決)

 

 ・2002年8月7日のデクレ第2002−1064号

 ・2014年6月12日のデクレ第2014−648号により改正

 

― 公的部門における情報のオープンデータ化:

 

 ・2015年12月28日の法律第2015−1779号(Valter 法)

 

  この根拠は、1789年人権宣言15条によります。

 

 人権宣言15条

  

  社会は、すべての官吏に対して、その行政について報告を求める権利を持つ。

 

  しかし、三権分立のため、この法律は裁判所には及ばないものとされました。

 

― 判決のオープンデータ化:

 

 ・2016年10月7日の法律第2016−1321号第20条、21条

 ・2019年3月23日の法律第2018−2022号

 

判決のオープンデータ化はこれら法律で明確にされ、その実施のための政令の公布が待たれていました。

 

判決のオープンデータ化の根拠は、1789年人権宣言及び欧州人権条約6条(公正な裁判を受ける権利)に基づくものとされています。

 

 人権宣言12条

 

 人及び市民の権利の保障には、公的強制力を必要とする。したがって、この強制力は、すべての者の利益のために設けられるのであり、それが委託される者の特定の利益のためではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

【オープンデータ化の内容】

 

この判決の公開は以下を内容としています。

(行政訴訟法典L10条、R741−13条以下、司法組織法典L111−13条、R111−10条以下、R433−3条)

 

  • 行政裁判所の系列(コンセイユデタ、行政控訴院、行政裁判所)に関しては、コンセイユデタ(行政最高裁)の責任の下、判決言い渡しの日から2か月以内に公開する。

 

行政裁判所の判決に関しては一切の例外なく、すべての判決がオンライン上で公開される。

 

  • 司法裁判所の系列については、破毀院の責任の下、判決が書記官の下で閲覧可能となってから6か月以内

司法裁判所系列の判決については、原則として公の法廷で言い渡され、事前許可なくコピーの交付を受けることが可能な判決についてはすべてオンライン上での公開対象となります。

 

※民事では家族法に関する判決(離婚、養子縁組等)、刑事では未成年の事件(行為の際に行為者が未成年であった事件)に関する判決は、非公開の場で言い渡されることになっています。公開の場で言い渡された判決は、利害関係がない人であっても、判決のコピーを取得することができます。非公開の場で言い渡された判決は当事者以外のコピーの取得はできませんが、言い渡しから75年経過後、未成年に関する事件の場合は100年後には公開されることとなっています。

 

  • 判決の公開にあたっては匿名化がなされる。当事者の名前、関連する第三者の名前、その他必要があれば、当事者、第三者、裁判官、書記官の特定を可能にする情報を隠すことができるとなっています。またこの追加の情報の秘匿化は、判決の中で触れられている人あるいはその周りの人々の安全あるいは私生活の侵害のリスクがある場合に認められます。

 

匿名化・秘匿化の決定は書く裁判所の長が行うこと及び、匿名化・秘匿化が決定された場合の不服申し立て方法についても定められています。

 

刑事事件においては、検察庁が公開に反対をすることができる旨も定められています。

 

  • 公開の場所

判決のオンライン上の公開は、特定のサイトで行われることが定められています。

 

― 司法大臣の管轄下のインターネットサイト(現在のサイトであるとなる模様)

 

― コンセイユデタ(行政最高裁)及び破毀院(司法最高裁)のサイト

 

実際のオンライン化のスケジュールについては、司法大臣の命令によって今後明らかにされます。

 

 

【オープンデータ化に対する共同声明―リーガルテックとの関係で】

 

デクレが公布されたことを受けて、今後すべての判決のオープンデータ化が具体的に進められていくことに関し、適切な判決の利用のため、2020年7月6日、コンセイユデタ(行政最高裁)、CNB(全国弁護士会評議会―日弁連に相当)及びコンセイユデタ・破毀院付き弁護士会(司法及び行政の最高裁係属事件は特別の弁護士のみが業務を行える)が連盟で共同声明を出しました。

 

この共同声明の懸念点は以下のとおりです。

 

(上記3者のプレスリリースより

file:///C:/Users/AYANO/Downloads/CP%20Open%20data%20VDEF2.pdf

 

 

 

― 全判決のオープンデータ化は、裁判実務に新しい地平を切り開くことであり、紛争解決を迅速化し、判決の一貫性と予測可能性を強化する。

 

― しかし、何らの規律も受けないアルゴリズムの使用は、裁判(正義)の基本的原理及び個人の権利を侵害することもあり得る。とりわけアルゴリズムはその開発の段階からバイアスがかかるリスクがある。

 

― AIの利用が裁判を非人間的なものにしてはならない。

 

― 全判決のオープンデータ化とアルゴリズムの重要性と裁判(正義)に対する信頼を調和させる必要がある。

 

 

 

これを受けて、共同声明は以下のように要請します。

file:///C:/Users/AYANO/Downloads/declaration%20commune%2020200422.pdf

 

 

コンセイユデタ副所長(所長が大統領のため、実質的な所長が副所長となる)。CNB会長及びコンセイユデタ・破毀院付弁護士会会長は、

 

― 全判決のオープンデータ化は、公的情報に対する平等なアクセスを保障する条件に基づいて行われなければならないことに基づき、

 

― いわゆる「予測的司法predictive justice」のためのツールについての規律を行うことこと、裁判の効率化のための欧州委員会の倫理憲章による5つの原理の尊重を確保することが不可欠であること考え、

 

― 判決データベースの利用に関するアルゴリズムと判決の内容の利用に関する規律と監督の実施のための施策に、コンセイユデタ、CNB及びコンセイユデタ・破毀院付弁護士会を参加させること、また行政裁判所・司法裁判所、弁護士会、コンセイユデタ・破毀院付弁護士会と共同する公的な監督機関を設置することが不可欠であると考える。

 

 

 

 

なお、上記憲章とは、「司法システムのAI利用倫理憲章」を意味します。

 

そこでの5大原則は以下のとおりです。

https://www.coe.int/fr/web/cepej/cepej-european-ethical-charter-on-the-use-of-artificial-intelligence-ai-in-judicial-systems-and-their-environment

 

― 基本的権利の尊重:AIを利用したツールやサービスの構築の際が基本的人権を尊重するものでなくてはならないこと

 

― 反差別の原則:個人あるいはグループに対する差別が行われ、また強化されないように予防すること

 

― 質と安全の維持の原則:裁判上のデータを取り扱うに際しては、技術的安全が確立された環境において、確実なソースを利用しなければならないこと

 

― 透明性の原則:データ利用に関する方法がアクセス可能でありかつ理解可能であること

 

― ユーザーによる利用統御の原則:ユーザー自身がその選択を決定できるようにし、適切な理解を持った上で利用できるようにすること

 

 

【最高裁の対応】

 

この共同声明に入っていない破毀院についてはコンセイユデタ・破毀院付弁護士会とともに、フランスのビジネススクールの最高峰であるHECと理系の最高峰であるエコール・ポリテクニークとの間でAIの活用に関する協定を7月2日に締結しました。

 


 

 

 

 

 

この協定は、新しい技術がどのような可能性を持っているのかを具体的に調査するためのもので、18か月の間破毀院の役割についての検討を行うということです。また、訴訟の中で行われた法的主張や法的問題を特定し、案件の複雑さという概念を客観的にどのように捉えるべきかということを明らかにするために、破毀院は協定先の研究者たちに匿名化された訴訟資料を提供するとのことです。

 

 

以上のように、フランスでも全判決のオープンデータ化が実施されるのを受けて、様々な反応がありました。

 

裁判の公開の原則に忠実な全判決の公開及びプライバシー等尊重のための匿名化に関する明確なルールの策定が行われ、そしてそのよりよい利用のために、AI利用の倫理の重要性を強調する行政裁判所と弁護士会の共同声明は、社会の様々な場面においてAIの利用が広まっている中で重要な観点を提供するものと思われます。

 

 

**

 

 

日本でも日弁連法務研究財団において「民事判決のオープンデータ化検討PT」というものを立ち上げているようです。

第一回の会合が今年の3月27日に開催されているようです。

町村教授がメンバーになっています。

 

日本でもこの問題は様々に取り組まれなければならないと思います。

 

その際にまず考えられなければならないのは、そもそもの判決の公表が圧倒的に少ないという事実です。

 

とにかく、日本法はフランス法に比べて条文が少なすぎて、一般条項が多く、裁判の結果を予測することがすごく難しい。判例法の国かと思われるほどなのに、判決自体が全く公表されておらず、裁判を行うときに結論がどうなるかが手探り状態になっています。フランスの裁判に比べても、この手探り間は大きいです。

町村教授の資料から引用させていただきますが、驚くべき数字です。

 

裁判所の公開している判決は:

 

最高裁のもので1.04%

 

高等裁判所のもので1.67%

 

地方裁判所のもので0.03%

 

簡易裁判所にいたっては0%

 

判例検索サイトのWest Law Japanでは:

 

最高裁のもので3.5%

 

高等裁判所のもので4.41%

 

地方裁判所のもので3.02%

 

簡易裁判所のもので0.003%

 

とのことです。

 

http://www.jlf.or.jp/work/pdf/kenshu20200528_2.pdf

 

 

 

これをどうするかをまず考えないといけないでしょう。

 

その上で、日本でもEU憲章のような倫理規定について議論をした上で(日本は倫理的議論を飛ばして利用とか技術面の議論に集約する危険があると思います)、AI利用に関する問題(アルドリズムにおけるバイアス等)などどのような利用の適正性を担保するのか(弁護士会も関与した監督が可能かどうか)を早急に検討する必要があると思います。

 

 

 

マスク着用義務化の方法

  • 2020.08.10 Monday
  • 14:52

パリでは、2020年8月10日午前8時から、パリの人通りの多い一定の道及び屋外の市場、古道具・骨董品点、ガレージセールの場所において、マスクの着用が義務付けられました。

 

日本ではマスクの着用は法的義務ではありませんが、相互監視の中、事実上の強制になっています。

マスク着用が本当に必要な場所はあるでしょうが、いつ外していいかの自己判断については周りの目が気になり、結局夏の暑い中過剰にマスクをし続けることになっています。

 

日本の場合、マスク着用について罰則を設ける必要はないでしょうが(そこまで生理的抵抗感はないと思います)、しかしマスクを着用しなければならないのは行動の制約であることも確かです(苦しいし、暑いし女性の場合はお化粧の問題もあるし、まぶしいときにサングラスもできない…)。このパリのルールは、行動の制約を行うためには、たかがマスクでもここまでする必要があるといういい例になっています。民主主義は面倒ですがそれは当然のコストであって、明確で必要最低限度のルールなしで自由は確保されないという事を改めて思います(法律の少ない日本の方が法律の多いフランスよりも自由を感じられないパラドックスをいつも思います。)。

 

 

違反の場合には、1回目の違反は違警罪第4級の罪(135ユーロ以下の罰金)、15日以内の再違反は違警罪第5級の罪(1500ユーロ以下の罰金)、30日以内に3回の違反をした場合には、3750ユーロ以下の罰金か6か月以内の懲役刑、公益労働の追加刑が予定されています。

 

 

マスク着用義務がある道は以下のとおり明確にされています(赤で示されたところ)。

(詳しい道の名前は後記)

 

主に細い道が対象となり、例えば人は多くても広いシャンゼリゼ通りなどは対象になっていません。

 

 

 

 

 

 

 

 

このマスクの義務化は以下のような法的枠組みで根拠づけられています。

法治・法律による行政は以下のような形を取ることが分かります。

 

ー マスク着用義務:パリ警視庁長官による命令第2020−00635号

 

パリ警視庁長官がこのような権限を有するのは以下の構造によります。

 

 

 

 

 

― 2020年7月9日の公衆衛生上の緊急事態終了に関する法律(法第2020−856号)

― 2004年4月29日の知事(警視庁長官を含む)デクレ(デクレ第2004−374号)

ー 2020年7月10日の公衆衛生上の緊急事態宣言終了した地域に関する必要な措置に関するデクレ

  (デクレ第2020−860号)

― 2019年3月20日のデクレ(現在のパリ警視庁長官を任命するデクレ)

― 2019年3月20日の署名権限移譲の命令(パリ警視庁長官のサインに関するもの)

ー 2020年8月4日のイル・ド・フランス地域保健衛生局の報告書

― 2020年1月30日のWTO声明

― SARS-Cov-2ウイルスの病原性と感染力

 

以上に鑑み、

 

2020年7月9日の法が首相に対して、緊急事態宣言終了後に新型コロナウイルスの感染拡大を防止する事のみを目的とした必要な措置を取ることを認め、その場合にはその権限を地方における国の代表者に移譲できることを定め、この法律基づき制定された首相デクレが、「当デクレがマスクの着用を義務化していない場合には、県知事は地域の現状がそれを必要とする際には、住居の中を除き、マスクの着用を義務化できる」としている、という事を根拠とする、としています。

 

 

なお、フランスでは、「県知事」は日本と違い選挙で選ばれるのではなく、国が任命し、パリの場合には、パリ県知事のほかにパリ警視庁長官も同じ肩書で呼ばれています。パリ警視庁長官もここでいう地方における国の代理人となります。

 

つまり、

 

法律による首相の権限の明示 

   ⇒ 法律による首相から知事(警視庁長官含む)への権限移譲の明示

 

 

デクレ(首相政令)によるマスクの義務化の県知事の権限移譲

 

 

県知事(パリ警視庁長官)による命令

 

 

 

という制度的な根拠が明確です。

 

その上で、形式が整っていればいいだけではなので、命令にはなぜ一定の地域におけるマスクの義務化が必要かが書かれています。

 

ー パリの感染者が多いこと:

  7月26日から人工10万人に対して27.12人の感染が判明していること

  これは前の週から比べて増加していること

  警戒基準(10万人あたり20人)を超えていること

  7月最終週の陽性率が2.1%であること

  状況の悪化はウイルスの活発な広がりを示していること

 

ー 人々が集まりウイルス感染のリスクが高い場所においてウイルス感染のリスクのある行動を予防する緊急性と必要性があること

  感染者の増加はパリの医療体制を悪化させるリスクがあること

 

ー 公衆衛生法上の利益は人々の健康に対する結果と脅威を予防し拡大を阻止するために、リスクに対し過度なものとならず、状況に適した措置を取ることを正当化すること

 

ー 感染症の拡大リスクを予防するため、パリ警視庁長官には適合し、必要かつ比例原則に反しない措置を取る権限があること

 

ー イル・ド・フランス地域保健局が人の密集するところにおける感染予防のためのマスクの必要性を認め、その着用を要請していること

 

ー 夏になると人々が外に出る機会が増えること、屋外市場等や一定の歩行者専用道路や商業区域において社会的距離を取ることが困難であること

 

ー 以上より人手の多い一定の場所においては、マスクの着用を義務化する必要があること

 

その上で、以下が命令の内容です。

 

 

 

 

 

第1条 8月10日8時から、一カ月の間、11歳以上の者はパリの以下の公共の場においてマスクを着用しなければならない。

 

ー 人出が多いことにより社会的距離を取ることが難しい、別紙の地図で示す場所

 

ー 屋外の市場、古道具・骨董品市、ガレージセール

 

第2条 本命令で定めるマスクの着用の義務は、診断書を有し、その他の感染予防策を講じる障碍者には適用されない。

 

第3条 本命令の条項は定期的に評価される。

 

 

その上で、この命令には、行政裁判所への不服申立方法が添付されています。

 

 

 

 

マスク着用が義務化される道は以下のとおり特定されています。

 

(1)セーヌ川沿い

右岸:quai de Bercy (12区)からquai Louis Bleriot (16区)

左岸:quai d’Ivry (13区) からquai d’Issy-les-Moulineaux (15区)

(2)1er DISTRICT

●中央地区

- rue Montorgueil

- marche des Enfants Rouges

- rue Rambuteau

- rue de Bretagne

- rue des Francs Bourgeois

- rue Saint-Honore

- rue de Montmartre

●9区

- rue des Martyrs

- rue Cadet

- marche alimentaire d'Anvers

●16区

- rue de Passy

- rue de l'Annonciation

●17区

- avenue de Saint-Ouen

- rue de Levis

- rue Poncelet

- rue Bayen

(2)2eme DISTRICT

●10区

- rue de Metz

- boulevard de Strasbourg

- rue du Chateau d'Eau entre Fb St Martin et Fb St Denis

- rue Cail

- rue Perdonnet

- rue Philippe de Girard

- place Ian Karski

- rue Louis Blanc dans sa portion entre la place Karski et le faubourg Saint-Denis

- rue du Faubourg Saint Denis

- rue Lucien Sampaix

- rue de Lancry

- rue des Vinaigriers

- quais du Canal Saint-Martin (Jemmapes et Valmy)

●11区

- rue de la Roquette,

- rue de Lappe

- rue Keller

- rue Daval

- rue Jean-Pierre Timbaud

- marche de Belleville

- rue Oberkampf

●12区

- Bercy-Village

- Cour Saint-Emilion

- marche d’Aligre

●18区

- marche Barbes

- marche Lariboisiere

- marche Ornano

- boulevard de la Chapelle (entre Tombouctou et boulevard Barbes)

- rue des Islettes

- rue de la Goutte d’or

- rue des Poissonniers

- rue Dejean

- rue de Suez

- rue de Panama

- marche Dejean (triangle rues Poulet, Poissonniers et Dejean)

- marche Porte Montmartre (y compris carre aux biffins)

- marche Ordener

- rue de Steinkerque

- avenue de Saint-Ouen

- boulevard de Clichy

- boulevard du Rochechouart

- marche Poteau (Rue Duhesme -entre Ordener et Poteau

- marche aux puces de Paris

- rue Riquet (entre Marx Dormoy et Pajol)

- rue de l’Olive

- butte Montmartre (place du tertre, parvis et marche du Sacre-Coeur, rue Norvins, rue du Mont Cenis)

●19区

- quai de la Loire

- quai de Seine

- quai de Marne

- quai de l'Oise jusqu'a l'entree du parc de la Villette

- rue de Bellevillle

- marche de Joinville

- place des fetes

- avenue Secretan

- avenue Mathurin Moreau

- rue Manin

- avenue Jean Jaures entre rue de l’Ourcq et Porte de Pantin

●20区

- rue des Panoyaux

- rue Victor Letalle

- rue Sorbier (entre la rue Menilmontant et la rue Juillet)

- belvedere du Parc de Belleville

- boulevard de Belleville

- boulevard de Menilmontant

- rue de Menilmontant

- rue des Pyrenees

- rue de Bagnolet

- rue d'Avron

- marche aux puces de la porte de Montreuil

(3)3eme DISTRICT

●5区及び6区

- rue Mouffetard

- rue de Buci

- rue de Seine

- rue Mazarine

- rue Jacques Callot

- rue Princesse

- rue des Canettes

- rue Guisarde

- marche Saint-Germain

- jardin Tino Rossi

●7区

- rue Clerc

- marche de l’avenue de Saxe

●13区

- quai Francois Mauriac

- quai de la gare,

- Bibliotheque Nationale de France (parvis + marches et quai)

- marche Maison-Blanche sur l’avenue d’Italie

●14区

- rue Daguerre

- rue Raymond Losserand (entre rue d’Alesia et avenue du Maine)

●15区

- rue du Commerce

- rue Linois

1945年8月8日のカミュの社説

  • 2020.08.08 Saturday
  • 01:56

1945年8月8日のコンバ紙上におけるカミュの社説です。

広島の原爆投下から2日後という極めて早い段階の厳しい批判です。

 

「世界は見てのとおりのもの、つまり取るに足りないものだ。ラジオ、新聞、情報機関が原子力爆弾について一斉に始めた恐ろしい合唱を聞いた誰もが昨日から知っていることである。

 

確かに、熱狂的なコメントの渦の中で、中規模のどのような街であっても、サッカーボールのサイズの爆弾で完全に破壊されつくしてしまうということを私たちは知った。アメリカ、イギリスそしてフランスの新聞は将来、過去、発明者、費用、平和のための用途と戦争の中における効果、政治的帰結、また原子爆弾の独立的な性質などにいたるまでを麗しい文章でもって拡散する。

私たちの考えは次の一つの文章で言い尽くされる。機械的文明は、その野蛮さの極限に達したのだ。私たちは、近い将来において、集団的自殺か科学的成果の知的な利用かを選ばなければならないだろう。

 

その間、人々が何世紀にもわたり経験してきた破壊の熱狂の中でも最も恐ろしいもののためにまず利用された発見をこのように祝うことの中に下劣さがあると考えることは許されるだろう。いかなる制御も効かない、正義そして人々のささやかな幸せに全く関心を寄せることのない暴力に引き裂かれた世界の中で、科学は組織的な殺人に没頭し、おそらく誰も、変わることのない理想を持ち続けるのでなければ、それが驚くべきことであるとすら思わなくなる

発見は、それ自体として記録され、コメントされ、人がその運命について正しい理解を得られるように世界に示されなければならない。しかしこの恐ろしい情報を、気取ったあるいはユーモラスな文書で包むということは、およそ耐えられるものではない。

 

既に、責めさいなまれた世界で私たちは息をすることができなかった。今、おそらく最終的なものとなるであろう新たな恐怖が私たちの前に示された。これが人類に与えられた最後のチャンスかも知れない。結局のところそれは新しい速報の内容になるだけかも知れない。しかしそれはいくばくかの検討と、より多くの沈黙の理由となるだろう。

 

他にも、新聞が私たちに提供する空想小説をより注意して扱わなければならない理由がある。ロイターの外交担当の編集者が、この発明がこれまでの条約を無効にし、ポツダムの決定自体も失効させると述べ、ロシア軍がケーニヒスベルクにいようがトルコのダーダネルスにいようが関係ないと指摘するのを見るとき、科学の無私無欲さと遠くかけ離れた意図の美しい合唱がそこにあると思わざるを得ない。」

 

 

緊急事態下の女性とメディアーこれまでの実践

  • 2020.07.18 Saturday
  • 20:02

 

 

緊急事態下のメディアでの女性の起用の分析に続き、報告書は以下の通りの分析をしますが、それが可能になるためには、すでにメディアにおける男女の平等のために、様々な取り組みがありました。

 

【CSA(視聴覚高等評議会)の役割】

 

CSAはラジオとテレビに関する国の監督機関です。

 

2014年8月4日の「女性と男性の真の平等のための法律」で、重要な役割を委ねられました。

 

その役割とは以下のものです。

 

「視聴覚の方法による番組のサービス提供において、女性と男性が適切に起用されているのかを監督すること」

 

「番組における女性のイメージに注意をすること。とりわけ、ステレオタイプ、性差別的偏見、女性のイメージを毀損するようなイメージ、女性に対する暴力及びカップル内での暴力との闘いと戦うことにより、番組における女性のイメージを監督していくこと」

 

このため、CSAは毎年テレビとラジオにおける女性の起用に関する報告書を作成しています。この報告書はテレビとラジオの報告に基づくもので、CSAはその報告が正しいかどうかについて対象をランダムに選定して調査をしています。

 

報告の内容は以下のとおりです。

 

:ニュース、娯楽、スポーツ、ドキュメンタリー等の中のアナウンサー、ジャーナリスト、専門家、政治家、その他にかかる女性と男性の割合

 

:テレビとラジオは毎年以下の内容の番組の放送の義務を負う:

 − 性差別的偏見及び女性に対する暴力との闘いを内容とする番組

 − ステレオタイプのない番組

 

【INA(国立視聴覚研究所)の役割】 

 

INAは調査にAIを利用していることが特徴的です。

 

例えば、INAは2019年は、AIを使って、22のテレビ局、21のラジオ局の実に70万時間の番組の中での女性と男性の割合を調査しました。これだけの調査は世界でも類を見ません。

 

2010年から2018年までの調査では、ラジオでの女性の発言者の輪依頼は31.2%、テレビでは32.7%でした。

 

このような中、報告書は、数えることの重要性を強調します。

 

 ・量

  テレビやラジオに登場する立場ごとの女性の数、番組を作る女性の数

  新聞や雑誌に登場する女性の数、引用される女性の数

(記事のタイプ別、職業、太陽読者別等)、女性記者による記事の数、一面に使われている女性の写真の数等

 

 ・内容/質

  女性と男性にどのような役割が割り当てられているか

  被害者として紹介される女性と男性の比率

  家族役割とともに紹介される女性と男性の比率

  性的偏見や女性に対する暴力と戦う内容の番組の割合

  ジェンダーステレオタイプを含む番組の割合

  女性が中心的役割を担う番組や記事の割合

 

 ・地位

  管理職や意思決定機関の女性の数

  給与の平等

  女性と男性それぞれが安心して働ける環境の整備

  ワークライフバランスの促進

 

 

 

 

 

La liberté pour la France... Les libertés pour les Français (FD/120)

Bureau d'information Anglo-Américain , Editeur

En 1944

1ère moitié du 20e siècle

Musée de la Libération de Paris - musée du Général Leclerc - musée Jean Moulin

93.53

 

もともとこのような背景があった中で、先日の緊急事態下におけるメディアと女性というテーマの調査及び報告書が作成されることになりました。

 

その報告書の中では以下のような提言がなされています。

 

重要なのは今の現状を否定的にとらえることではなく、よい実践をよりよく生かしていくことにもあるため、すれになされている望ましい実践の紹介もあります。

すごいです。

 

 

【報告書の提言(抜粋)】

 

― ラジオとテレビ

 

・CSAの年間報告書の内容をより豊かなものにしていくこと、とりわけINAの調査結果を重視する。

 

・CSAに対するメディアの報告の頻度を上げること、CSAによる監督の頻度と方法を強化すること

 

・ラジオとテレビに対して毎月その番組の量と質について数を数えることを奨励する

 

・数を数えるにあたりAIを含めたツールの活用促進

 

― 雑誌および新聞

 

ラジオとテレビと異なり、監督機関が存在しない。そのため自主的な取組が重要となる。

 

・すでに実施されている素晴らしい取組についての情報を収集し、女性と男性の平等のための取り組みを希望する会社に対してはそのための方法を提示する。

 

・メディアにおける女性と男性の平等についてのジャーナリストの意識を高めるためのコンピュータツールの活用の奨励

 

・「印刷メディアの発展のための戦略基金」による援助条件として女性と男性の平等の尊重を加える。(※2019年度は1740万ユーロ)

 

・印刷メディアに対する公的助成に両性の平等を条件とすること

 

― 女性の地位向上のためのサポート

 

・女性と男性の平等に関するコミットメントに関する憲章の策定

 

・女性と男性の平等に取り組む企業のためのラベル

 

・ニューヨークタイムズで実施されたようなジェンダーエディターの創設

 

・女性専門家リストの策定と共有

 

・すでに存在する専門家ガイドの強化と金銭的支援

 

― 研修・教育

 

・メディアにおける女性の地位向上のための研修を実施した企業に対して税制優遇の導入

 

・継続研修、学生の教育

 

・小学生や中学生に対するメディアの中の性差別的ステレオタイプとの闘いに関する教育をさらに重視し、強化すること

 

・文化省の競争入札において女性と男性の平等を重視すること

 

― 経験の共有

 

・外国メディアの先進的取組の紹介

 

・番組の内容における女性と男性の平等に関して模範的なメディアの表彰

 

 

 

【実際の取組み】

 

すでに実施されている取組でも注目すべきものがあります。

 

― レゼコー紙(フランスの日経新聞)

 ・ボーナス:女性と男性の平等の目標到達度合いに応じ25〜30%のボーナス支給

 

 ・労使間協定:2024年までにすべての分野において男女比を50%とする(記者、編集、経営、論説委員、外国特派員等)。実際にはすでに到達。

 

― ル・パリジャン紙:平等憲章の策定、到達目標の設定とその達成度合いの数値化

 

数を数える関係では、CSAと異なりアナログですが、以下のような取組がなされています。

 

― ウエスト・フランス紙:700ページ分の調査。女性の写真、女性ジャーナリストの数、インタビューをされた女性の数等。数を数えたことにより、平等への取組みが促進された

 

― レゼコー紙:インターネット版において毎日女性の写真についての調査を行う。

 

― ル・モンド紙:論壇の執筆者、インタビューをされた人の性別、一面に掲載された人の調査を3か月ごとに集計し調査

 

テレビ局も女性専門家の登用に取り組んでいます。

 

― TF1:女性専門家100人を招いて、コーチング、メディア研修、記者との交流の場を設定。これにより、記者も女性専門家と信頼関係を築くことを目的とする。この結果、TF1では、女性専門家の登場率が大幅に増加した。現在TF1の番組では、インタビュー対象者の40%が女性で、女性専門家は50%となっている。

 

 

***

 

このようにフランスではメディア各局の判断だけに委ねず政府も積極的にメディアにおける女性と男性の平等の問題について取り組んできています。

メディアが人々の意識に与える影響を考えると無視できない点だと思います。

 

日本では、女性と男性の不平等の話をすると、男性からも「女性にぜひ差別解消のために頑張ってほしい」というエールをもらいます。もちろん当事者が声を上げることが必要ですし、フランスも多くの女性たちの戦いの上に現在があります。

 

しかしながら、一定以上は公権力の介入が必要な分野だと感じます。とりわけメディアなどでジェンダーステレオタイプが再生産される世の中では、頑張っても頑張ってもまた同じ問題が立ち現れてくる徒労感に似たものがあります。

 

最近自由という感覚について考えていて、フランスに行くとなぜ女性も自由な感じがするのだろうと思っていました。

 

いろんな理由があると思うのですが、自由という感情の一つには、「存在が忘れられず考慮に入れられている感触、存在が認められるという意識、自分が自由になるための条件が整えられていくという安心感、感触」があるのではないかと思います。声を上げたときに受け止められるという安心感、あるいは声を上げる前に、専門知識も人でも資金もある機関がすでに問題に取り組んでいるという安心感から、自分の社会の中の居場所が確実なものとなり、その確実さが自由を享受する自分を支えるのではないと思ったりします。つまり、日本では時々感じざるを得ないような、何をやっても無駄だというあきらめの正反対の感情、可能性があると思えることが自分は自由だと感じる基礎になるのではないかと思うのです。

 

もちろんフランスにも問題はありますが、フランスがやはりすごいと思うのは、問題を上手に立てる、ということかと思います。

中学高校でも徹底的に仕込まれますが、課題があったときに、まずその中の問題を抽出するという訓練、そしてそれに対して回答を模索し、自分の観点を打ち立てるという教育は素晴らしいものだったと思います。

 

今回も、未曽有の状況を前に、メディアで女性の問題は生じていないか、という問題をいち早く取り上げたのは、そのような問題抽出のスキルが特段に高いということもあると思います。その提起された問題の次のステップである最終報告書が楽しみです。

 

 

 

 

緊急事態下の女性とメディア

  • 2020.07.14 Tuesday
  • 21:35

 

 

2020年4月に、エドゥアール・フィリップ前首相が、フランク・リステール文化大臣及びマルレーヌ・スキアッパ男女平等及び差別との闘い担当副大臣(※1)を担当大臣とし、セリーヌ・カルヴェズ議員に対し、「危機的状況の中のメディアにおける女性の地位」(※2)に関する調査を委託しました。

 

この調査は、「外出禁止期間及び公衆衛生上の危機の期間中のメディア全体における女性ジャーナリスト及び女性専門家の地位の分析」を対象とし、その分析に基づき女性がよりよくメディアにおいても代表される(※3)ための提案、そしてより広くメディア全体の中での女性の地位(あるいは居場所)について評価をすることを目的としています。

 

スキアッパ大臣は、この調査の委嘱文書において、1949年に出版されたボーヴォワールの「第二の性」から以下の文書を引用しています。

 

女性の権利は、政治的、経済的あるいは宗教的危機が一つでも生じれば失われてしまうということを忘れてはならない。その権利は完全に獲得されたものではない。あなたたちはその生涯の間ずっと警戒していかなければならない

 

これまでも、フランスにおいて、メディアにおける女性の地位(報道の内容の策定それ自体及びその準備の双方)について、様々な研究がなされてきました。とりわけここでは、公衆衛生上の危機的状況が、メディアでの女性の存在を見えなくする現象を強化したのか、あるいはそれを新たに証明するものとなったのかということを検討することが目指されました。

 

そして実際に平常時よりも、緊急時においては女性のメディアの登場が減少したという事実が確認されました。

 

カルヴェズ議員からは、6月23日に中間報告書が発表されました。

8月に最終報告書が発表されるようですが、まずは中間報告書の内容をご紹介します。

 

【分析結果】

 

メディアの状況については、INA(国立視聴覚研究所)及びCSA(視聴覚高等評議会)が実施しました。

また、カルヴェズ議員のチームも150人以上に対し60回以上のインタビューを行っています。

 

その結果として、すでにもともとテレビやラジオに呼ばれる専門家のうち女性は38%でしたが、緊急事態下ではその数字はさらに低下し、BFM TV、CNews、TF1、France 2、France 3の局に呼ばれた延べ3000人の専門家のうち、女性は20%でした。とりわけ現在医師のほぼ5割が女性であるにもかかわらず、テレビに呼ばれた女性医師は21%に過ぎませんでした。

これに対して、外出自粛期間の家庭生活の証言者としては、79%が女性でした。

ジェンダーステレオタイプが明白に現れました。

 

具体的には以下のとおりとなりました。

 

CSAの調査結果

 

 BFM TV、CNews、TF1、France 2、 France 3の5つの局の3月から5月の89時間の放送を調査

 

(それぞれ水色が女性、茶色が男性です)

 

  • テレビに呼ばれる人の立場に関する男女比

 

                    (上から順に)

                     国の代表者

                     専門家

                     政治家

                     他の著名人

                     専門職の証人

                    (専門知識よりも経験談を語るという趣旨と思われる)

                     アナウンサー

                     ジャーナリスト

                     証人としての医療従事者

                     証人 

 

                                             出典:CSA

  • テレビに登場する医療従事者の男女比

 

 

                   (上から順に)

                    介護士

                    看護師

                    老人介護施設の長

                    総務

                    薬剤師

                    医師

 

                                              出典:CSA

 

・ INAの調査結果

 

INAでは、男女比の解析についてAIを利用しています。

 

この調査においては、BFM TV、CNews、TF1、France 2、France 3(前2者はすべての番組、後者3社はニュース番組のみ)について400時間分の調査がAIでなされました。

その結果、女性がテレビに出たのは全体の28%という結果になりました。

 

(黒がジャーナリスト、黄色がその他の女性)

 

 

 

 

 

 

【原因】

 

このような専門家の起用率の少なさについて、メディア側は以下の通りの分析をしています。

 

― 通常は女性の起用に気をつけているが、緊急事態下の特別な状況下においてその注意が低下してしまった。

 

― 「最良」の専門家へのインタビューを優先

 

― パスツール研究所などの研究所から推薦される専門家に男性が多い

 

― 女性の専門家の数は多くても、その地位が組織の中で一般的に低いため、メディアで起用する際には男性が多くなる

 

― 女性の専門家については同じ人にメディアがこぞってコメントを求める傾向がある。

 

― 女性専門家自身、男性専門家に比べてメディアに出ることに抵抗がある(コメンテーターを行うよりも自分の専門職を重視、テレワークの影響、自信の欠如、メディアに対する警戒心等)。平常時においても男性専門家よりも女性専門家に出演を許諾してもらうことは難しい。

 

 

この男女比のインパクトがより大きくなるのは、緊急事態下におけるメディアの重要性が増したという事実もあります。

実際、報告書によると、3月16日から22日においては、実に番組の74.9%がコロナウイルスとその結果についての報道に充てられました。同じ週の新聞雑誌等では1万9000のコロナウイルスに関する記事が掲載されました。さらに外出禁止に伴い、テレビの視聴時間も増え、平均3時間半から4時間半に増加しています。

 

なお、テレビやインターネットでは映画やドラマの放映や再放送があり、多くの人がくぎ付けになりました。そのような映画やドラマは一定のステレオタイプを伝達するものとなるため、最終報告書においては、その点についての分析をするとのことです。

 

以上を受けて、報告書は今後の対応策について検討をしています。

対応策については次の記事で紹介します。

 

***

 

日本の私たちも日々テレビをつけるとコロナウイルスの報道を目にし、テレビには多くの専門家が登場しました。私たちは常に男性の専門家を見ることに慣れていて、またはアナウンサーにしても、女性は若くて質問をする立場、より年上の男性アナウンサーが若い女性アナウンサーに時事問題の説明・分析をするということに見慣れてしまっているので、あえてこの緊急事態宣言下で特別な疑問を感じなかったかも知れません。

 

しかし、社会における女性の活躍が可能になるためには、メディアの役割は大きく、そのことに関して私たちは一層敏感でなければならないことが、フランスの調査を見て痛感します。

まず、緊急事態下においても、常に疑問を持ち続け、その解決策を探っていくことが重要なのだと思います。まさに、ボーヴォワールが言ったように、「女性の権利は、政治的、経済的あるいは宗教的危機が一つでも生じれば失われてしまうということを忘れてはならない。その権利は完全に獲得されたものではない。あなたたちはその生涯の間ずっと警戒していかなければならない」のでしょう。日本では残念ながら、まだ「獲得」の状態まで行っていないため、なおさら注意することが必要と思います。

 

 

(追記:翻訳の問題)

常にフランス語からの翻訳に問題に突き当たります。

権利実現に関しての日本語の適切な用語がないことに改めて日本語の限界を感じます。

例えば、

※1 Secrétaire d’Etat chargée de l’Egalité entre les femmes et les hommes et de la Lutte contre les discriminations

本文中では、「女性と男性の平等及び差別との闘い担当副大臣」と直訳しました。その方がミッションの重さを感じられるからです。しかし、これを自然な日本語にすると「男女平等及び差別対策担当大臣」というソフトなものになってしまいます。また、どうしてもフランス語にあるように「女男平等」ではなく、「男女平等」になってしまうあたり限界があります。まさに「女性」のエンパワメントを考える文脈でも、「男」が前に来てしまいます。

※2 place des femmes

これは一般には「女性の地位」になるでしょうし、amélioration de la place des femmesについては、「女性の地位向上」などになると思います。しかし、「地位」というととても限定されている感じがします。それよりも、「女性のいる場所」「女性のいる場所をより良くすること」という方が日本語としては不自然ですが、より広い状況を対象とできるようにも思います。

※3 représentativité

これも直訳すると「代表」になるため、「女性の代表」としています。しかし、意味として別に女性の代弁をしてもらうことが趣旨ではなくて、単に女性が男性と同じだけ、つまり人口比と同じだけメディアでも登場することを意味する程度ですが、なかなか適切な翻訳が見当たりません。

友愛と連帯の罪

  • 2020.07.11 Saturday
  • 18:35

 

少し古い事案ですが、憲法院がフランスの標語である「自由・平等・友愛」のうち、「友愛」に憲法的価値を認め、裁判規範となることを初めて認めた判決です(2018年7月6日判決)。

 

憲法院は、「友愛」の原理の名のもとに、いったんフランス国内に入ってきた不法滞在の外国人の交通や滞在を人道的目的をもって援助することを罰することは許されないという画期的な判断をしました。

 

入国の手助けは新たな不法状態を作ることになるから許されないが、いったん入国した外国人に対して人道的な援助をすることは罪にあたらないという判断です。

 

 

 

 

【事案】

 

― Cédric Herrou氏:200人のエリトリア人及びスーダン人の移民のイタリアからフランス入国を援助し、フランスの自宅及び受入れキャンプで宿泊させたことについて4か月の拘禁刑(執行猶予)(2018年2月10日エクスアンプロヴァンス控訴院判決)

 

― Pierre-Alain Mannoni教授:3人のエリトリア人のため駅まで付き添いをしたことについて2か月の拘禁刑(執行猶予)

 

Herrou氏は36時間の身柄拘束の際に、以下のように担当検察官に言ったとされます。

 

« Sachez, monsieur le procureur, que je resterai fidèle à mes convictions, que ma France, que notre France continuera à défendre les droits des hommes, des femmes, des enfants présents sur le sol français au nom de nos valeurs qui fondent la République française. »

 

「検事殿、私は、私のフランス、私たちのフランスが、フランス共和国の基礎となる価値の名の下に、現在フランスにいる男性の、女性の、子供の権利を守り続けるであろうという私の信念に忠実であり続けます」

 

この2名が裁判所により有罪の判決を受けたのは、外国人の入国と滞在及び庇護権に関する法律で定める滞在許可のない外国人の入国、通行、滞在を援助した罪、通称「連帯の罪」あるいは「ホスピタリティの罪」に基づくものです。

 

両名はこの「連帯の罪」が憲法に違反するとして、憲法院に判断を求めました。

 

 

 

友愛のアレゴリー

 

Fraternité.

Debucourt, Philibert Louis , Graveur
Debucourt, Philibert Louis , Dessinateur
Musée Carnavalet, Histoire de Paris

 

 

【外国人の保護】

 

「連帯の罪」はフランスでも歴史の長い、不法滞在の外国人をどのように守るかという戦いの一環でした。

 

フランス革命の当初は、国籍を申請しなくても外国人にはフランス国籍が認められる時代を経て、滞在許可のない外国人に対する対応については様々な変遷がありました。

 

しかし、恐怖政治の時代には、1793年2月26日のデクレにより、有償無償を問わず亡命貴族あるいは国外追放の法律の適用対象となった者をかくまった者は6年の拘禁刑とされました。

 

20世紀になるとフランスはヨーロッパでも最も移民を受け入れる国となっていましたが、

世界恐慌の後50万人の不法滞在者の強制送還に踏み切り、その後ナチスドイツやムッソリーニのイタリア、フランコのスペインを逃れてきた人々に対しても強硬的な対応に応じていました。1938年5月2日のデクレ‐ロワでは、不法滞在の外国人の入国、交通、滞在を容易にし、容易にしようとした者は、100から1000フランの罰金及び1か月から1年の拘禁刑に処することとされていました。

 

フランスがドイツと1940年6月22日に休戦協定を締結した後には、ユダヤ人をどうかくまうかということが問題となり、「市民的不服従」の名の下、多くのユダヤ人をかくまったフランス人もいました。

 

戦後はしかしながら、1938年のデクレ‐ロワと同じ内容の法(1945年11月2日のオルドナンス)が制定され、その後、1991年、1994年、1998年及び2003年の法改正により、重罰化が図られていったといいます。

 

このように外国人に対して援助をすることに対して刑罰に対して抗議をする人々からは「連帯の罪」という名称が与えられ、一般化していきました。

2003年には、354の団体及び2万の人々が「連帯の犯罪者のマニフェスト」を策定しました。その中では、不法滞在の外国人を無償で家に泊めた人々が訴追され、あるいは訴追の恐れの中にあることが明らかにされていました。

 

2005年に1945年のオルドナンスが、「外国人の入国と滞在及び庇護権に関する法典」の中に引き継がれることになりました。

 

このような中、南フランスでイタリア国境を越えて逃れてくるアフリカの移民たちに対する援助が問題となったのです。

 

【ホスピタリティ】

 

こうした援助や「連帯」を考えるとき、キーワードになるのが「ホスピタリティ」です。「連帯の罪」を「ホスピタリティの罪」という人もいます。

 

このホスピタリティは単なる「おもてなし」と超えた道徳的、時には宗教的義務が想起されます。

 

このことを考えるとき、ロマン主義の文学を切り開いたユゴーの「エルナニ」のこの節を思い出さずにはいられません。

 

 

 

エルナニ

(これはヴェルディのオペラのための挿絵)

 

Scene from the Opera of "Hernani" at her Majesty's Theatre.

Anonyme , Graveur
Anonyme , Dessinateur
Anonyme , Editeur

En 1845

2e quart du 19e siècle

Maison de Victor Hugo - Hauteville House

 

ドン・リュイ・ゴメス公爵は、恋敵のエルナニが巡礼を名乗り自分の城を訪ねてくるにあたり、以下のように受け入れます。

(「エルナニ」ユゴー作、稲垣直樹訳 岩波文庫より)

 

小姓                 殿、城の門に

  男が一人参りまして、巡礼か、物乞いか存じませぬが、

  一夜の宿を求めております。

 ドン・リュイ・ゴメス 

              巡礼でも物乞いでも構わぬ。

  『よその者をもてなせば、幸いもともに訪れる』と申すからな。

  入れてやるがよい。」

 

ドン・リュイ・ゴメス  無理に名乗るには

  及ばぬ。この城の誰にも、お名を知る権利などないからな。

  一夜の宿を求めて、参ったのだな?

 エルナニ             はい、公爵様

 ドン・リュイ・ゴメス             ありがたきこと。

  よくぞこの城に来てくれた!わが友よ、好きなだけここにいて下され。遠慮は

  ご無用に願いたい。お名のことは、私の客人とでも申しておこう。

  貴公が誰であれ、構うことではない。なにしろ、憂うことなく、

  悪魔といえども迎え入れたはず、神がここに遣わしてくださったとなれば。」

 

ドン・リュイ・ゴメス公爵はのちにこの巡礼が恋敵であることを理解するが、その恋敵の引き渡しを要請する国王に対しては、自分の命をかけてもこれを断ります。

 

ドン・リュイ・ゴメス 巡礼殿、貴公の首に指一本触れようものなら、下僕たちは自らの首があぶないのだぞ!

  エルナニであろうが、もっとおぞましい人間であろうがな。

  貴公の命と引き換えに、黄金ではなく、帝国を与えようと言われようが、

  わが客人よ!この城では、私は貴公を守らねばならぬ、

  たとえ国王を向うに回しても。貴公を神から預かったからには!

  貴公の頭から髪一本落ちたところで、私は命を捨てなければならなぬのだ!」

 

ドン・カルロス          即刻、お尋ねものを引き渡せ!  

 ドン・リュイ・ゴメス 

  この肖像画は私めでございます。国王ドン・カルロス!お断りいたします!

  この肖像画を見ながら、世の人々がこう申すのをお望みでありましょうが。

  『この最後の肖像画は、これほど高貴な一族の立派な子孫に生まれながら、

   恐るべき卑劣漢で、客人の首を売り渡した』などと。」

 

通常の生活でも、フランス人が人をよく家に招く、泊めるということに驚き(なかなか慣れない)、この戯曲を読んだときにも、客人を守ることが名誉となることに驚きました。

 

この背景には当然隣人を愛することを求めるキリスト教の精神があると思いますし、聖書には、人をもてなすことに関する記述がたくさんでてきます。

 

『ルカによる福音書』の「客と招待する者への教訓」14 章 12 節〜14 節

 

昼食や夕食の会を催すときには、友人も、兄弟も、親戚も、近所の金持ちも呼んではならない。その人たちも、あなたを招いてお返しをするかもしれないからである。宴会を催すときには、むしろ、貧しい人、体の不自由な人、足の不自由な人、目の見えない人を招きなさい。そうすれば、その人たちはお返しができないから、あなたは幸いだ。正しい者たちが復活するとき、あなたは報われる。

 

『ローマの信徒への手紙』「キリスト教的生活の規範」12 章 13 節

 

聖なる者たちの貧しさを自分のものとして彼らを助け、旅人をもてなすよう努めなさい。

 

『ヨハネの手紙 三』「善を行う者、悪を行う者」5 節〜8 節

 

愛する者よ、あなたは、兄弟たち、それも、よそから来た人々のために誠意を持って尽くしています。彼らは教会であなたの愛を証ししました。

どうか、神が喜ばれるように、彼らを送り出してください。この人たちは、御名のために旅に出た人で、異邦人からは何ももらっていません。

 

 

【連帯の罪の内容】

 

本件がキリスト教的な考え方に基づいたと明確に言われているわけではありません。

しかしながら、そこには確固とした困窮している違法人を守るという精神がありました。

 

それに対する罰則は以下のとおりとなっていました。

 

外国人の入国と滞在及び庇護権に関する法典L.622−1条は、入国資格のない外国人の入国を助け、あるいは助けようとした者は3万ユーロの罰金としています。

 

但し、L.622−4条により訴追免除が認められていて

 

― 家族や配偶者、事実上の配偶者による援助

― 無償で、法的助言あるいは外国人の尊厳と身体の完全性をまもるために提供されたレストランでの食事、宿泊、医療の提供、援助である場合、

 

には処罰されないとなっています。

 

【憲法違反の主張】

 

これに対して有罪の宣告を受けたHerrou氏らの側は、いわゆる連帯の罪が憲法違反だとして、違憲の申立をしました(QPC)。

 

ここで同氏らは、

。味僑横押檻款鬚亡陲鼎訴追の免除は、外国人の不法滞在の場合にのみ適用され、入国の際には適用されないことが、友愛の精神に反するとし、

 

また、

 

⇔禺┐気譴討い覆ぬ欺の単なる人道上の援助行為を行った場合にも訴追免除がなされないことから、同じく友愛の精神に反している

 

と主張しました。

 

【憲法院の判断】

 

これに対して、憲法院は以下の通り判断しました。

 

**

 

憲法2条により、フランスの標語は『自由・平等・博愛』である。また、72−3条においても、『共和国は、自由・平等・博愛という共通の理想のもとに、フランス人民のなかに海外住民が存在することを承認する』としている。したがって、友愛は憲法的価値を持つ原理である

 

 

友愛のアレゴリー

 

La Fraternité

Anonyme , Graveur
Chéreau, Jacques-Simon (fils) , Marchand d'estampes

Après 1792

Musée Carnavalet, Histoire de Paris

 

 

この友愛の原理から、その他人が合法的にフランス国内に滞在できるか否かを問わず、人道的目的のために他人を助ける自由が帰結される。

 

但し、どのような場合であれ、外国人に絶対的一般的な入国及び滞在の権利が憲法上保障されているわけではない。また、不法滞在との戦いはそれ自体憲法的目的を有する公序を保障するために必要である。

 

L.622−4条3項の訴追免除の規定は、滞在を対象とし、外国人の不法入国及び交通についても援助を提供することを罰しているが、入国と異なり交通の援助は新たに不法な状態を作り出すことにはならないしたがって、滞在許可のない外国人の国内の交通に対して、人道的な観点からの援助を行うことも罰する法律は、友愛の原理と公序の保障との間の均衡のとれた調和を図ったものとは言えず、刑の免除の場合を「不法滞在」に限ったL.622−4条は憲法に違反する。

 

さらにL.622−4条が、免除の対象を無償の「法的助言あるいは対象となる外国人の尊厳ある然るべき生活を保障するためのレストランでの食事の提供、宿泊、医療の提供、外国人の尊厳と身体の完全性をまもるために提供された援助」に限っていることについては、この中では、目的のいかんを問わず訴追の免除の対象となるのは法的助言だけであり、他の援助行為については、外国人の尊厳ある然るべき生活を保障するということを目的とすることが条件となる。友愛の原理からは、この訴追の免除規定は、同じ目的を条件とする限り、その他の援助行為についても適用されると解釈されるべきである。

 

したがって、このことを条件として、L.622−4条自体は憲法に違反するものではないと判断する。

 

憲法違反と宣言された条項は2018年12月1日以降廃止される。

本判決公表の日以降廃止の日までは、L.622−4条による訴追免除は、外国人のフランス国内通行の際に人道目的で行われる援助の場合にも適用されるものとする。

 

 

***

 

この判決により、「自由・平等・友愛」のすべてが憲法上の価値を持ち、裁判規範となることが明らかにされました。

 

この結果、L.622−4条による訴追免除は、滞在と通行の場合にも広げられ、対象となる行為は、無償かつ「法的上限あるいは法的、言語的福祉的援助その他の人道的目的のみを目的とした援助」に適用されることとなりました(2018年9月10日改正)。

 

ホスピタリティの精神は文化的な文脈を超えて適用可能かどうかの検討は重要かも知れません。

 

 

 

新司法大臣の就任スピーチ

  • 2020.07.08 Wednesday
  • 22:33

新しく司法大臣に就任したDupond-Moretti弁護士の2020年7月7日のスピーチの翻訳。弁護士は歓迎し、司法官(検察官裁判官)の組合などからは「宣戦布告」と言われた人事ですが、就任スピーチが素晴らしいので備忘のため訳出。justiceを司法とするとニュアンスが損なわれるので、justiceのままにしています。

 

フランスの司法がどのように変わっていくのかどうか期待して見ていきたいと思います。

 

***

 

本日国璽を引き継ぎました。かつての国王大権に由来するこの省の鍵というべきものです。

時々そのように言われますが、ここは戦争ための省ではありません。自由の省です。

私は、これまで愛してきた、そしてこれからも愛し続ける弁護士の仕事をいったん休止します。

 

この36年間私はフランス全国の裁判所に行きました。私はテクノクラートとして司法justiceを知っているわけではありません。私はそれを人間として、私の内心の奥底から、そして、官能的・肉体的にも知り尽くしています。

 

私はjusticeの最高の部分と最悪の部分両方を見てきました。大きな被害を受けた被害者の悲しみ、不当にも有罪とされた人の絶望。

 

私は素晴らしい司法官(裁判官・検察官たち)と出会ってきました。彼らとは友好的ないい関係を持ってきました。彼らはヒューマニズムにあふれ、そして独立し、そして対立当事者の議論を何よりも大切にします。彼らはいくつかの言葉で、私たちとjusticeを和解させることができます。これこそカミュが言っていたような、魂の熱というものです。

 

私は、司法官や書記官がどのようにひどい状況で業務を行わなければならないかということを熟知しています。

 

私は政治家ではありません。

私は一般の社会société civileから、あえて言うのであれば刑事の社会société pénaleから来ました。

もう少し働かなくてはいけないとしても、あと少しで定年退職するはずでした。

しかし、私は、共和国大統領という勇気ある男性のために立ち上がることにしました。大統領は私たちの国のjusticeを改善することを望んでいます。

 

フランスは、欧州人権裁判所から最も多くの非難を受けている国の一つです。その避難の理由は、公平な裁判が行われていないということです。

 

私は誰に対しても戦いを挑みません。私は皆さんと一緒に、素晴らしいものを守り、良くないものを変えていきたい。

 

対話と協議の中で、司法官の制度を社会に対しより開かれたものにしていきたい。

私は何よりも必要だと感じているもの、justiceの独立を何よりも進めていきたい。

次の両院合同会議(憲法改正の際に上院下院の両議員がヴェルサイユに一同に会する会議)の際に、長く待ち望まれてきた検察官の独立を提示する初めての司法大臣になるでしょう。

 

私は予備捜査が予備捜査の枠を超えないように目を光らせていきます。司法の効率と対立当事者の主張を戦わせることの間にちょうどいいバランスを見つけていかなくてはならない。主張を戦わせることがなければ、justiceとはその存在意義を失います。

 

私はまた、無罪推定の原則と捜査の秘密という課題にも取り組んでいきたい。

そのための検討には、ジャーナリストの皆さんの参加も必要です。

正義は道の中で言い渡されるのではなく、ソーシャルネットワーク上でなされるものでもありません。今の人々の名誉も昔の人々のもの以上に軽視されることがあってはなりません。

 

これは大統領の意思でもありますが、私はjusticeをより市民に近いものとしたい。犯罪被害者に対する対応について直ちに共和国検事正の皆さんたちと協議を行う予定です。

 

私は前任者の取り組んできた、生殖補助医療(PMA)、欧州検察局、1945年のオルドナンス(少年重罪事件に関する政令)について取り組んでいきます。

 

私は弁護士の守秘義務を再度取り戻していきます。

 

身体拘束を受けている人々のひどい状況についても忘れていません。受刑者そして刑事収容施設で働く人々に思いを馳せます。私の大臣として一番初めの訪問は刑事収容施設になります。

 

私はすべての司法のファミリーである、司法官、書記官、法的規律を受ける職業(弁護士や公証人)の代表者と対話と議論をすることを心待ちにしています。主張を戦わせることは私がこれまでの間なによりも大事にしてきたことです。

 

私は謙虚さをもってこの職務を遂行しますが、これからは行動に移らなければなりません。

 

最後に私自身のことに触れます。

私の母は貧困を逃れるために、この偉大な国に来ました。彼女は自分の意思でフランス人となり、ラ・マルセイエーズに涙します。私は混血の大臣です。私の省は、人種差別を許さない、そして人権のための省となります。

 

 

体温と個人情報の保護―欧州一般データ保護規則と行政裁判所

  • 2020.07.04 Saturday
  • 22:34

この間もたくさんコンセイユデタ(行政最高裁)の判決が出されていますが、こちらは学校や市役所に入る際に体温測定カメラで行われる体温測定の違法性が争われたものです。カメラの前を通ると、体温が色で表示されるよく見るような機械のようです。

 

違法性の内容は、こうしたカメラの利用による体温測定が、EUのデータ保護規則で2018年から施行されている、個人データの保護と利用に関するルールである欧州一般データ保護規則(GDPR, フランス語だとRGPD)に違反するかどうかという点にあります。

 

 

 

 

今回はコンセイユデタのHPもおしゃれな写真なし

 

https://www.conseil-etat.fr/ressources/decisions-contentieuses/dernieres-decisions-importantes/conseil-d-etat-26-juin-2020-cameras-thermiques-a-lisses

 

 

コンセイユデタは、2020年6月26日、Lissesという市により行われる機械を使った体温測定は、GDPRの要請を無視するものであり、法的根拠なく行っていることから、「基本的自由を侵害し著しく違法」だと判断しました。

 

まとめると、

 

ー 体温測定カメラによって人の体温を測定し、その体温と平均的な体温との差を機械で測定することは、目の前にいる人という特定可能な個人のデータを機械的に取り扱うことにより、GDPRの適用対象となる。

 

ー 体温は健康に関するデータであり、その取得は適切な立法あるいは個人の承諾が必要である。

 

ー しかし、立法はないし、体温を測らないと学校に入れないという条件の下で取得された同意は自由な同意でないから有効ではない。

 

ー しかも、カメラを導入する前にそれがどのように人の権利を侵害するかの影響評価も行っていない。

 

ー したがって、体温測定カメラによるこのような体温測定は基本的自由を侵害する著しい違法を有するから、その利用を市はとりやめなくてはならない、

 

というものです。

 

 

もとより、GDPRは個人データは、人々の尊厳や基本的人権の問題であると捉えています。

この部分がGDPRの長大な文書で冒頭に説明されています。

 

この点日本の個人情報保護法と大きく異なるところです。

ネットで簡単に見つかる範囲のGDPRの和訳ではこの序文の部分は省略されてしまっているので、データの取扱いの詳しいルールだけになっていて、残念です。本来はこの個人データと基本的権利の問題を読み込まないと、GDPRに関連する裁判例の意味も十分に読み込めないと思います。

 

この判決でもあくまでも、人権という観点からGDPRの求める個人データの適切な取り扱いがなされているか否かが判断され、体温測定器による体温測定は人の基本的自由を侵害するものであるとして、法律の根拠なく行政が行うことは違法と判断しました。

 

このような体温測定って日本で結構どこでも行われているし、例えば最近よく行く衆議院議員会館の入り口でも体温図られているんですが、たぶん体温図るのを拒否すると会館に入れてもらえない。そのことを考えると、以下の判決が示すフランスの基準に基づくと、議員会館側の扱いも裁判所から違法の判断を受けて、適切な立法をしない限り体温測定が差し止められるんだろうと思います。

 

コロナ対策とはいえ、国や行政が一方的に個人の健康状態に踏み込んではいけないこと、そのためにはきちんとした段取り(立法)を行う必要があるという考えに、法治国家の徹底を見ます。また、個人の尊厳(まさにGDPRが目指すもの)を、立法という形すら取らない国家意思よりも重視するという点において、裁判所が個人の権利の保護を徹底していることを感じ取ります。

 

【事案】

 

Lisses市の市役所に来る人の体温を測るための計測器を設置していたことに対して、人権同盟La ligue des droits de l’HommeというNGOが、体温測定器の設置は、GDPR上問題が生じるとして、コンセイユデタに対し、その撤去を求めた事例。

 

一審のヴェルサイユ行政裁判所はこの申立てを棄却したため、コンセイユデタに上告がされました。

 

これに対する上告審であるコンセイユデタの2020年6月26日の判決の内容は以下のとおりです。

 

 

【訴えの利益】

 

体温計測カメラが市民が利用する公共の施設に設置されているということ、またその利用はセンシティブ情報の利用に該当するとも考えられることから、この計測器の設置は人権同盟が擁護する利益を侵害する恐れがあるため、人権同盟による訴えの利益は認められる。

 

いつものことですが、訴えの利益がとても広く認められています。

 

 

【適用対象となる条項】

 

これは、この事案を審理するために、コンセイユデタが引用するGDPRの条項です。

ここでも引用しておきます。

 

GDPR2条

1.本規則は、その全部又は一部が自動的な手段による個人データの取扱いに対し、並びに、自動的な手段以外 の方法による個人データの取扱いであって、ファイリングシステムの一部を構成するもの、又は、ファイリン グシステムの一部として構成することが予定されているものに対し、適用される。

 

GDPR4条

1.「個人データ」とは、識別された自然人又は識別可能な自然人(「データ主体」)に関する情報を意味する。 識別可能な自然人とは、特に、氏名、識別番号、位置データ、オンライン識別子のような識別子を参照することによって、又は、当該自然人の身体的、生理的、遺伝的、精神的、経済的、文化的又は社会的な同一性を示す一つ又は複数の要素を参照することによって、直接的又は間接的に、識別されうる者をいう。

 

2.「取扱い」とは、自動的な手段によるか否かを問わず、収集、記録、編集、構成、記録保存、修正若しく は変更、検索、参照、使用、送信による開示、配布、又は、それら以外に利用可能なものとすること、整列若 しくは結合、制限、消去若しくは破壊のような、個人データ若しくは一群の個人データに実施される業務遂行 又は一群の業務遂行を意味する。

 

GDPR9条

1.人種的若しくは民族的な出自、政治的な意見、宗教上若しくは思想上の信条、又は、労働組合への加入を明 らかにする個人データの取扱い、並びに、遺伝子データ、自然人を一意に識別することを目的とする生体デー タ、健康に関するデータ、又は、自然人の性生活若しくは性的指向に関するデータの取扱いは、禁止される。

(a)データ主体が、一つ又は複数の特定された目的のためのその個人データの取扱いに関し、明確な同意を与えた場合

 

(g) 求められる目的と比例的であり、データ保護の権利の本質的部分を尊重し、また、データ主体の基本的な権利及び利益の安全性を確保するための適切かつ個別の措置を定めるEU 法又は加盟国の国内法に基 づき、重要な公共の利益を理由とする取扱いが必要となる場合。

 

(h) EU 法又は加盟国の国内法に基づき、又は、医療専門家との契約により、かつ、第3 項に定める条件及び保護措置に従い、予防医学若しくは産業医学の目的のために、労働者の業務遂行能力の評価、医療上の 診断、医療若しくは社会福祉又は治療の提供、又は、医療制度若しくは社会福祉制度及びそのサービス提 供の管理のために取扱いが必要となる場合。

 

GDPR7条

1. 取扱いが同意に基づく場合、管理者は、データ主体が自己の個人データの取扱いに同意していることを証明 きるようにしなければならない。

 

2. 別の事項とも関係する書面上の宣言の中でデータ主体の同意が与えられる場合、その同意の要求は、別の事 項と明確に区別でき、理解しやすく容易にアクセスできる方法で、明確かつ平易な文言を用いて、表示されな ければならない。そのような書面上の宣言中の本規則の違反行為を構成する部分は、いかなる部分についても 拘束力がない。

 

3. データ主体は、自己の同意を、いつでも、撤回する権利を有する。同意の撤回は、その撤回前の同意に基づく取扱いの適法性に影響を与えない。データ主体は、同意を与える前に、そのことについて情報提供を受ける ものとしなければならない。同意の撤回は、同意を与えるのと同じように、容易なものでなければならない。

 

4. 同意が自由に与えられたか否かを判断する場合、特に、サービスの提供を含め、当該契約の履行に必要のない個人データの取扱いの同意を契約の履行の条件としているか否かについて、最大限の考慮が払われなければ ならない。

 

GDPR35条

1.取扱いの性質、範囲、過程及び目的を考慮に入れた上で、特に新たな技術を用いるような種類の取扱いが、 自然人の権利及び自由に対する高いリスクを発生させるおそれがある場合、管理者は、その取扱いの開始前に、 予定している取扱業務の個人データの保護に対する影響についての評価を行わなければならない。類似の高度 のリスクを示す一連の類似する取扱業務は、単一の評価の対象とすることができる。

 

【体温測定器についての検討】

 

体温測定カメラが単に市民の利用に供されるだけで、技術者などの第三者の関与なく、その場で希望者に体温というデータを提供するだけであり、その利用の有無がその施設の利用の可否を決めるものではなく、また、その設置者も体温という情報にアクセスできない場合には、個人データの収集とはいえず、したがって、そのようなカメラはGDPRにいう情報の取扱いには該当しない。

 

これに対し、体温が登録されないとしても、その利用方法を決定する人により取得され、そのデータに基づいて何らかの対応をとることが決定される場合には、体温測定カメラはGDPR4条にいうデータの取扱い(情報の収集と利用)を行うものとなる。

 

このデータの取扱いは、GDPR第2条に定める定義に該当する場合には、GDPRの適用対象となる。また、その取扱いが自動化されている場合も同様である。したがって、単に機器を使って体温を測定することは、それが単に温度を測るということを目的にするだけでは、自動化された取扱いとはならない。しかし、もし計測した体温と平均体温との差を知らせることは、その前提として、測定された体温が平均値と比較されるという事実を踏まえるものであるから、これはGDPRの適用対象となる情報の取扱いの自動化に該当する。

そしてこの取扱いが、特定可能な個人を対象とし、かつ特定の疾患に関し一定の基準をもって健康状況を評価するものである以上は、健康情報に関するデータに関するものとなる。

 

体温というデータだけから個人の特定はできないとしても、体温を測るときにどの個人の体温を測るかがわかっている以上、GDPR26条の法意に鑑み、個人の特定可能な情報と考える。

 

さらにGDPR35条に照らして、情報がセンシティブなものであるか否か、またその私生活に対する影響という観点から検討すると、過去にあまり使用されていなかった機器を用い、その公衆衛生上の有用性に議論があることに鑑みて、このようなデータの取扱いは、実施の条件とリスクを明確にし、それがもたらす高いリスクに対する対策を決定することを可能とする影響評価を行った後でなければ実施することができないというべきである。

 

GDPR9条に基づき、このような健康状態に関する個人データの取扱いは、体温測定カメラにおいて行われる場合、その取扱いが公共の利益により正当化される法律であり、必要な保護を明確にしたものに基づいて行われる以外、あるいは法的根拠に基づき、法律上の守秘義務を有する医療従事者により行われる疾病予防政策の中で実施される場合以外禁止される。この後者の場合、当事者の同意は、GDPR7条に鑑みて、自由、明確、特定的、いつでも撤回可能そしてトレースできることである必要があり、また、対象者が未成年である場合には、GDPR8条に基づく保護の要件を満たす必要がある。

 

 

【本件に関する適用】

 

裁判所が、当事者の主張により判断をすると、

 

― 市による体温測定カメラの設置は、法により、体温測定カメラを使用することを規律し、その実施を必要とする公共の利益を明確にするというGDPR9条2gが求める条件を満たしていない。

 

同様に、9条2hにおいて求められる条件である、公衆衛生政策による取扱いの必要性及びその取扱いを実施するための公衆衛生政策を実施するための法的根拠もない。9条3項の条件である守秘義務を負う医療従事者による処理という要請も満たされていない。

 

― 市は、当事者の同意があると主張するが、その同意がGDPR7条及び8条の条件を満たしているとは言えない。

 

市は、各家庭に対し、子供たちが学校に戻るための条件として同意書の書式を配布しているというが、実際にその同意書上の同意が、情報の処理を実施する前に取得され、保存され、確認されたことの証明はない。

 

また、その同意は、体温に関する情報処理を特定して与えられたものではないし、同意書には、情報主体の情報へのアクセス権や修正権、異議の申立権や同意の撤回権の説明はない。

さらに、カメラで体温を測ることが学校に入ることの条件とされている時点において、その同意は自由に与えられたものであるといえない。

 

したがって、個人の健康状態に関する情報の処理による基本的自由の侵害は著しく違法である。事前に影響評価を行っていれば、体温測定カメラによる体温測定のリスクを認識することができたはずであり、したがって、そのような分析をしていない時点において、健康状態の情報の処理は違法なものとなる。

 

 

【判決主文】

 

1条:2020年5月22日のヴェルサイユ行政裁判所の決定を取り消す。

 

2条:Lisses市に対し、市の学校における体温測定器の使用の終了を命じる。

 

**

 

日本ではたかが体温ということで、携帯式の体温測定器での体温を測られることなどについて疑問を持つことはあまりないかも知れません。ただ、よくよく考えると、個人の権利という観点からは、フランスの裁判所のいうような論点があることもまた確実です。

 

たかが体温でもここまでの議論があり得るということからすると、ここで見てくるのは、目的が何であれ尊重されなければならない個人の自由と尊厳というものがあり、それを制約するためには、国は、大変でも立法を行わなくてはならないという責務を負っているということです。たかが体温でも、国が個人から情報を取得するには、どんなに手間でもきちんと法律を作って個人の権利が侵害されないようにしなくてはならないということを明らかに示します。

 

小さい事柄の積み重ねが、自由と制約の線引きを明確にするのでしょう。立法もなく健康状態を確認されてしまう曖昧な日本の状況も一度考えられるべきかも知れません。

 

 

 

サッカーと行政最高裁

  • 2020.06.24 Wednesday
  • 18:25

 

 

行政裁判がどこまで及ぶかという意味で興味深い判決です。

コロナ禍の中のサッカーに関する2020年6月9日と11日のコンセイユデタ(行政最高裁)判決です。

 

【プロリーグ】

 

コロナウイルスの感染拡大で、フランスでは、3月12日に一部リーグのリーグ・アンが中断し、フランス・フットボール・リー(LFP)は、4月30日に、2019−2020年のシーズンを打ち切ることを決めました。その上で、その時点までの戦績に基づき、リーグ・アンの残留チームと二部リーグへの降格チーム、二部リーグからの昇格チームが決定されました。

 

これを受けて、リヨン、アミアン、トゥールーズのサッカーチームが、コンセイユデタ(行政最高裁)に対し、訴えを提起し、シーズン打ち切りの差し止めと降格の差し止めを求めたのがこの事件です。

 

結論としては以下のとおり、シーズン打ち切りは違法ではないが、リーグ降格について仮とは言え差止命令を出しました。

 

https://www.conseil-etat.fr/actualites/actualites/ligue-1-de-football-le-juge-des-referes-du-conseil-d-etat-valide-la-fin-de-la-saison-et-le-classement-mais-suspend-les-relegations

 

 

 

コンセイユデタのHPでの判例紹介で使われている写真がいつもおしゃれ。

 

 

 

そもそもなぜサッカーチームが行政裁判?というところですが、LFPは、私的な団体でそれ自体行政機関ではありません。

 

この点に関し、行政最高裁は、LFPは、独占的にフランス国内における試合を組織するミッションを託されているのであるから(スポーツ法典L.131−14条に基づく)、これは、立法者が行政的性格をもつ公的サービスの実施をLFPに託したものであると考えられるとしました。その上で、シーズンを打ち切るというLFPの理事会での決定は、行政命令的性格を有するとして、行政訴訟法典R311−1条に基づき、この決定の取消を求める訴えは、行政最高裁(コンセイユデタ)を一審かつ最終審として申し立てることができるとしました。

 

なので、LFPの決定は、行政裁判の対象となり、最高裁が審理するということで申立てが受理されました。

 

下のアマチュア選手権に関するフランスサッカー連盟の判断を対象とする裁判も同様の理由で、訴えをすること自体認められ血ます。

 

その上で、中身については、コンセイユデタは以下のとおり判断しました。

 

 

― シーズン打ち切りに対して

 

首相と厚生大臣が4月30日に、公衆衛生の観点から、団体競技を再開することはできないと判断したこと、また、この時点においてUEFAが各国サッカーリーグに対して、2019−2020のシーズンは2020年8月30日までに終わらせるように通告していたことを考慮すると、関係当事者の健康を守るとともに、2020−2021のシーズンを準備するための時間的余裕を持つためシーズンの打ち切りを決定したLFP理事会の決議には、違法性はない、と結論づけました。

 

― 降格について

 

LFPは、シーズン打ち切りに伴い、リーグ・アンの最下位であったアミアンとトゥールーズを降格としたことは違法であると判断しました。

 

その理由としては、リーグ・アンのチーム数を20とするというのは、フランスサッカー連盟とLFPとの間で締結された協定に基づくものであるが、その協定は6月30日をもって失効し、新たな協定が締結されなければならないことから、この失効が予定されている協定に基づいて、次のシーズンについてこの2チームを下部リーグにすることはできないと判断しました。

 

その上で、裁判所はLFPに対して、2020−2021のシーズンについて、リーグ・アンの構成をどのようにするのかということをフランスサッカー連盟との間で協議することを命じました。

 

 

【アマチュア選手権】

 

他方、アマチュア・サッカーの団体からも、フランスサッカー連盟がアマチュア選手権を打ち切ったことに関し申立てが行われ、コンセイユデタ(行政最高裁)は、6月11日に判決を出しています。

 

https://www.conseil-etat.fr/actualites/actualites/championnats-de-football-amateurs

 

 

 

 

 

最高裁は、選手権の打ち切りに関しては、定款にも規則にも規定のないことについては、フランスサッカー連盟は自ら判断をすることができ、コロナウイルス感染拡大の中、再開の見通しのたたない選手権を打ち切ったことは違法ではないと判断しました。

 

また、降格のルールについても、このような事態に対応する規定は事前にないことから、その対応はフランスサッカー連盟が取ることができること、フランスサッカー連盟に代わり裁判所が降格・昇格を決定することができないことから、降格の方法が顕著に違法でないかどうかを裁判所が確認するにとどまる、としました。

 

その上で、各地で争われるアマチュア・リーグや選手権の複雑さから、中断の時点の戦績を基に昇格・降格をフランスサッカー連盟が決定したことに顕著な違法はないとして、申立てを棄却しました。

リーグ・アンとの違いは、将来執行するルールに則ったか、ルールがない中で合理的と考えられる方法によったかどうかというのが違いでしょうか。

 

なお、申立人である地方リーグの団体は、フランスサッカー連盟の決定が「サッカーの優越する利益intérêt supérieur du football 」という言葉を使うのですが、具体的にはどのような意味か気になります。

裁判所は、フランスサッカー連盟の決定は「サッカーの優越する利益」に反しないとしていますが、意味を知りたいものです。

 

 

***

 

法や裁判所による問題の解決がサッカーのシーズンやチームの降格などにも及ぶというのは、日本ではあまり想像がつかず、法が社会のどこまで及ぶ必要があるのかということを考えさせられます。

 

そして、このようなケースを見ると、日本でももっと法が及ぶ分野があってもいいのではないかと思います。

(そういうと訴訟社会は…という意見もありますが、フランスでは訴訟は日本より多いですが、特段すごい訴訟社会ということではありません。)

 

ここで法が及ぶ分野というのは、ー詑遼 陛事者の持つ権利が多い)、⊆蠡核 淵侫薀鵐垢両豺腓任蝋く訴えを認める訴訟法の存在)、K_鮗瓠覆海虜枷修任蓮屮好檗璽弔諒薪」という言葉も出てきます。その他、原告適格を広く認めるという裁判所の姿勢)すべての及んできます。

日本はこの3つとも足りていないなあというのが実感です。

 

日本人は権利意識が低いというような言い方もしますが、´↓が足りていない状況では裁判をやるだけ無駄ですし、弁護士も裁判を進められません。

「日本人の法意識」などの議論もありますが、実体としては日本人の意識以前に、まずは法律の整備と法解釈にあたっての裁判官の意識を変えることから始めないといけないなあと思います。

もちろん、法律作るのも、裁判官も日本人ではありますが、ユーザー側の意識だけを問題にしても意味がないと思うのです。

 

サッカーに話を戻すと、去年は、元日本代表監督だったハリルホジッチ監督の代理人として民事訴訟を行いました。

これは、同監督の解任に伴って行われたJFA会長の記者会見が名誉毀損になるとして、しかし損害賠償としては1円を請求したというものでした。

行政裁判所と行政訴訟という観点からスポーツと裁判について改めて考えさせられます。。。