友愛と連帯の罪

  • 2020.07.11 Saturday
  • 18:35

 

少し古い事案ですが、憲法院がフランスの標語である「自由・平等・友愛」のうち、「友愛」に憲法的価値を認め、裁判規範となることを初めて認めた判決です(2018年7月6日判決)。

 

憲法院は、「友愛」の原理の名のもとに、いったんフランス国内に入ってきた不法滞在の外国人の交通や滞在を人道的目的をもって援助することを罰することは許されないという画期的な判断をしました。

 

入国の手助けは新たな不法状態を作ることになるから許されないが、いったん入国した外国人に対して人道的な援助をすることは罪にあたらないという判断です。

 

 

 

 

【事案】

 

― Cédric Herrou氏:200人のエリトリア人及びスーダン人の移民のイタリアからフランス入国を援助し、フランスの自宅及び受入れキャンプで宿泊させたことについて4か月の拘禁刑(執行猶予)(2018年2月10日エクスアンプロヴァンス控訴院判決)

 

― Pierre-Alain Mannoni教授:3人のエリトリア人のため駅まで付き添いをしたことについて2か月の拘禁刑(執行猶予)

 

Herrou氏は36時間の身柄拘束の際に、以下のように担当検察官に言ったとされます。

 

« Sachez, monsieur le procureur, que je resterai fidèle à mes convictions, que ma France, que notre France continuera à défendre les droits des hommes, des femmes, des enfants présents sur le sol français au nom de nos valeurs qui fondent la République française. »

 

「検事殿、私は、私のフランス、私たちのフランスが、フランス共和国の基礎となる価値の名の下に、現在フランスにいる男性の、女性の、子供の権利を守り続けるであろうという私の信念に忠実であり続けます」

 

この2名が裁判所により有罪の判決を受けたのは、外国人の入国と滞在及び庇護権に関する法律で定める滞在許可のない外国人の入国、通行、滞在を援助した罪、通称「連帯の罪」あるいは「ホスピタリティの罪」に基づくものです。

 

両名はこの「連帯の罪」が憲法に違反するとして、憲法院に判断を求めました。

 

 

 

友愛のアレゴリー

 

Fraternité.

Debucourt, Philibert Louis , Graveur
Debucourt, Philibert Louis , Dessinateur
Musée Carnavalet, Histoire de Paris

 

 

【外国人の保護】

 

「連帯の罪」はフランスでも歴史の長い、不法滞在の外国人をどのように守るかという戦いの一環でした。

 

フランス革命の当初は、国籍を申請しなくても外国人にはフランス国籍が認められる時代を経て、滞在許可のない外国人に対する対応については様々な変遷がありました。

 

しかし、恐怖政治の時代には、1793年2月26日のデクレにより、有償無償を問わず亡命貴族あるいは国外追放の法律の適用対象となった者をかくまった者は6年の拘禁刑とされました。

 

20世紀になるとフランスはヨーロッパでも最も移民を受け入れる国となっていましたが、

世界恐慌の後50万人の不法滞在者の強制送還に踏み切り、その後ナチスドイツやムッソリーニのイタリア、フランコのスペインを逃れてきた人々に対しても強硬的な対応に応じていました。1938年5月2日のデクレ‐ロワでは、不法滞在の外国人の入国、交通、滞在を容易にし、容易にしようとした者は、100から1000フランの罰金及び1か月から1年の拘禁刑に処することとされていました。

 

フランスがドイツと1940年6月22日に休戦協定を締結した後には、ユダヤ人をどうかくまうかということが問題となり、「市民的不服従」の名の下、多くのユダヤ人をかくまったフランス人もいました。

 

戦後はしかしながら、1938年のデクレ‐ロワと同じ内容の法(1945年11月2日のオルドナンス)が制定され、その後、1991年、1994年、1998年及び2003年の法改正により、重罰化が図られていったといいます。

 

このように外国人に対して援助をすることに対して刑罰に対して抗議をする人々からは「連帯の罪」という名称が与えられ、一般化していきました。

2003年には、354の団体及び2万の人々が「連帯の犯罪者のマニフェスト」を策定しました。その中では、不法滞在の外国人を無償で家に泊めた人々が訴追され、あるいは訴追の恐れの中にあることが明らかにされていました。

 

2005年に1945年のオルドナンスが、「外国人の入国と滞在及び庇護権に関する法典」の中に引き継がれることになりました。

 

このような中、南フランスでイタリア国境を越えて逃れてくるアフリカの移民たちに対する援助が問題となったのです。

 

【ホスピタリティ】

 

こうした援助や「連帯」を考えるとき、キーワードになるのが「ホスピタリティ」です。「連帯の罪」を「ホスピタリティの罪」という人もいます。

 

このホスピタリティは単なる「おもてなし」と超えた道徳的、時には宗教的義務が想起されます。

 

このことを考えるとき、ロマン主義の文学を切り開いたユゴーの「エルナニ」のこの節を思い出さずにはいられません。

 

 

 

エルナニ

(これはヴェルディのオペラのための挿絵)

 

Scene from the Opera of "Hernani" at her Majesty's Theatre.

Anonyme , Graveur
Anonyme , Dessinateur
Anonyme , Editeur

En 1845

2e quart du 19e siècle

Maison de Victor Hugo - Hauteville House

 

ドン・リュイ・ゴメス公爵は、恋敵のエルナニが巡礼を名乗り自分の城を訪ねてくるにあたり、以下のように受け入れます。

(「エルナニ」ユゴー作、稲垣直樹訳 岩波文庫より)

 

小姓                 殿、城の門に

  男が一人参りまして、巡礼か、物乞いか存じませぬが、

  一夜の宿を求めております。

 ドン・リュイ・ゴメス 

              巡礼でも物乞いでも構わぬ。

  『よその者をもてなせば、幸いもともに訪れる』と申すからな。

  入れてやるがよい。」

 

ドン・リュイ・ゴメス  無理に名乗るには

  及ばぬ。この城の誰にも、お名を知る権利などないからな。

  一夜の宿を求めて、参ったのだな?

 エルナニ             はい、公爵様

 ドン・リュイ・ゴメス             ありがたきこと。

  よくぞこの城に来てくれた!わが友よ、好きなだけここにいて下され。遠慮は

  ご無用に願いたい。お名のことは、私の客人とでも申しておこう。

  貴公が誰であれ、構うことではない。なにしろ、憂うことなく、

  悪魔といえども迎え入れたはず、神がここに遣わしてくださったとなれば。」

 

ドン・リュイ・ゴメス公爵はのちにこの巡礼が恋敵であることを理解するが、その恋敵の引き渡しを要請する国王に対しては、自分の命をかけてもこれを断ります。

 

ドン・リュイ・ゴメス 巡礼殿、貴公の首に指一本触れようものなら、下僕たちは自らの首があぶないのだぞ!

  エルナニであろうが、もっとおぞましい人間であろうがな。

  貴公の命と引き換えに、黄金ではなく、帝国を与えようと言われようが、

  わが客人よ!この城では、私は貴公を守らねばならぬ、

  たとえ国王を向うに回しても。貴公を神から預かったからには!

  貴公の頭から髪一本落ちたところで、私は命を捨てなければならなぬのだ!」

 

ドン・カルロス          即刻、お尋ねものを引き渡せ!  

 ドン・リュイ・ゴメス 

  この肖像画は私めでございます。国王ドン・カルロス!お断りいたします!

  この肖像画を見ながら、世の人々がこう申すのをお望みでありましょうが。

  『この最後の肖像画は、これほど高貴な一族の立派な子孫に生まれながら、

   恐るべき卑劣漢で、客人の首を売り渡した』などと。」

 

通常の生活でも、フランス人が人をよく家に招く、泊めるということに驚き(なかなか慣れない)、この戯曲を読んだときにも、客人を守ることが名誉となることに驚きました。

 

この背景には当然隣人を愛することを求めるキリスト教の精神があると思いますし、聖書には、人をもてなすことに関する記述がたくさんでてきます。

 

『ルカによる福音書』の「客と招待する者への教訓」14 章 12 節〜14 節

 

昼食や夕食の会を催すときには、友人も、兄弟も、親戚も、近所の金持ちも呼んではならない。その人たちも、あなたを招いてお返しをするかもしれないからである。宴会を催すときには、むしろ、貧しい人、体の不自由な人、足の不自由な人、目の見えない人を招きなさい。そうすれば、その人たちはお返しができないから、あなたは幸いだ。正しい者たちが復活するとき、あなたは報われる。

 

『ローマの信徒への手紙』「キリスト教的生活の規範」12 章 13 節

 

聖なる者たちの貧しさを自分のものとして彼らを助け、旅人をもてなすよう努めなさい。

 

『ヨハネの手紙 三』「善を行う者、悪を行う者」5 節〜8 節

 

愛する者よ、あなたは、兄弟たち、それも、よそから来た人々のために誠意を持って尽くしています。彼らは教会であなたの愛を証ししました。

どうか、神が喜ばれるように、彼らを送り出してください。この人たちは、御名のために旅に出た人で、異邦人からは何ももらっていません。

 

 

【連帯の罪の内容】

 

本件がキリスト教的な考え方に基づいたと明確に言われているわけではありません。

しかしながら、そこには確固とした困窮している違法人を守るという精神がありました。

 

それに対する罰則は以下のとおりとなっていました。

 

外国人の入国と滞在及び庇護権に関する法典L.622−1条は、入国資格のない外国人の入国を助け、あるいは助けようとした者は3万ユーロの罰金としています。

 

但し、L.622−4条により訴追免除が認められていて

 

― 家族や配偶者、事実上の配偶者による援助

― 無償で、法的助言あるいは外国人の尊厳と身体の完全性をまもるために提供されたレストランでの食事、宿泊、医療の提供、援助である場合、

 

には処罰されないとなっています。

 

【憲法違反の主張】

 

これに対して有罪の宣告を受けたHerrou氏らの側は、いわゆる連帯の罪が憲法違反だとして、違憲の申立をしました(QPC)。

 

ここで同氏らは、

。味僑横押檻款鬚亡陲鼎訴追の免除は、外国人の不法滞在の場合にのみ適用され、入国の際には適用されないことが、友愛の精神に反するとし、

 

また、

 

⇔禺┐気譴討い覆ぬ欺の単なる人道上の援助行為を行った場合にも訴追免除がなされないことから、同じく友愛の精神に反している

 

と主張しました。

 

【憲法院の判断】

 

これに対して、憲法院は以下の通り判断しました。

 

**

 

憲法2条により、フランスの標語は『自由・平等・博愛』である。また、72−3条においても、『共和国は、自由・平等・博愛という共通の理想のもとに、フランス人民のなかに海外住民が存在することを承認する』としている。したがって、友愛は憲法的価値を持つ原理である

 

 

友愛のアレゴリー

 

La Fraternité

Anonyme , Graveur
Chéreau, Jacques-Simon (fils) , Marchand d'estampes

Après 1792

Musée Carnavalet, Histoire de Paris

 

 

この友愛の原理から、その他人が合法的にフランス国内に滞在できるか否かを問わず、人道的目的のために他人を助ける自由が帰結される。

 

但し、どのような場合であれ、外国人に絶対的一般的な入国及び滞在の権利が憲法上保障されているわけではない。また、不法滞在との戦いはそれ自体憲法的目的を有する公序を保障するために必要である。

 

L.622−4条3項の訴追免除の規定は、滞在を対象とし、外国人の不法入国及び交通についても援助を提供することを罰しているが、入国と異なり交通の援助は新たに不法な状態を作り出すことにはならないしたがって、滞在許可のない外国人の国内の交通に対して、人道的な観点からの援助を行うことも罰する法律は、友愛の原理と公序の保障との間の均衡のとれた調和を図ったものとは言えず、刑の免除の場合を「不法滞在」に限ったL.622−4条は憲法に違反する。

 

さらにL.622−4条が、免除の対象を無償の「法的助言あるいは対象となる外国人の尊厳ある然るべき生活を保障するためのレストランでの食事の提供、宿泊、医療の提供、外国人の尊厳と身体の完全性をまもるために提供された援助」に限っていることについては、この中では、目的のいかんを問わず訴追の免除の対象となるのは法的助言だけであり、他の援助行為については、外国人の尊厳ある然るべき生活を保障するということを目的とすることが条件となる。友愛の原理からは、この訴追の免除規定は、同じ目的を条件とする限り、その他の援助行為についても適用されると解釈されるべきである。

 

したがって、このことを条件として、L.622−4条自体は憲法に違反するものではないと判断する。

 

憲法違反と宣言された条項は2018年12月1日以降廃止される。

本判決公表の日以降廃止の日までは、L.622−4条による訴追免除は、外国人のフランス国内通行の際に人道目的で行われる援助の場合にも適用されるものとする。

 

 

***

 

この判決により、「自由・平等・友愛」のすべてが憲法上の価値を持ち、裁判規範となることが明らかにされました。

 

この結果、L.622−4条による訴追免除は、滞在と通行の場合にも広げられ、対象となる行為は、無償かつ「法的上限あるいは法的、言語的福祉的援助その他の人道的目的のみを目的とした援助」に適用されることとなりました(2018年9月10日改正)。

 

ホスピタリティの精神は文化的な文脈を超えて適用可能かどうかの検討は重要かも知れません。

 

 

 

新司法大臣の就任スピーチ

  • 2020.07.08 Wednesday
  • 22:33

新しく司法大臣に就任したDupond-Moretti弁護士の2020年7月7日のスピーチの翻訳。弁護士は歓迎し、司法官(検察官裁判官)の組合などからは「宣戦布告」と言われた人事ですが、就任スピーチが素晴らしいので備忘のため訳出。justiceを司法とするとニュアンスが損なわれるので、justiceのままにしています。

 

フランスの司法がどのように変わっていくのかどうか期待して見ていきたいと思います。

 

***

 

本日国璽を引き継ぎました。かつての国王大権に由来するこの省の鍵というべきものです。

時々そのように言われますが、ここは戦争ための省ではありません。自由の省です。

私は、これまで愛してきた、そしてこれからも愛し続ける弁護士の仕事をいったん休止します。

 

この36年間私はフランス全国の裁判所に行きました。私はテクノクラートとして司法justiceを知っているわけではありません。私はそれを人間として、私の内心の奥底から、そして、官能的・肉体的にも知り尽くしています。

 

私はjusticeの最高の部分と最悪の部分両方を見てきました。大きな被害を受けた被害者の悲しみ、不当にも有罪とされた人の絶望。

 

私は素晴らしい司法官(裁判官・検察官たち)と出会ってきました。彼らとは友好的ないい関係を持ってきました。彼らはヒューマニズムにあふれ、そして独立し、そして対立当事者の議論を何よりも大切にします。彼らはいくつかの言葉で、私たちとjusticeを和解させることができます。これこそカミュが言っていたような、魂の熱というものです。

 

私は、司法官や書記官がどのようにひどい状況で業務を行わなければならないかということを熟知しています。

 

私は政治家ではありません。

私は一般の社会société civileから、あえて言うのであれば刑事の社会société pénaleから来ました。

もう少し働かなくてはいけないとしても、あと少しで定年退職するはずでした。

しかし、私は、共和国大統領という勇気ある男性のために立ち上がることにしました。大統領は私たちの国のjusticeを改善することを望んでいます。

 

フランスは、欧州人権裁判所から最も多くの非難を受けている国の一つです。その避難の理由は、公平な裁判が行われていないということです。

 

私は誰に対しても戦いを挑みません。私は皆さんと一緒に、素晴らしいものを守り、良くないものを変えていきたい。

 

対話と協議の中で、司法官の制度を社会に対しより開かれたものにしていきたい。

私は何よりも必要だと感じているもの、justiceの独立を何よりも進めていきたい。

次の両院合同会議(憲法改正の際に上院下院の両議員がヴェルサイユに一同に会する会議)の際に、長く待ち望まれてきた検察官の独立を提示する初めての司法大臣になるでしょう。

 

私は予備捜査が予備捜査の枠を超えないように目を光らせていきます。司法の効率と対立当事者の主張を戦わせることの間にちょうどいいバランスを見つけていかなくてはならない。主張を戦わせることがなければ、justiceとはその存在意義を失います。

 

私はまた、無罪推定の原則と捜査の秘密という課題にも取り組んでいきたい。

そのための検討には、ジャーナリストの皆さんの参加も必要です。

正義は道の中で言い渡されるのではなく、ソーシャルネットワーク上でなされるものでもありません。今の人々の名誉も昔の人々のもの以上に軽視されることがあってはなりません。

 

これは大統領の意思でもありますが、私はjusticeをより市民に近いものとしたい。犯罪被害者に対する対応について直ちに共和国検事正の皆さんたちと協議を行う予定です。

 

私は前任者の取り組んできた、生殖補助医療(PMA)、欧州検察局、1945年のオルドナンス(少年重罪事件に関する政令)について取り組んでいきます。

 

私は弁護士の守秘義務を再度取り戻していきます。

 

身体拘束を受けている人々のひどい状況についても忘れていません。受刑者そして刑事収容施設で働く人々に思いを馳せます。私の大臣として一番初めの訪問は刑事収容施設になります。

 

私はすべての司法のファミリーである、司法官、書記官、法的規律を受ける職業(弁護士や公証人)の代表者と対話と議論をすることを心待ちにしています。主張を戦わせることは私がこれまでの間なによりも大事にしてきたことです。

 

私は謙虚さをもってこの職務を遂行しますが、これからは行動に移らなければなりません。

 

最後に私自身のことに触れます。

私の母は貧困を逃れるために、この偉大な国に来ました。彼女は自分の意思でフランス人となり、ラ・マルセイエーズに涙します。私は混血の大臣です。私の省は、人種差別を許さない、そして人権のための省となります。

 

 

体温と個人情報の保護―欧州一般データ保護規則と行政裁判所

  • 2020.07.04 Saturday
  • 22:34

この間もたくさんコンセイユデタ(行政最高裁)の判決が出されていますが、こちらは学校や市役所に入る際に体温測定カメラで行われる体温測定の違法性が争われたものです。カメラの前を通ると、体温が色で表示されるよく見るような機械のようです。

 

違法性の内容は、こうしたカメラの利用による体温測定が、EUのデータ保護規則で2018年から施行されている、個人データの保護と利用に関するルールである欧州一般データ保護規則(GDPR, フランス語だとRGPD)に違反するかどうかという点にあります。

 

 

 

 

今回はコンセイユデタのHPもおしゃれな写真なし

 

https://www.conseil-etat.fr/ressources/decisions-contentieuses/dernieres-decisions-importantes/conseil-d-etat-26-juin-2020-cameras-thermiques-a-lisses

 

 

コンセイユデタは、2020年6月26日、Lissesという市により行われる機械を使った体温測定は、GDPRの要請を無視するものであり、法的根拠なく行っていることから、「基本的自由を侵害し著しく違法」だと判断しました。

 

まとめると、

 

ー 体温測定カメラによって人の体温を測定し、その体温と平均的な体温との差を機械で測定することは、目の前にいる人という特定可能な個人のデータを機械的に取り扱うことにより、GDPRの適用対象となる。

 

ー 体温は健康に関するデータであり、その取得は適切な立法あるいは個人の承諾が必要である。

 

ー しかし、立法はないし、体温を測らないと学校に入れないという条件の下で取得された同意は自由な同意でないから有効ではない。

 

ー しかも、カメラを導入する前にそれがどのように人の権利を侵害するかの影響評価も行っていない。

 

ー したがって、体温測定カメラによるこのような体温測定は基本的自由を侵害する著しい違法を有するから、その利用を市はとりやめなくてはならない、

 

というものです。

 

 

もとより、GDPRは個人データは、人々の尊厳や基本的人権の問題であると捉えています。

この部分がGDPRの長大な文書で冒頭に説明されています。

 

この点日本の個人情報保護法と大きく異なるところです。

ネットで簡単に見つかる範囲のGDPRの和訳ではこの序文の部分は省略されてしまっているので、データの取扱いの詳しいルールだけになっていて、残念です。本来はこの個人データと基本的権利の問題を読み込まないと、GDPRに関連する裁判例の意味も十分に読み込めないと思います。

 

この判決でもあくまでも、人権という観点からGDPRの求める個人データの適切な取り扱いがなされているか否かが判断され、体温測定器による体温測定は人の基本的自由を侵害するものであるとして、法律の根拠なく行政が行うことは違法と判断しました。

 

このような体温測定って日本で結構どこでも行われているし、例えば最近よく行く衆議院議員会館の入り口でも体温図られているんですが、たぶん体温図るのを拒否すると会館に入れてもらえない。そのことを考えると、以下の判決が示すフランスの基準に基づくと、議員会館側の扱いも裁判所から違法の判断を受けて、適切な立法をしない限り体温測定が差し止められるんだろうと思います。

 

コロナ対策とはいえ、国や行政が一方的に個人の健康状態に踏み込んではいけないこと、そのためにはきちんとした段取り(立法)を行う必要があるという考えに、法治国家の徹底を見ます。また、個人の尊厳(まさにGDPRが目指すもの)を、立法という形すら取らない国家意思よりも重視するという点において、裁判所が個人の権利の保護を徹底していることを感じ取ります。

 

【事案】

 

Lisses市の市役所に来る人の体温を測るための計測器を設置していたことに対して、人権同盟La ligue des droits de l’HommeというNGOが、体温測定器の設置は、GDPR上問題が生じるとして、コンセイユデタに対し、その撤去を求めた事例。

 

一審のヴェルサイユ行政裁判所はこの申立てを棄却したため、コンセイユデタに上告がされました。

 

これに対する上告審であるコンセイユデタの2020年6月26日の判決の内容は以下のとおりです。

 

 

【訴えの利益】

 

体温計測カメラが市民が利用する公共の施設に設置されているということ、またその利用はセンシティブ情報の利用に該当するとも考えられることから、この計測器の設置は人権同盟が擁護する利益を侵害する恐れがあるため、人権同盟による訴えの利益は認められる。

 

いつものことですが、訴えの利益がとても広く認められています。

 

 

【適用対象となる条項】

 

これは、この事案を審理するために、コンセイユデタが引用するGDPRの条項です。

ここでも引用しておきます。

 

GDPR2条

1.本規則は、その全部又は一部が自動的な手段による個人データの取扱いに対し、並びに、自動的な手段以外 の方法による個人データの取扱いであって、ファイリングシステムの一部を構成するもの、又は、ファイリン グシステムの一部として構成することが予定されているものに対し、適用される。

 

GDPR4条

1.「個人データ」とは、識別された自然人又は識別可能な自然人(「データ主体」)に関する情報を意味する。 識別可能な自然人とは、特に、氏名、識別番号、位置データ、オンライン識別子のような識別子を参照することによって、又は、当該自然人の身体的、生理的、遺伝的、精神的、経済的、文化的又は社会的な同一性を示す一つ又は複数の要素を参照することによって、直接的又は間接的に、識別されうる者をいう。

 

2.「取扱い」とは、自動的な手段によるか否かを問わず、収集、記録、編集、構成、記録保存、修正若しく は変更、検索、参照、使用、送信による開示、配布、又は、それら以外に利用可能なものとすること、整列若 しくは結合、制限、消去若しくは破壊のような、個人データ若しくは一群の個人データに実施される業務遂行 又は一群の業務遂行を意味する。

 

GDPR9条

1.人種的若しくは民族的な出自、政治的な意見、宗教上若しくは思想上の信条、又は、労働組合への加入を明 らかにする個人データの取扱い、並びに、遺伝子データ、自然人を一意に識別することを目的とする生体デー タ、健康に関するデータ、又は、自然人の性生活若しくは性的指向に関するデータの取扱いは、禁止される。

(a)データ主体が、一つ又は複数の特定された目的のためのその個人データの取扱いに関し、明確な同意を与えた場合

 

(g) 求められる目的と比例的であり、データ保護の権利の本質的部分を尊重し、また、データ主体の基本的な権利及び利益の安全性を確保するための適切かつ個別の措置を定めるEU 法又は加盟国の国内法に基 づき、重要な公共の利益を理由とする取扱いが必要となる場合。

 

(h) EU 法又は加盟国の国内法に基づき、又は、医療専門家との契約により、かつ、第3 項に定める条件及び保護措置に従い、予防医学若しくは産業医学の目的のために、労働者の業務遂行能力の評価、医療上の 診断、医療若しくは社会福祉又は治療の提供、又は、医療制度若しくは社会福祉制度及びそのサービス提 供の管理のために取扱いが必要となる場合。

 

GDPR7条

1. 取扱いが同意に基づく場合、管理者は、データ主体が自己の個人データの取扱いに同意していることを証明 きるようにしなければならない。

 

2. 別の事項とも関係する書面上の宣言の中でデータ主体の同意が与えられる場合、その同意の要求は、別の事 項と明確に区別でき、理解しやすく容易にアクセスできる方法で、明確かつ平易な文言を用いて、表示されな ければならない。そのような書面上の宣言中の本規則の違反行為を構成する部分は、いかなる部分についても 拘束力がない。

 

3. データ主体は、自己の同意を、いつでも、撤回する権利を有する。同意の撤回は、その撤回前の同意に基づく取扱いの適法性に影響を与えない。データ主体は、同意を与える前に、そのことについて情報提供を受ける ものとしなければならない。同意の撤回は、同意を与えるのと同じように、容易なものでなければならない。

 

4. 同意が自由に与えられたか否かを判断する場合、特に、サービスの提供を含め、当該契約の履行に必要のない個人データの取扱いの同意を契約の履行の条件としているか否かについて、最大限の考慮が払われなければ ならない。

 

GDPR35条

1.取扱いの性質、範囲、過程及び目的を考慮に入れた上で、特に新たな技術を用いるような種類の取扱いが、 自然人の権利及び自由に対する高いリスクを発生させるおそれがある場合、管理者は、その取扱いの開始前に、 予定している取扱業務の個人データの保護に対する影響についての評価を行わなければならない。類似の高度 のリスクを示す一連の類似する取扱業務は、単一の評価の対象とすることができる。

 

【体温測定器についての検討】

 

体温測定カメラが単に市民の利用に供されるだけで、技術者などの第三者の関与なく、その場で希望者に体温というデータを提供するだけであり、その利用の有無がその施設の利用の可否を決めるものではなく、また、その設置者も体温という情報にアクセスできない場合には、個人データの収集とはいえず、したがって、そのようなカメラはGDPRにいう情報の取扱いには該当しない。

 

これに対し、体温が登録されないとしても、その利用方法を決定する人により取得され、そのデータに基づいて何らかの対応をとることが決定される場合には、体温測定カメラはGDPR4条にいうデータの取扱い(情報の収集と利用)を行うものとなる。

 

このデータの取扱いは、GDPR第2条に定める定義に該当する場合には、GDPRの適用対象となる。また、その取扱いが自動化されている場合も同様である。したがって、単に機器を使って体温を測定することは、それが単に温度を測るということを目的にするだけでは、自動化された取扱いとはならない。しかし、もし計測した体温と平均体温との差を知らせることは、その前提として、測定された体温が平均値と比較されるという事実を踏まえるものであるから、これはGDPRの適用対象となる情報の取扱いの自動化に該当する。

そしてこの取扱いが、特定可能な個人を対象とし、かつ特定の疾患に関し一定の基準をもって健康状況を評価するものである以上は、健康情報に関するデータに関するものとなる。

 

体温というデータだけから個人の特定はできないとしても、体温を測るときにどの個人の体温を測るかがわかっている以上、GDPR26条の法意に鑑み、個人の特定可能な情報と考える。

 

さらにGDPR35条に照らして、情報がセンシティブなものであるか否か、またその私生活に対する影響という観点から検討すると、過去にあまり使用されていなかった機器を用い、その公衆衛生上の有用性に議論があることに鑑みて、このようなデータの取扱いは、実施の条件とリスクを明確にし、それがもたらす高いリスクに対する対策を決定することを可能とする影響評価を行った後でなければ実施することができないというべきである。

 

GDPR9条に基づき、このような健康状態に関する個人データの取扱いは、体温測定カメラにおいて行われる場合、その取扱いが公共の利益により正当化される法律であり、必要な保護を明確にしたものに基づいて行われる以外、あるいは法的根拠に基づき、法律上の守秘義務を有する医療従事者により行われる疾病予防政策の中で実施される場合以外禁止される。この後者の場合、当事者の同意は、GDPR7条に鑑みて、自由、明確、特定的、いつでも撤回可能そしてトレースできることである必要があり、また、対象者が未成年である場合には、GDPR8条に基づく保護の要件を満たす必要がある。

 

 

【本件に関する適用】

 

裁判所が、当事者の主張により判断をすると、

 

― 市による体温測定カメラの設置は、法により、体温測定カメラを使用することを規律し、その実施を必要とする公共の利益を明確にするというGDPR9条2gが求める条件を満たしていない。

 

同様に、9条2hにおいて求められる条件である、公衆衛生政策による取扱いの必要性及びその取扱いを実施するための公衆衛生政策を実施するための法的根拠もない。9条3項の条件である守秘義務を負う医療従事者による処理という要請も満たされていない。

 

― 市は、当事者の同意があると主張するが、その同意がGDPR7条及び8条の条件を満たしているとは言えない。

 

市は、各家庭に対し、子供たちが学校に戻るための条件として同意書の書式を配布しているというが、実際にその同意書上の同意が、情報の処理を実施する前に取得され、保存され、確認されたことの証明はない。

 

また、その同意は、体温に関する情報処理を特定して与えられたものではないし、同意書には、情報主体の情報へのアクセス権や修正権、異議の申立権や同意の撤回権の説明はない。

さらに、カメラで体温を測ることが学校に入ることの条件とされている時点において、その同意は自由に与えられたものであるといえない。

 

したがって、個人の健康状態に関する情報の処理による基本的自由の侵害は著しく違法である。事前に影響評価を行っていれば、体温測定カメラによる体温測定のリスクを認識することができたはずであり、したがって、そのような分析をしていない時点において、健康状態の情報の処理は違法なものとなる。

 

 

【判決主文】

 

1条:2020年5月22日のヴェルサイユ行政裁判所の決定を取り消す。

 

2条:Lisses市に対し、市の学校における体温測定器の使用の終了を命じる。

 

**

 

日本ではたかが体温ということで、携帯式の体温測定器での体温を測られることなどについて疑問を持つことはあまりないかも知れません。ただ、よくよく考えると、個人の権利という観点からは、フランスの裁判所のいうような論点があることもまた確実です。

 

たかが体温でもここまでの議論があり得るということからすると、ここで見てくるのは、目的が何であれ尊重されなければならない個人の自由と尊厳というものがあり、それを制約するためには、国は、大変でも立法を行わなくてはならないという責務を負っているということです。たかが体温でも、国が個人から情報を取得するには、どんなに手間でもきちんと法律を作って個人の権利が侵害されないようにしなくてはならないということを明らかに示します。

 

小さい事柄の積み重ねが、自由と制約の線引きを明確にするのでしょう。立法もなく健康状態を確認されてしまう曖昧な日本の状況も一度考えられるべきかも知れません。

 

 

 

サッカーと行政最高裁

  • 2020.06.24 Wednesday
  • 18:25

 

 

行政裁判がどこまで及ぶかという意味で興味深い判決です。

コロナ禍の中のサッカーに関する2020年6月9日と11日のコンセイユデタ(行政最高裁)判決です。

 

【プロリーグ】

 

コロナウイルスの感染拡大で、フランスでは、3月12日に一部リーグのリーグ・アンが中断し、フランス・フットボール・リー(LFP)は、4月30日に、2019−2020年のシーズンを打ち切ることを決めました。その上で、その時点までの戦績に基づき、リーグ・アンの残留チームと二部リーグへの降格チーム、二部リーグからの昇格チームが決定されました。

 

これを受けて、リヨン、アミアン、トゥールーズのサッカーチームが、コンセイユデタ(行政最高裁)に対し、訴えを提起し、シーズン打ち切りの差し止めと降格の差し止めを求めたのがこの事件です。

 

結論としては以下のとおり、シーズン打ち切りは違法ではないが、リーグ降格について仮とは言え差止命令を出しました。

 

https://www.conseil-etat.fr/actualites/actualites/ligue-1-de-football-le-juge-des-referes-du-conseil-d-etat-valide-la-fin-de-la-saison-et-le-classement-mais-suspend-les-relegations

 

 

 

コンセイユデタのHPでの判例紹介で使われている写真がいつもおしゃれ。

 

 

 

そもそもなぜサッカーチームが行政裁判?というところですが、LFPは、私的な団体でそれ自体行政機関ではありません。

 

この点に関し、行政最高裁は、LFPは、独占的にフランス国内における試合を組織するミッションを託されているのであるから(スポーツ法典L.131−14条に基づく)、これは、立法者が行政的性格をもつ公的サービスの実施をLFPに託したものであると考えられるとしました。その上で、シーズンを打ち切るというLFPの理事会での決定は、行政命令的性格を有するとして、行政訴訟法典R311−1条に基づき、この決定の取消を求める訴えは、行政最高裁(コンセイユデタ)を一審かつ最終審として申し立てることができるとしました。

 

なので、LFPの決定は、行政裁判の対象となり、最高裁が審理するということで申立てが受理されました。

 

下のアマチュア選手権に関するフランスサッカー連盟の判断を対象とする裁判も同様の理由で、訴えをすること自体認められ血ます。

 

その上で、中身については、コンセイユデタは以下のとおり判断しました。

 

 

― シーズン打ち切りに対して

 

首相と厚生大臣が4月30日に、公衆衛生の観点から、団体競技を再開することはできないと判断したこと、また、この時点においてUEFAが各国サッカーリーグに対して、2019−2020のシーズンは2020年8月30日までに終わらせるように通告していたことを考慮すると、関係当事者の健康を守るとともに、2020−2021のシーズンを準備するための時間的余裕を持つためシーズンの打ち切りを決定したLFP理事会の決議には、違法性はない、と結論づけました。

 

― 降格について

 

LFPは、シーズン打ち切りに伴い、リーグ・アンの最下位であったアミアンとトゥールーズを降格としたことは違法であると判断しました。

 

その理由としては、リーグ・アンのチーム数を20とするというのは、フランスサッカー連盟とLFPとの間で締結された協定に基づくものであるが、その協定は6月30日をもって失効し、新たな協定が締結されなければならないことから、この失効が予定されている協定に基づいて、次のシーズンについてこの2チームを下部リーグにすることはできないと判断しました。

 

その上で、裁判所はLFPに対して、2020−2021のシーズンについて、リーグ・アンの構成をどのようにするのかということをフランスサッカー連盟との間で協議することを命じました。

 

 

【アマチュア選手権】

 

他方、アマチュア・サッカーの団体からも、フランスサッカー連盟がアマチュア選手権を打ち切ったことに関し申立てが行われ、コンセイユデタ(行政最高裁)は、6月11日に判決を出しています。

 

https://www.conseil-etat.fr/actualites/actualites/championnats-de-football-amateurs

 

 

 

 

 

最高裁は、選手権の打ち切りに関しては、定款にも規則にも規定のないことについては、フランスサッカー連盟は自ら判断をすることができ、コロナウイルス感染拡大の中、再開の見通しのたたない選手権を打ち切ったことは違法ではないと判断しました。

 

また、降格のルールについても、このような事態に対応する規定は事前にないことから、その対応はフランスサッカー連盟が取ることができること、フランスサッカー連盟に代わり裁判所が降格・昇格を決定することができないことから、降格の方法が顕著に違法でないかどうかを裁判所が確認するにとどまる、としました。

 

その上で、各地で争われるアマチュア・リーグや選手権の複雑さから、中断の時点の戦績を基に昇格・降格をフランスサッカー連盟が決定したことに顕著な違法はないとして、申立てを棄却しました。

リーグ・アンとの違いは、将来執行するルールに則ったか、ルールがない中で合理的と考えられる方法によったかどうかというのが違いでしょうか。

 

なお、申立人である地方リーグの団体は、フランスサッカー連盟の決定が「サッカーの優越する利益intérêt supérieur du football 」という言葉を使うのですが、具体的にはどのような意味か気になります。

裁判所は、フランスサッカー連盟の決定は「サッカーの優越する利益」に反しないとしていますが、意味を知りたいものです。

 

 

***

 

法や裁判所による問題の解決がサッカーのシーズンやチームの降格などにも及ぶというのは、日本ではあまり想像がつかず、法が社会のどこまで及ぶ必要があるのかということを考えさせられます。

 

そして、このようなケースを見ると、日本でももっと法が及ぶ分野があってもいいのではないかと思います。

(そういうと訴訟社会は…という意見もありますが、フランスでは訴訟は日本より多いですが、特段すごい訴訟社会ということではありません。)

 

ここで法が及ぶ分野というのは、ー詑遼 陛事者の持つ権利が多い)、⊆蠡核 淵侫薀鵐垢両豺腓任蝋く訴えを認める訴訟法の存在)、K_鮗瓠覆海虜枷修任蓮屮好檗璽弔諒薪」という言葉も出てきます。その他、原告適格を広く認めるという裁判所の姿勢)すべての及んできます。

日本はこの3つとも足りていないなあというのが実感です。

 

日本人は権利意識が低いというような言い方もしますが、´↓が足りていない状況では裁判をやるだけ無駄ですし、弁護士も裁判を進められません。

「日本人の法意識」などの議論もありますが、実体としては日本人の意識以前に、まずは法律の整備と法解釈にあたっての裁判官の意識を変えることから始めないといけないなあと思います。

もちろん、法律作るのも、裁判官も日本人ではありますが、ユーザー側の意識だけを問題にしても意味がないと思うのです。

 

サッカーに話を戻すと、去年は、元日本代表監督だったハリルホジッチ監督の代理人として民事訴訟を行いました。

これは、同監督の解任に伴って行われたJFA会長の記者会見が名誉毀損になるとして、しかし損害賠償としては1円を請求したというものでした。

行政裁判所と行政訴訟という観点からスポーツと裁判について改めて考えさせられます。。。

緊急事態宣言終了のための法案審査

  • 2020.06.13 Saturday
  • 14:46

 

 

フランスは7月10日で公衆衛生に関する緊急事態宣言が終了します。

緊急事態宣言が延長されないことについては、大統領がすでに明確にしています。

 

日本では、緊急事態宣言終了後であり、何らの法的根拠がないにもかかわらず、「ステップ1」「ステップ2」等が設定されて、営業自粛等が事実上強制され、さらに論理的整合性も科学的根拠もあいまいなままに「東京アラート」が解除されるとともに、「ステップ3」に入ったようです。

 

緊急事態宣言が終了したからといって、世の中が元通りになるわけではないので、その後をどうするかということはやはり問題になります。

 

方法論として、緊急事態宣言の発令やその内容に加え、出口をどうするかという事例においても、法的根拠はともかく個々人の自己責任で進めるのか、あるいは立法を行い、権利救済の観点を明確化した上で行っていくのかという比較の例の一つになると思います。

 

以下で紹介するコンセイユデタの意見は、緊急事態宣言解除後の対応に関する立法をすること自体の必要性を認めつつも、具体的な措置についての必要性を具体的に判断し、不要と考えられるものについては、法案への記載に反対しています。

 

 

【緊急事態宣言終了後の対応に関する政府法律提案】

 

 

 

 

 

フランスで7月11日以降の対応を準備するための新しい法案が政府の方から準備されました。

 

これはあくまでも緊急事態宣言を延長するのでなく、事後対応を内容とするものです。

 

これは、緊急事態宣言終了後4か月の間、もしくは再度同じ問題が生じた場合(いわゆる「第二波」)の場合に、以下の権限を首相に与えるというものです。

 

なお、これらの権限はすでに2020年5月11日の法改正による改正後の公衆衛生法典L.3131−15条(公衆衛生に関する緊急事態宣言に関する条項)により首相に対し認められていた権限です(緊急事態宣言後に厚生大臣の命令により必要な隔離措置をとることができることは、すでに、公衆衛生法典L.3131−1条、L.3131−15条により可能となっています。)

 

  • 人や自動車の往来を制限し、あるいは禁止すること、公共交通機関の利用を制限し、あるいはその利用の条件を定めること

 

  • 多くの人が集まる場所や集会所などの一時的閉鎖、再開に関するコントロール、利用条件の設定(但し生活必需品や生活に必要なサービスへのアクセスは保障)

 

  • 公共の場所での集合や集会の制限や禁止

 

  • 厚生大臣が必要な措置をとること

 

  • 改正法を公衆衛生法典に挿入し、その適用は、2021年4月1日までとすること

 

 

【コンセイユデタの意見】

 

 

政府提出法案は事前にコンセイユデタの審査にかけられることから、2020年6月5日に政府からコンセイユデタに法案が提出され、6月9日にコンセイユデタから意見が出されました。

 

この意見の後、法案は修正をされ、6月10日に閣議決定の後、国会に提出され、現在審議がなされています。

 

 

 

政府提出法案に関する審議がなされるコンセイユデタの部屋

 

https://www.conseil-etat.fr/actualites/la-mediatheque/visite-du-conseil-d-etat-au-palais-royal/la-salle-de-l-assemblee-generale

 

 

コンセイユデタの意見は以下のとおりです。

 

  • 改正法を公衆衛生法典の中に挿入することは反対

 

確かに公衆衛生法典には、2020年3月23日の法律及び同年5月11日の法律により、公衆衛生に関する緊急事態宣言に関する条項が存在する。

 

しかしながら、今回の政府法律提出法案は、に関する特殊な緊急事態宣言の解除後の対応を対象とするものであり、一般的な規定とはなり得ないことから、法典自体に新しい条項を設けることについては反対である(つまり、新しい法律はそれだけ単独のものとして存在しなければならない。)

 

  • 緊急事態宣言の延長ではなく、解除後の対応に関する立法を行うことに賛成

 

状況が改善されている現在、解除後の対応に関する立法を行うことは、緊急事態宣言の延長を行うことよりも、均衡のとれた判断である。

 

他方、公衆衛生法典条は、緊急事態宣言解除後に一定の権限を厚生大臣に与えているが、これは政府が取る必要があるかも知れない措置の法的根拠とするには不十分である。

 

コンセイユデタは、政府提出法案が以下の点を予定していることを指摘しておく。

 

・その時点及び場所におけるリスクに比して、取られる措置が厳格に均衡を有しなければならないとされていること

・必要がなくなったら直ちに措置を終了させること

・個別にとられた措置についてはその地域を管轄する共和国検事正に報告されること

 

コンセイユデタはまた、取られた措置がリスクに対し、必要、適合的でありかつ均衡を有するものであることの統制を行政裁判所が判断するものであることを指摘する。

 

  • 第二波への適用について反対

 

コンセイユデタは、政府提出法案が予定する措置が、2020年11月11日から2021年4月1日までの間にさらに同様の問題が生じたときにも適用されるとしている点について、これを法案の中で維持しないよう提案する。

 

同じ問題の「発生」という文言も曖昧であり、もし、今回の緊急事態宣言を必要としたような事態の発生を予定しているのであれば、すでに公衆衛生法典L.3131−15条以下で定められている規定を活用することで十分である。そして、もしその条項が不十分であるのであれば、政府は緊急事態宣言を新たに発令し(一か月以上の延長には国会による法律が必要)、必要な措置をとることができる。

 

したがって、政府提出法案が予定する首相の特別な権限を2020年11月11日以降に同じ問題が生じたときに適用できるとする部分は不必要。

 

これを受けて、政府は条項を削除し、国会に法案を提出しました。

緊急事態宣言を延長する法律に対する憲法院の判断

  • 2020.05.25 Monday
  • 01:02

 

 

フランスは緊急事態が2020年5月11日の法律で、2020年7月10日まで延長されました。

 

延長は法律でのみ行われるので、まず法案が作成され、それがコンセイユデタでの審理を経たのち(以前の記事http://ayanokanezuka.jugem.jp/?page=1&cid=7)、両院で可決されました。そしてその後、改めて法律の施行前に憲法院に合憲性の審査の負託が行われました。当初の申立てはマクロン大統領から行われました(そのほか、上院議長、上院の60名以上の議員、下院の60名以上の議員も申立て)。

 

 

 

 

少しずつ状況も落ち着いている今日この頃ですが、そうであるだけいっそう、権利制約に観点からの審査がしっかり行われました。

 

憲法院の判断を自分の今後の参考のためも含めてまとめておきたいと思います。

 

1.過失犯規定について

 

新法は、「地方行政や使用者」などの意思や政策決定者に関しての過失の有無については、その職務や地位の性質など、公衆衛生に関する緊急事態の基礎となった状況の中で行為者が有していた能力、権限、手段に鑑みて、刑法121−3条(過失犯規定)は適用される、としました。

 

今回すでに政府に対しては業務上過失致死などの内容で、60件以上の刑事告訴がなされています。

 

このような状況の中で、今後責任ある地位にある人々の刑事責任がどのように問われるのかが問題になります。

 

そこで、新法は過失犯規定の中で、その人が具体的な状況下で具体的にどのような権限等を有していたかということを過失犯の成立にあたって判断することを求めています。

 

これについては、行政や使用者などについて特別な定めを置くものであり、法の下の平等に反するという訴えもなされました。憲法院は、この新しい規定は、すでにある刑法の規定を解釈するだけのものであり、新しい人のカテゴリーを作るものではないと判断しました。

 

日本ではあまり問題にならない、政策決定者や責任者の責任追及についてですが、法理論的には十分あり得る解釈だと思います。

 

 

2.緊急事態宣言について

 

様々な生活面での制約を伴う緊急事態宣言は、国民の健康を守ることを目的とするものである一方、フランス共和国の領域で暮らす人々に認められる権利と自由と調和が図られなければならないとしています。

 

そこで重要なのは、1789年人権宣言上の権利です。

 

 

第2条(政治的結合の目的と権利の種類)

 あらゆる政治的結合の目的は、人の、時効によって消滅することのない自然的な諸権利の保全にある

 これらの諸権利とは、自由、所有、安全および圧制への抵抗である。

 

第4条(自由の定義、権利行使の限界)

 自由とは、他人を害しないすべてのことをなしうることにある。したがって、各人の自然的諸権利の行使は、社会の他の構成員にこれらと同一の権利の享受を確保すること以外の限界をもたない。これらの限界は、法律によらなければ定められない。

 

第11条(表現の自由)

 思想および意見の自由な伝達は、人の最も貴重な権利の一つである。したがって、すべての市民は、法律が定める場合にその自由の濫用について責任を負うほかは、自由に、話し、書き、印刷をすることができる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

より具体的には、

 

・2条と4条により保護される往来の自由

 

・2条より保護される私生活の尊重

 

・4条より保護される営業の自由

 

・11条より保護される集団的意見表明の自由

 

が侵害される権利とされます。

 

緊急事態宣言の延長によって、一定の行動の自由が制約されること、他方で多くの人が集まることのできる場所を一時的に閉鎖することを命じることに関する具体的措置は、これらの重要な権利や価値の間で調和を図っているといえるため、憲法上問題はないとしました。

 

 

3.待機と隔離措置について:14日間の待機及び隔離措置

 

感染の可能性がある人の14日間の自宅等での待機と、14日間の隔離措置については、憲法院は、何人も恣意的に拘禁されてはならないと定める憲法66条に鑑み、必要性のない厳格な措置により自由が阻害されてはならず、追及されている目的に比べて、その自由の侵害は、適合的であり、必要であり、かつ比例的でなければならないとしました。

 

その上で、憲法院は、自宅待機や隔離措置をとること自体は、その対象者が限定されており、手続きも医師の診断書を要求することから、法は、必要な場合に限り行動の自由を制約しているため、憲法に違反しないとしました。

 

他方で、その措置に関するコントロールについては、可能な限り早い段階で、裁判官の関与がある場合に限り、権利が尊重されているとみなされるという原則を憲法院は改めて指摘しました。

 

現在の法律においては、自宅待機や隔離措置の14日間を超えた延長は裁判官の許可を要請していますが、その他の場合においては、裁判官の関与が明確にされていません(なお、自宅待機や隔離措置の対象となった人はいつでも裁判官に対し異議の申立てをすることができます。)。したがって、裁判官の関与なしに、一日あたり12時間以上の自宅待機や隔離措置を伴う延長は認められないと解釈するべきであると憲法院は指摘し、そのような解釈の留保をつける範囲において、法律は憲法に違反しないと判断しました。

 

 

4.トラッキングについて

 

感染拡大を阻止するための濃厚接触通知アプリケーションの導入に関し、憲法院はまず、憲法上の要請として、個人情報の収集や、登録、移転等は一般の利益により正当化されなければならず、その目的のために適合的であり比例的でなければならないということを改めて指摘します。また、とりわけ医療情報に対しては極めて高度な注意が払われなければならないとします。

 

この通知アプリは当事者及び濃厚接触者に関する情報を当事者の同意なしに収集するものであり、憲法上の私生活の保護の権利を制約するものであるが、感染防止という目的のために必要最小限のものでなければならないとする中で、できる限り行政が詳細に手続きを定め、情報の処理に関して業務委託を行う場合にはその委託先を十分に監督するよう要請をし、そのようなことが確保されることを前提に、通知アプリの導入に関する条項は憲法に違反しないとします。しかしながら、医療関係者や保険会社を超えて、ソーシャルワーカーに対する情報の共有は、感染拡大防止に直結するものではないため、憲法上認められない、としました。

 

***

 

こうして、2020年5月11日の法律による緊急事態における権利の制約の審査は、3月23日の時点よりも細かくなされ、法案提出前のコンセイユデタの審査に続き、憲法院でも厳格な審査がなされました。

 

緊急事態における権利制約はどこまで許されるかという審査・アプローチがしっかり行われています。

 

日本では結局明日からの緊急事態宣言解除にあたっても、この点うやむやなままで来てしまい、このままうやむやに収束していきそうです。

 

最後に、5月11日の法律と憲法院の判決に関する弁護士の反応が興味深かったのでメモしておきます。

 

===

 

5月19日にwebinarでこの法律と憲法院の判断に関する研修が行われました。

オンラインで800人ほど参加したようです。

 

この研修では、他にも想定される民事上、刑事上、行政上の責任追及のあり方についても議論がなされました。

 

特筆すべきだったのは、最後のまとめの部分での以下のような発言です。

緊急事態を日常化せずに、これを緊急事態における権利侵害と考え、緊急事態を理由として、どの程度まで権利侵害が容認されるのか、弁護士の役割は何かという視点は意識しておきたいと思います。

 

― 「緊急事態時の措置に誰もが慣れてしまってこれが日常化してしまうことに注意しなければならないこと」

 

― 「目的が良くてもそのことゆえにすべての手段が正当化されることはない。法治国家にとっては譲ることのできない理念がある。弁護士会は、「自由の歩哨」Sentinelle des Libertésである。緊急事態であるからといって、人々の権利が侵害されていないかを監視するための「自由の歩哨」プロジェクトを立ち上げた。私たち弁護士は、法治国家の戦士として、嘘を告発し、譲ることのできない理念の侵害すべてを告発していく。」

 

― 「どのような場合においても、権利とそれに対抗する権利との間の均衡は保たれなければならない。私たち弁護士の活動によって裁判官の意識にも働きかけ、司法をより人の顔をもったものとしていくことができる。こうして私たちは法治国家を実現し、私たちが住みたい国を作っていく。弁護士の活動は個人的であるが、このような考えを共有することによって、私たちはつながり、連帯することができる。」

 

― 「大臣に対する刑事告訴が数多く行われていることに対する批判もある。予見できなかったことについて結果責任を問うことはできないという考えもある。しかし、とりわけ医療従事者は、情報を求めて告訴を行う。彼らは、なぜどうしてそのような決定がなされたのか、他に政府としてどのような決定をとることができたのかということについて答えを求めている。」

 

考えさせられます。

 

 

裁判所と弁護士会:他の国の状況

  • 2020.05.21 Thursday
  • 15:02

パリ弁護士会が、海外にいるパリ弁護士会会員に、それぞれの国での裁判所や弁護士会の対応についてインタビュー記事を載せました。

2020年5月20日付のパリ弁護士会会報です。

 

https://fr.zone-secure.net/109394/1178241/#page=1

 

 

 

会報表紙

(なんていうか弁護士会の会報なのにさすがセンスいい)

 

対象となったのは、マリ、日本、アルゼンチン、ロシア、カナダ、(アメリカ)

 

 

 

日本はなんと一番マリに近い。

 

特集のタイトルは、「同じ危機、異なる状況」。

 

感染者や亡くなった人の数は各国で異なるにせよ、同じウイルスによる危機的状況を前に取られる対応が違うということは、その国々での司法や弁護士の在り方を浮き彫りにします。そして、この状況が世界各地で同時に起きている、タイムラグもないということから、通常時以上に、比較法的な検討を容易にすると思います。

 

所与の状況が同じ(同じウイルスの蔓延による裁判所の閉鎖)な場合に、結果として現れてくる状況(裁判所や弁護士会の対応)を見ることにより、そこに適用されるその社会ごとの関数(どのような政治哲学、思想、理念、そもそもそのようなものがあるのか否かという点も含めて)を探れるように思います。

 

***

 

この特集では、各国の弁護士に質問がなされています。

 

その質問は、

 

仝什澆離灰蹈覆隆鏡拡大に関する状況は、裁判や弁護士の業務にどのような影響を与えましたか?

 

∪府や弁護士会から、弁護士に対してどのような対策が講じられましたか?

 

4靄榲人権に対する対応はどうなっていますか?

 

といったものです。

 

それぞれの概略は以下のとおりです。

(アメリカ(カリフォルニア)に関しては回答者の回答内容が少なかったため割愛しています。)

 

 

***

 

マリ Daouda BA 弁護士

 

仝什澆離灰蹈覆隆鏡拡大に関する状況は、裁判や弁護士の業務にどのような影響を与えましたか?

 

裁判所の閉鎖:2020年3月19日〜5月11日

ただし緊急を要する手続きは別とする。

健康と生命を守ることが優先するため、裁判所の継続性については特段の配慮は払われない。

 

 

∪府や弁護士会から、弁護士に対してどのような対策が講じられましたか?

 

マリ政府は、支援金として約1000万ユーロを準備し、また、鉱山会社、銀行、保険会社等がマリ政府に対して巨額の資金提供を行った。これらの資金が、コロナ対策に使われることを期待している。

 

4靄榲権利に関する対応はどうなっていますか?

 

マリでは全面的な外出禁止令はないが、2020年3月25日付で大統領が、21時から翌朝5時までの間の夜間外出禁止措置を命じる政令を発令した。

 

また、過剰収容が問題となっている刑事収容施設での感染拡大を避けるため、ミッシェル・バシュレ国連人権高等弁務官の要請に基づき、大統領は1200人の受刑者を恩赦とした。

 

アルゼンチン、Christophe Dubois弁護士

 

仝什澆両況は裁判や弁護士の業務にどのような影響を与えましたか?

 

緊急の事案を除き、大統領は直ちに裁判の停止を決定。この根拠は、憲法に根拠をもつ例外的状況かの「必要かつ緊急政令」であり、この政令やその後国会により承認されなければならない。この裁判の停止は、5月10日までとされた(その後延長の可能性あり)。

 

しかしながら、最高裁はこのような決定にもかかわらず、オンラインの方法を用いることにより、早期に裁判手続きの再開を決定した。

 

− (裁判所により)書面の電子提出とビデオ会議の方法による期日

 

− 裁判官のサインを電子サインとすることを許可し、遠隔地からの告訴や訴え提起の受付にも特別な対応を導入

 

− 一定の裁判所においては、調停手続きにおいても、オンラインでのコミュニケーションの方法により実施。一定の手続きにおいては調停前置主義が取られているため、調停手続きを行えないことは裁判を麻痺を生じさせるため必要な措置

 

− なお、アルゼンチンは連邦国家であるため、これら措置の実施は州によって異なり、十分に準備のできていた州とそうでない州との間で差が生じた。

 

∪府や弁護士会から、弁護士に対してどのような対策が講じられましたか?

 

弁護士会が政府に対し働きかけたことにより、弁護士は、社会保障料の納付(使用者負担分)に関する特例及び他のセクターのために予定されていた融資を受けることが可能となった。

 

アルゼンチンでは、外出禁止及び移動の禁止が発令されたが、複数の州において、弁護士は移動を許可されている。その際の衛生保持に関する遵守事項は、裁判所によって異なる。

 

4靄榲権利に関する対応はどのようになっていますか?

 

― 国会は閉鎖され、国会の委員会は業務を継続し、その後オンラインの方式で国会も審議を再開

 

― 受刑者及び勾留されている人に関し、政府は特段の措置を講じていない。

しかしながら、裁判所は、感染の場合のリスクが高く、また対象となる罪が重くない人々に関しては自宅での拘禁を命じた。

 

― 移動の自由に関しては、政府は二つのアプリを導入した。

・外国からアルゼンチンに入国する人に対して、14日間「Covid-19 厚生省」というアプリをインストールする義務

・国民に対しては、自分にCovid-19の症状が出ていないかを自己診断することのできるアプリのインストール

これらのアプリにより政府がGPS機能を使い、ユーザーの位置関係を把握することが可能となるため、個人情報の保護の観点から問題視する声もあがっている。

 

ロシア Julie Losson弁護士

 

仝什澆両況は裁判や弁護士の業務にどのような影響を与えましたか?

 

裁判所は3月19日から5月1日まで閉鎖された。原稿が書かれたタイミングでは外出禁止は継続しているが、裁判は再開している。

 

裁判所の閉鎖期間中も、裁判は継続された(最高裁3月18日及び4月8日判決)

 

・訴え提起や申立てはオンラインあるいは郵送で可能

 

・憲法、行政に関する訴訟、刑事訴訟であり緊急性を要するもの、当事者の出頭が必要のないもの、あるいは未成年を対象とする案件は継続審理される(全体の10〜15%のケース)

 

・上記以外のケースでも、裁判官及び裁判所がそれぞれの判断で審理の継続を決定できる。

 

・ビデオ会議の方法での開廷が要請される(ただし弁護士は弁護権の侵害の危険があるとして反対している人が多い)

 

・法律相談等に対応する弁護士、公証人及び執行吏の全国リストを作成

 

・全国の弁護士会は、電話相談だけでなく、重要なケースにおいて相談者と直接面談をして相談を行う体制を整えた

 

・刑事収容施設は家族面会を禁止

 

・その他のケースについては、期日が延期された。但し、多くの弁護士たちは、自分たちを排除した上で審理がなされるのではないかとの不安から、閉鎖された裁判所に赴くなどした。

 

∪府や弁護士会から、弁護士に対してどのような対策が講じられましたか?

 

弁護士会:

― 法律相談担当の弁護士に対するマスクの提供

 

― 弁護士からの質問に答えるために、弁護士会がビデオ会議の方法での対応を整備

 

― ロシアの全国の弁護士会及び単位会がほぼ毎日webinarの方法で研修を実施

 

― 2020年度の会費免除

 

― 弁護士会から政府に対し、税金の支払い猶予、社会保険料の使用者負担部分、年金掛け金の支払い等の一部減免を申し入れ(まだ政府からの回答はない)

 

4靄榲権利に関する対応はどのようになっていますか?

 

人権保障に関してはロシアは集団の安全の確保が人権に優越するとされるので、見るべきところはない。

 

3月31日からは、違法な移動、感染症に関する間違った情報の流布、医薬品の価格を吊り上げる行為などが罰金の対象となり、1000万ルーブルまでの罰金が科されることになる。移動はGPSや監視カメラで監視されている。

 

カナダ Elisa Henry 弁護士、Fanny Albrecht弁護士

 

仝什澆両況は裁判や弁護士の業務にどのような影響を与えましたか?

 

ケベックでは、緊急事態宣言が2020年3月13日に発令された。生活に本質的でないサービスは停止が求められるが、法律事務所は、「生活にとって本質的である業務のリスト」に入っている。

 

裁判所も緊急性を有する事案を除き業務を停止した。時効や手続きに関する期限については中断することとされているが、裁判所は弁護士に対して、事件を進行するように要請している(2020年4月17日付最高裁声明)。

 

カナダ最高裁を含め多くの裁判所はビデオ会議や電話などの方法により期日が行われた。多くの裁判所においてはオンラインでの申立てが認められている。

 

弁護士による無料法律相談も実施されている。

 

∪府や弁護士会から、弁護士に対してどのような対策が講じられましたか?

 

政府からの支援としては、個人事業主に対して、最大4か月間、毎月2000カナダドルが支給される。

 

ケベックでは中小企業向け(弁護士含む)に対し、最大5万カナダドルの貸付あるいは保証が提供される。

 

弁護士会に関しては、ケベックでは弁護士会の会費の納付猶予が認められた。

 

4靄榲権利に関する対応はどのようになっていますか?

 

私生活の保護と感染者及び感染が疑われる人に対する差別が問題となり、行動の追跡アプリについても問題となっている。

 

***

 

回答がそれぞれなのですべての論点が埋まっているわけではないですが、裁判所と弁護士会の対応についてまとめみると以下のような感じになります。

 

 

裁判所の状況

ビデオ会議など裁判の継続のための工夫

弁護士会による弁護士の支援
(会費免除や経済的問題など弁護士を守るための対策を求める政府への申入れ)

その他

マリ

業務停止

特段なし

なし

 

日本

業務停止

特段なし

なし

弁護士による無料法律相談の実施、オンライン研修の実施

アルゼンチン

業務停止

オンラインでの期日、電子提出等

あり

社会保険料の納付猶予など

 

ロシア

業務停止

オンラインでの期日、電子提出等

あり

政府に対する申入れ

弁護士のためのオンライン研修(ほぼ毎日)

カナダ

業務停止

オンラインでの期日、電子提出等

あり

会費の支払い猶予

弁護士による無料法律相談の実施、一部ビデオ研修

フランス

業務停止

一部オンラインでの期日あり

あり

会費の支払い猶予

無料法律相談、オンライン研修、毎日テレビでの法律問題の一般向け説明、弁護士や市民向けの活発かつ詳細な情報発信(HP、facebook等)、弁護士会による基本的人権擁護のための各種裁判の申立て、政府への様々な申入れ、司法大臣との協議

 

フランスについては、とても積極的に活動しているのは別の記事で書いたとおりです。

 

残念ながら日本は、裁判所に関しては、オンラインの期日ができないとか技術的・法律的な制約はあるにしても、どうにかして期日を行おうという意欲が感じれないこと、また、弁護士会の活動については、日本は個々の弁護士の素晴らしい日々の努力(無料法律相談や様々な情報発信など)はありますが、マリ以外の国に比べると、残念ながら組織としての取り組みが弱く、また、弁護士向けの対応や情報発信が足りていない状況です。

 

もちろん、これは限られた国に関する情報なので、各国の事情はいろいろとあると思います。

 

とはいえ、緊急事態において、司法や弁護士会の役割や位置づけに関して考える機会にはなりました。

 

 

 

国務院による行政の監督

  • 2020.05.06 Wednesday
  • 12:56

フランスのコンセイユデタ(国務院、行政最高裁府兼政府の諮問機関)の公衆衛生上の緊急事態宣言に関する意見と判決をご紹介します。

 

コンセイユデタは、政府の諮問機関としての権能において、緊急事態宣言の延長のための法案において人権保障を明確にすることを政府に求めるとともに、裁判所としての権能において、緊急事態下にあっても、政府による基本的人権の侵害は認められないとし、国を敗訴とする判決を2つ立て続けに出しました。

 

 

 

コンセイユデタのホームページ

(スマホ版)

 

まず、フランスの緊急事態宣言が5月23日切れるに際して、2か月延長のための法案が今日上院に提出されるとのことです。

フランスでは、この延長は日本のように政府の一存ではできずに、必ず国会で決められなければならないからです。

 

この法案について、国会が判断をする前に、政府はコンセイユデタに法案審査をかけました。

その回答が5月4日にありました。

 

コンセイユデタは、法案には原則として問題はないとしながらも、その提案を法案に織り込むことを条件としています。

興味深いのは、例えば、感染が疑われる人の隔離に関して、

 

― 法案自体が14日を超える拘束に関しては、裁判官の許可を必要としているが、国務院はさらにその内容を充実させることを要望し、

 

― 隔離中も家族生活を通常通りに行う権利を保障すること等も要望しているところです。

 

このようなコンセイユデタの審査ののち、法案が国会に提出されます。

 

そして、上下院通過後に法律が成立した後に、施行前に今度は憲法院の審査に付されることになっています。

 

なので、緊急事態宣言延長法案は、以下のようなチェックを受けることになっています。

 

 

 政府法案 → コンセイユデタの審査・意見 → 国会審議 

         → 憲法院審査 → 合憲判決なら施行

 

 

今後院の判断も気になるところです。

 

また、コンセイユデタは裁判機関(行政最高裁)でもあり、この意見の直前には2件ほど、国敗訴の判決を出しています。

判決においてコンセイユデタは、緊急事態下で国により取られた措置が、人の権利を「重大かつ顕著に違法に侵害している」と判断しました。

 

一つは、亡命希望者の受付について。もう一つは、自転車での移動の自由についてです。

 

一時期コンセイユデタの判決が緊急事態宣言発令以降、国よりになり、国敗訴の判決を書かなくなったとの批判がありましたが、国に対して厳しい判決が続いて出されました。

 

それぞれ内容は以下のとおりです。

 

【緊急事態宣言延長に関する政府法案に対する意見】

 

政府作成の法律案は、コンセイユデタの諮問に諮ることとなっています。

法律案については、特段の違法はないとしたものの、いくつかの注意を喚起しています。

 

 

 

 

概略以下のとおりです。

基本的人権の保障の観点から、国に対する法案修正の要望を行っています。

 

https://www.conseil-etat.fr/ressources/avis-aux-pouvoirs-publics/derniers-avis-publies/avis-sur-un-projet-de-loi-prorogeant-l-etat-d-urgence-sanitaire-et-completant-ses-dispositions

 

  • 法案の趣旨は、3つの原則にあると理解する。すなわち、守る、試す、隔離するである。

 

  • コンセイユデタは、現状に鑑みて2か月間の緊急事態宣言の延長はやむを得ないと考える。

 

  • しかし、コンセイユデタは、とりわけ以下の点において、政府の注意を喚起する。

 

― まずは、期間である。

 

多くの場合、特例措置の期間は3月23日からの当初の2か月間、その後延長の2か月、これに加えて1か月となっている。これは、3月17日からの国民の外出禁止に基づく全国の様々な動きの停止により正当化されたものである。したがって、コンセイユデタとしては、政府に対し、近日中に、ケースバイケースでその必要性とそれが必要性に比例するものとなっているかを再検証することを要請する。

 

― 法案は、公衆衛生法典の改正を予定している。

 

コンセイユデタは、健康の保護という憲法的価値を持つ目的を擁護するという観点から、法案が、公衆衛生上の重大な問題により生じる健康上のリスクと、とりわけ1789年人権宣言第2条及び第4条、そして憲法66条によりその補償が司法権へと託された個人の自由である往来の自由及び私生活上の自由との間でバランスを欠くことがないよう、法案が調和を図るものとなるよう監督するものである。

 

また、コンセイユデタは、法案の内容がEU法上の権利や基本権の保護を尊重したものとなるよう監督する。

 

コンセイユデタは、コンセイユデタが提案する文言に置き換えることを条件として、以下に関する公衆衛生法典の改正を容認する。

 

― マスク着用の義務付けにかかる公共交通機関による移動(L.3131-5条1)及び人々が集まる場所の再開(L.3131-15条5)に関する条項

 

― 医療従事者等の徴用に関する条項(L.3131-15条7)

 

― 感染の疑いがある人の隔離措置(検疫)(L.1313-15条3、4)

 

  これについては、コンセイユデタは、対象となる人(感染地域からフランスに入国しようとする人等)をさらに限定することを要請する。また、政府は、検疫隔離を行う際には、生活必需品にアクセスできる状態等を条件とするが、コンセイユデタは、通常の家族生活を送ることのできること、また未成年者に対し配慮を払うという条件を加えることも要請する。

 

  法案においては、入国者の検疫隔離措置あるいは隔離措置については、対象者は、「自由と勾留」裁判官に審査請求をすることができる。(※自由と勾留裁判官とは、通常刑事事件で勾留などの身柄拘束に関し判断をする権限を有する裁判官)また、この期間は14日に限られるが、その延長は当事者が同意をした場合、あるいは自由と勾留裁判官の許可があった場合に限られる。

 

 コンセイユデタは、法案は、すべての自由の制限は司法権の審査に服さなければならないという憲法66条の要請を満たすものであると考える。

 

 しかしながら、コンセイユデタは、以下を提案する

 

  • 申立てを受けてから、自由と勾留裁判官は、72時間以内判断を示さなければならないが、同様に、職権でも案件を審理できること、県知事は隔離期間の延長を考える場合には、8日以内に申立てを行うべきであること、14日の期限満了前に自由と勾留裁判官が判断を示さず、また当事者が同意をしていない場合には、隔離措置が当然に解除される旨明確にすること

 

  • 隔離措置の最大期間を1か月とすること

 

  • 県知事は、対象者が電話あるいはインターネットの手段によって外部とコミュニケーションをとれる状況であることを保障すること

― さらにコンセイユデタは、法案の中に、緊急事態発令の手前の状況であり、何らかの個別の措置が必要とされるような事態に関する条項がないということを問題視する。この場合であっても、隔離措置などの自由を侵害する措置が取られることもあり得、したがって、政府に対しては、法案が憲法および条約上の要請を満たすものとなるよう見直すことを求める

 

― 法案第6条は、感染症拡大防止を目的とする、情報の共有システムの設置を許可する。

この法案は、厚生大臣、公衆衛生庁、保険機関及び地域健康庁との間で、その情報を共有することを認めるとしている。

コンセイユデタは、法案がそのために定める条件は、1789年人権宣言2条に基づく私生活の保護、欧州人権上やきう8条及びGDPRの規定に違反するものではないと考えるが、情報収集の目的が厳密に守られていること、暫定的な措置であるということに注意を喚起する。

 

 

【判決】

 

緊急事態宣言下の国の措置を違法だと断じる判決が2件続きました。

 

【2020年4月29日判決−亡命者リストへの登録を再開しないことが人権侵害であること】

 

https://www.conseil-etat.fr/actualites/actualites/le-conseil-d-etat-ordonne-au-gouvernement-de-retablir-l-enregistrement-des-demandes-d-asile

 

 

 

 

 

コンセイユデタは、国に対し、5日以内に、また、covid-19の感染防止のために必要とされる措置を講じた上、フランスへの亡命者リストへの登録受付の再開及び電話相談窓口の再開を命じる。

 

同様の案件に関してはすでに同じ内容の申立てが行われ、コンセイユデタは4月9日、国の側が、とりわけ弱い立場にある人を優先的に登録受付を継続すること、また登録を求める人の有無の調査を継続することを約束していたため、その時点では基本権に対して重大かつ顕著に違法な侵害があるとは判断しなかった。

 

しかしながら、裁判官は、提供された資料に鑑み、国が講じた措置は不十分であると判断する。

 

裁判官は、国の説明と異なり、窓口に必要最低限の人員を配置することは可能であると考える。危険を回避するため措置やソーシャル・ディスタンスを確保できないという国の主張も認めない。

 

以上より、国が亡命者の登録受付を実施の怠慢は、亡命権に対する重大かつ顕著に違法な侵害を構成し、緊急審理裁判官の介入を正当化する。

 

 

【2020年4月30日判決 − 自転車の利用が基本的人権であること】

 

https://www.conseil-etat.fr/actualites/actualites/le-gouvernement-doit-indiquer-publiquement-que-le-velo-est-autorise-durant-le-confinement

 

 

 

 

外出禁止措置が取られている現状、外出はそれを必要とする理由がない場合に認められない中、自転車の利用者を違反者として取り扱う例が存在する。しかし、法令上、移動方法を明示したものはない。

 

自転車の利用は、往来の自由及び個々人の自由の尊重の権利に基づき保障されるものであり、この点を明確にしない政府の姿勢は、その権利に対する重大かつ顕著に違法な侵害となる。

 

したがって、コンセイユデタは、政府に対し、公に、そして大きく、自転車による移動は許可されると明示することを命じる。

 

***

 

欧米ではできる強権発動がなぜ日本ではできないのか、という話もありますが、まさに、それは、何よりも自由を愛するフランス人が我慢を受け入れているからではなく、フランスでは、強権発動と同時に、このような審査が存在し、行政の監督がなされ、権利侵害が最小限に抑えられるようになっているからです。

 

もし何らかの事態に備えて強権発動が必要だと考える場合には、合わせてバランスの取れた制度構築の議論が必要でしょう。

フランスにおける検察官の独立と憲法

  • 2020.04.26 Sunday
  • 14:47

現在検察庁法の改正が問題になっています。

 

フランスでは、検察官の独立が憲法上の要請であるということ、また、検察官の独立をさらに強めるための憲法改正が準備されています。ご紹介します。

 

1.検察官の独立に関する憲法院の判断

 

フランスでは、検察官の独立が憲法上保障されているかどうかが問われた憲法裁判があります。2017年12月8日の憲法院判決(QPC)です。

この判断を求めたのは、司法官(裁判官と検察官を含むもの)組合連合 Union syndicale des magistratsです。

 

この裁判において、検察官について、1958年12月22日の政令第5条が、

 

「検察官はその階級上の上位者の指揮及び管理に服し、また、司法大臣の権威に服する。法廷において、弁論は自由である」

 

と定めているところ、この政令は、検察官を司法大臣の権威の下に置くものであり、憲法64条が定める司法官の独立を侵害するものであるとの主張がなされました。

 

また、この政令5条は、権力の分立を保障した、1789年人権宣言16条にも違反すると主張されました。

 

フランスでは、裁判官と検察官をあわせて「司法官」と称し、憲法64条が、司法権autorité judiciaireについて、「共和国大統領は、司法権の独立の保障者である」と謳っています。

この条文が司法官の独立の憲法上の根拠とされています。

 

独立性は裁判官にとってはより自明であるものの、検察官はその職務の特殊性から、「司法官」でありながら、独立は保障されないのではないかということが論点となりました。

 

 

 

 

この申立てに対して、憲法院は、

 

憲法は検察官の独立を保障する

 

しかし、その独立は、政府の有する権限と調和されなければならず、裁判官と同程度の保障を受けるものではない

 

と判断しました。

 

その上で、任命には、後述する司法官職高等評議会の意見が聴取されていること、司法大臣は、検察官の職務について、一般的な指揮権しかなく、個別の事案に介入することはできないとされていること、刑事訴訟法典に基づき、検察官は自由にその見解を表明できること、検察官が司法警察の捜査を監督できること、起訴便宜主義が保障されていること、政令第5条において、法定における弁論は自由であるとされていることから、検察官の独立と政府の要請との間で調和が図られているとして、政令第5条は憲法に違反しないと判断されました。

 

この判決は、初めて検察官の独立が憲法上保障されていると確認した点で画期的とされる一方、現実的に検察官の独立を保障するためには不十分だという批判があがりました。

 

そこで、検察官の独立を憲法上より一層強めるべきではないかという議論が高まりました。

 

なお、これまでに何度もフランスは欧州人権裁判所から、フランスでは検察官の独立が守られていないとの批判を受けています。

 

2.憲法及び改正への声

 

【憲法上の規定】

 

検察官の独立性は、フランスでも常に問題になってきました。

政治に絡む事件においては、検察官は常に政権よりだという批判がなされます。

 

そこで、より一層検察官の独立を高めるために、憲法改正が準備されました。残念ながら、黄色いベスト運動をはじめフランス社会の動乱の中で今はこの憲法改正が棚上げされていますが、いずれまた議論の俎上に戻ってくると思われます。

 

この憲法改正は、検察官の任命に関するものです。

 

現在、裁判官と検察官の任命は、憲法上でとおり定められています(憲法65条)。

 

 

裁判官:原則として、司法官高等評議会の裁判官部会の拘束的意見に基づき共和国大統領が任命する。共和国大統領はこの意見に従わなければならない。司法官高等評議会は破毀院(司法最高裁)の裁判官、控訴院院長及び地方裁判所所長については、司法官高等評議会の提案に基づき大統領が任命する。

 

 

検察官司法官高等評議会の検察部会の単純意見を受け、司法大臣が大統領に提案をし、大統領が任命する。この単純意見に大統領は拘束されない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

司法官高等評議会とは、憲法上設置が定められたもので、司法権の独立の保障者としての大統領を補佐するものとされています。

 

 

 

 

検察官部会については、破毀院(司法最高裁)付き検事長により主宰され、この部会は、さらに、1名のコンセイユ・デタ評定官、1名の弁護士、ならびに第2項に掲げる6名の有識者から構成されるとなっています。ちなみに、「6名の有識者」とは、国会にも司法機構・行政機構にも所属しない6名の資格ある有識者であり、共和国大統領、国民議会(下院)議長、及び元老院(上院)議長がそれぞれ2名任命するとされています。

 

この検察官部会が、検察官の任命について政府に提案をするとともに、検察官の懲戒についても意見を述べることができるとされています。

 

このように、裁判官については、裁判官の任命について行政府の判断がほぼ入らないことに比べ、検察官については、憲法上の組織に意見を出す権限があるという意味において、日本の検察官よりも任命に関し一定の保護がありますが、それでも、条文上自体も、裁判官と異なる扱いがなされています。

 

これを受けて、現在準備されている憲法改正案は、検察官の任命について、司法官高等評議会の任命に関する意見は政府・大統領を拘束することが目指されています。

 

この改正により、検察官の任命に対する行政官の介入を阻止し、検察官の独立をより一層強いものにすることが狙いとなっています。

 

【改正の必要性】

 

このような議論がなさる中、検察官の任命に関し行政の関与が問題になりました。これは、2018年のパリの共和国検事正のフランソワ・モランFrançois Molinの後継者の任命に際してのことです。

この際、通常の手続きに従い、司法官高等評議会の意見聴取の後、司法大臣が3名の候補者名を出したところ、大統領がそのすべてを拒否しました。さらに、この候補者3名は、首相の前で一種の「口頭試問」のようなものを課せられたとのことで、前代未聞だったとのことです。

このようなことが今後もし繰り返されては、結局司法官高等評議会は、大統領が任命するだろうと思われる者のみを候補者として掲げることになり、検察官の独立が侵害されるとして問題になりました。

 

そこで改めて、憲法改正への強い要請が出ることになりました。

 

【検察官の独立を求める、司法官、国会議員、検事正の声】

 

この中で、パリの司法官Benjamin Blanchetがル・モンド紙に寄稿しています。

https://www.lemonde.fr/idees/article/2018/11/21/independance-du-parquet-il-faut-que-soient-definitivement-ecartees-la-suspicion-et-la-controverse_5386543_3232.html

 

現職の司法官からの主張であること自体日本では考えられませんが、検察官の独立を認めること自体、三権分立を基礎とする民主主義の要請であり、(ルソーから来る)一般意志を体現するものとしての法治国家の要請である、とされています。

 

そして、検察官の独立を認めることは、常に政権よりだとの検察官への疑念を払しょくし、何よりも検察官への信頼を取り戻すことになるとともに、民主主義社会が検察官に示さなければならない深い敬意の念を示すことになる、としています。

 

Blanchet司法官は、「政治スキャンダルが生じるたびに、検察官は常に権力の指揮下にあると言われる。このような議論が行われないようにするためにも、司法改革をして、その完全な独立を認めなければならない」と主張しています。

 

そして、憲法院の判決は、「不完全な独立」を認めたに過ぎず、これは法的に何ら意味のないことであり、独立は存在するかしないかであって、その中間は認められないとしています。このような不完全な独立を謳うことにより、憲法院は常に検察官に対して、不公平で政権と癒着しているという疑いを温存すると批判します。

 

Blachet司法官は、検察官の実務においては、司法省から、各検察官に対する文書や通達によって刑事政策が決定されることから、司法省としては、検察官の独立が認められた場合には、このような一般的な指示が無視されるというところにも存在しているだろうと指摘しています。あたかも、かつての領主がその権限の及ぶ範囲で自由に領主裁判権を行使していたかのような状況の再来が懸念されているとします。しかしながら、主権者国民の代表者により制定された法律を検察官が無視することは考えられないとします。

 

そうであるとするならば、私たちの民主主義社会が検察官に対して示さなければならない深い敬意を確認することにより、傷つけられ続けているフランスの司法のイメージと決別する必要があり、そのために、検察官の独立に対して疑いを生じさせないような法を制定する必要があるとしています。

 

検察官の独立に反対をする人は、検察官が、一般意志の表明である法治国家において当然のことである忠実な職務遂行という基本的な検察官の約束を守ることができないと主張するものであり、容認できるものではないとしています。

 

そして最後に、共和国は、どちらを選ぶのかと問いかけをして主張を締めくくります。

 

共和国はどこに身を置くのか?その決定に法的効力を与えることのできる国民の代表者による政府の方針に関する公の議論の上に策定され、かつ、独立した司法官により適用される刑事政策の中か?あるいは法的効力は全く法に及ばない、司法大臣により作成された秘密の文書の中か?

 

また、検察官の独立を強く主張する国会議員は、「検察官の独立が認められた初めてフランスはモンテスキューの国になれる」と主張します。

https://www.lemonde.fr/idees/article/2018/10/04/pour-garantir-l-independance-du-parquet-il-est-urgent-de-reformer-la-constitution_5364315_3232.html

 

検察官自体も、憲法改正の必要性を強く訴えています。

https://www.lemonde.fr/police-justice/article/2018/10/22/les-procureurs-de-la-republique-veulent-clarifier-le-statut-du-parquet_5372832_1653578.html

 

このイニシアティブを取るのは全国検事正協議会です。

同協議会は、検察官の任命に関する憲法改正の早期実現を求めています。検事正たちは、実際に検察官は独立して職務遂行をすることは可能であるが、客観的にも独立していることが必要であると主張しています。

 

***

 

今日本では検察庁法改正が問題になっています。

日本の憲法上、裁判官の独立に検察官の独立まで読み込むのは難しいかも知れません。

 

しかし、検察官の独立を認めることがなぜ重要であるか、ということについての議論自体は参考になるところがあるかも知れません。

検察官も裁判官に準じるものとして、また、政府―法務省の密室の影響の下行われる刑事政策ではなく民主的議論を経た法を独立した検察官が適用することこそ三権分立に適うのではないか、何よりも検察官自体が不公正だとのレッテルを貼られずに職務を遂行することこそ重要なのではないか、フランスの議論は示唆に富む部分があると思います。

 

 

緊急事態と弁護士と弁護士会(続き)

  • 2020.04.23 Thursday
  • 22:12

 

弁護士会が国に対して申し立てた裁判は、弁護士会実質勝訴、と言えると思います。

 

たかがマスクかも知れません。

 

でもそれが、民主主義にとって重要な価値は何か、民主主義の国における自助努力と国の責任の線引きはどこにおくべきかという問題を提起するものともなりました。この点をめぐり、弁護士会が申立てた裁判(自由権保護緊急審理手続き)に対し、行政最高裁が判断を示しました。

 

今回は弁護士会の申立てなので、弁護士に対する保護をどうするべきかという点が論点でしたが、より一般的に、緊急事態下で国と個人(あるいはその他団体)の領域の線引きに関する問題提起は常になされていかなくてはならないというメッセージを伝えるものでもあるように思えます。

 

 

 

 

行政最高裁のホームページ

Covid-19に関連する申立てについての決定を掲載するページ

左下の法服の弁護士の写真が今回の判決を紹介する部分

 

***

 

2020年4月20日の判決で、弁護士の法廷活動に際して国に弁護士へのマスクの提供を義務付けるよう求めたパリ弁護士会とマルセイユ弁護士会の申立てに対し、行政最高裁は、弁護士は司法justiceを補助し、司法justiceという公役務に参画するものであるから、国は、弁護士が公務員ではなく民間の自由業であることを理由として、弁護活動における弁護士の健康の保護を拒否することはできない、と判断しました

 

結論としては、現実問題として必要な量のマスクがないため、国に対して弁護士へのマスク等の具体的な提供を義務付けることはできないとなりましたが、行政裁判所により、公務員ではない自由業であっても、弁護士は「司法の補助職auxiliaire de justice」であり、司法にとって不可欠であるから、国に弁護士(特に刑事弁護人)の健康に関する保護義務があると判断されたところは重要です。

 

これは、前の記事でご紹介した、緊急事態下の弁護士会の活動における、

 

 ヾ躓‥状況にあっても、国にとって根本的に重要な公役務として司法を位置づけることを求め、そして法治国家が蹂躙されることがないよう国に対し積極的に求めること。

 

の具体化になります。

 

弁護士会は、現状でも維持されなければならない重要な裁判対応を行うにあたって、マスク等の感染防止手段がない中で弁護士がその任務を果たさなければならないのは、弁護士や依頼者の命や健康を危険に晒すものであり、また、弁護士が弁護活動ができなくなった場合には、国民の裁判を受ける権利が侵害されると主張しました。裁判を受ける権利は、民主主義の根幹をなすものです。

 

そして、行政最高裁は、裁判が適切に機能するようにすることは国の責務であること、弁護士はこの司法を支えるものであり、国はそのために弁護士を守る責務を有することを明確にしました。

 

主文で敗訴となったのは、この手続きの技術的限界(暫定措置しか出せない事、現実に国家が有している手段に鑑みて、権利の侵害があっても政府の不作為が正当化されるか否かという判断)によるものですが、実質的な内容については、弁護士会は行政裁判所の判断を極めて高く評価しています。

 

マスクの入手は難しくとも、とりあえずマスクを入手して仕事のできる私たち日本人の弁護士との危機感は違うかも知れません。犠牲者の数もフランスの方が圧倒的に多いです。そのため、日本の感覚でいると、マスクの配布義務付けのための訴訟にいまいちピンとこないかも知れません。

 

しかし、重要なのは、この裁判では、国家的危機の状況にあって、現場で奮闘する弁護士の自助努力だけで司法を支えるのではなく、まさに国こそが司法の運営に責務を持つものであることを自覚させるための申立てであり、それを行政最高裁が受け止めたという象徴的な点にあると言えると思います。

 

【これまでの申立て】

 

弁護士会はこれまでも、人権擁護と法の支配の貫徹の観点から、行政最高裁に対し、以下のような申立てを行ってきました。

 

― 不法滞在者収容施設の閉鎖義務付けのための申立て

これは、感染の危険から収容者を守るために収容者の開放を求めるものです。

 

行政最高裁は、現在1800人の収容施設に152人しか滞在していないとし、また感染予防策が取られていることを理由として、申立てを棄却しました(3月27日)。

 

― 勾留期限の延長を定めた政令及び通達の適用停止の義務付けのための申立て

裁判官の決定なくして、勾留の期限の延長を行うことの違法性を問う申立てです。

 

行政最高裁は残念ながら、政令と通達は、基本的自由に対する重大かつ著しい違法性を有する侵害とはならないと判断しました(4月3日)。

 

― 身柄拘束をされている人の釈放及び刑事収容施設の衛生状況の改善を義務付けるための申立て

 

行政最高裁は、現在刑事収容施設では衛生状況が改善され、必要な措置は講じられているとして、申立てを棄却しました(4月8日)。

 

― 司法及び行政裁判における臨時措置の適用停止を義務付けるための申立て

 

これは、民事や行政事件におけるビデオ会議の使用や、保全手続きにおいて当事者呼出しを省略することを認めた政令の適用停止を求めるものですが、行政裁判所はいずれも棄却しました(4月10日)。

 

現在行政最高裁はその職責を果たしていないとして批判を浴びており、弁護士会や弁護士からの人権救済を目的として申立ても立て続けに棄却されてきました。

 

そしてようやくの4月20日の判決。

主文では弁護士会は負けたものの、実質的な勝利(緊急事態における国に対する弁護士の位置づけ)を勝ち取りました。

 

こうした流れを見てくると、緊急事態であっても、主張を行うこと、権利行使をやめないこと、「権利のための闘争」を差し控えないことの重要さを見て取ることができます。

 

この裁判の内容はざっと以下のとおりです。

 

 

 

実質勝訴を伝えるパリ弁護士会のfacebookのページ

毎回洒落てる

 

 

【裁判の当事者】

 

パリ弁護士会とマルセイユ弁護士会は、4月6日(マルセイユ弁護士会)、4月8日(パリ弁護士会)がそれぞれ、行政最高裁に対し、弁護士のため以下を政府に義務付けるよう、首相、厚生大臣、司法大臣を相手方とし、訴えを提起しました。

 

そのほか、弁護士会長連絡会、ヴァル・ド・マルヌ弁護士会、ヴェルサイユ弁護士会、フランス弁護士組合、全国弁護士会評議会(CNB)、オ・ド・セーヌ弁護士会、若手弁護士全国連盟が訴訟に参加しました。

 

【求めた内容】

 

裁判で求められた内容は以下のとおりです。

 

(マルセイユ弁護士会)

 

裁判所の命令により、弁護士が刑事弁護を行う場合に、弁護士に対して手袋、防護服、消毒ジェルを提供することを国に義務付け、実際に提供させること

 

(パリ弁護士会)

 

裁判所の命令により、国に対し以下を義務付けること:

 

― 生命に対する権利、弁護を受ける権利、司法の利用者のために弁護を行う権利の自由な行使、弁護士の十全なるミッションの遂行のために、必要となるあらゆる手段を講じること

 

― 警察署における逮捕時の接見、即時出頭手続き(※)のための裁判準備のための打ち合わせ、その他、依頼者の弁護のために弁護士の存在が必要とされる手続きの際に、マスク及び消毒ジェルを弁護士に提供すること

 

  • 即時出頭手続き procédure de comparution immédiate:一定の犯罪(短期2年以上の刑、現行犯の場合には短期6か月以上の刑)について、事実関係が明確で、詳細な捜査が不要な事案について、共和国検事正の決定で逮捕の日に裁判が行われるというもの。当日にできない場合には、勾留がなされるが、裁判期日は3日以内に開かれなければならないという迅速な手続き。刑事訴訟法典393条以下

 

【主張の根拠】

 

上記のような措置を講じなければならない理由は、以下にあると主張されました。

 

― コロナウイルスの蔓延の中で、弁護士はその弁護活動を行うにあたり極めて危険な状況に置かれていること

 

― そのような中で、司法省が「本質的な手続きprocédures essentielles」(裁判所閉鎖中も継続しなければならない重要な裁判)として指定する手続のために、弁護士が、依頼者を代理し、弁護するにあたり、必要な感染防止策が講じられていない状況が放置されることは、弁護士自身とその依頼者及びその関係者を危険に晒すものであり、生命への権利、健康への権利、自分の健康のために適切な対応を受ける権利に対する、重要かつ著しく違法な侵害となること

 

― 弁護士に対する必要な感染防止策が講じられないことは、そのミッションの遂行を阻害するものであり、公平な裁判を受ける権利、弁護を受ける権利、対審の裁判を受ける権利、黙秘権、弁護人依頼権・立会権を侵害するものであること

 

【政府の反論】

 

司法省は、弁護士に対して特段の措置を講じる必要はないとしましたが、その理由としては、

 

,垢任砲任る限りの措置(法廷で距離を取るなどの感染防止策)が講じられていること、マスクは全国的に足りていない事、

 

∧杆郢里聾務員ではなく、独立した自由業者であり、マスクの優先配布の権利はないこと

 

を主張していました。

 

【裁判所の判断とその重要性】

 

このような主張を受け、裁判所は当事者(各弁護士会、参加人、首相、厚生大臣、司法大臣の各代理人)を出頭させ、それぞれの言い分を聞いた後、裁判所は、以下のような判断をしました。

 

― 公役務が適切に機能するようにすることは、国の責任であること

 

― そのために、covid-19との戦いにおいては、感染防止のために、衛生的措置と人々の間に最低限の距離を保つよう、国が配慮していかなければならないこと

 

そして、その上での国の義務として、

 

― マスクが欠乏している現状においては、

  • 国はまずは使用者としてその雇用する者を保護する必要がある。公務員に対しては、雇用主として、健康を守るための特別の義務を国は負うこと

 

  • しかし、国は、司法justiceの補助職であり、司法justiceという公役務に参画する弁護士に対しては、弁護士自身がマスクを持っていない場合には、その供給網に弁護士がアクセスし、マスクを入手できるようにする義務を負うこと

 

  • 消毒ジェルについては、現在欠乏状態にはなく、弁護士自身がこれを入手することはできるが、そうであったとしても、国は必要に応じてこれを利用できる状況にしておく義務を負うこと

 

― しかし、緊急審理手続きは暫定的な処分しか命じることができないこと、現在国が講じることのできる手段が限られていることからすると、マスク等を国が提供できていないことは、行政裁判所により国に対する暫定的な命令を出す条件を満たさない。したがって、弁護士会の申立ては認められないこと

 

***

 

今回の申立てはこのようにして終了しました。

 

これを受けて、パリ弁護士会は、会として今後マスクと消毒ジェルを会員に提供していくとのことでした。

国の責務自体が明確にされた以上(しかし、実際に国に必要な枚数のマスクがない以上)、弁護士会が措置を講じたとしても、弁護士の自助努力として国が責任を否定することはできなくなったためです。このことは、申立の時点からパリ弁護士会は明確にしていました。

 

このように見てくると、この裁判の中で重要なのは、国や司法に対する弁護士の位置づけ自体に加え、司法に関して、その対応を、現場で奮闘する弁護士個々人の自己責任にしないこと、国にこそその責務を自覚させることだったと言えるでしょうそして、行政裁判所は、弁護士の自助努力のみで司法を支えさせることを否定しました。

パリ弁護士会も、判決に対するコメントで、弁護士が自由業だという理由で国による健康の保護を否定した司法省の主張が否定された、ということを強調しています。

 

こうした今回の案件は、結局のところ、緊急事態下、及びそれだけでなく国の責務はどこまで及ぶのかという点を正面から争った重要な事案として評価されるべきだと考えます。

国の責務と自助努力の線引きをどこで行うかということは、現実的には明らかでなく、このようにして積み重ねていくということもまた、よく分かります。

 

この点、日本では自助努力にあまりにも偏りすぎているように思います。

国にここまでの要求をするのかということは発想としてあまり出てこない感じもします。

 

一方、裁判手続きなど、国の三権の一角に参画する弁護士は、民主主義にとって不可欠なプロフェッションだという一貫したフランスの弁護士会の考え方からすると、その弁護士を国が放置することは民主主義の観点から看過できないと、なすべくしてなされた主張とも言えます。

 

考えなくてはならない点も多そうです。