国務院による行政の監督

  • 2020.05.06 Wednesday
  • 12:56

フランスのコンセイユデタ(国務院、行政最高裁府兼政府の諮問機関)の公衆衛生上の緊急事態宣言に関する意見と判決をご紹介します。

 

コンセイユデタは、政府の諮問機関としての権能において、緊急事態宣言の延長のための法案において人権保障を明確にすることを政府に求めるとともに、裁判所としての権能において、緊急事態下にあっても、政府による基本的人権の侵害は認められないとし、国を敗訴とする判決を2つ立て続けに出しました。

 

 

 

コンセイユデタのホームページ

(スマホ版)

 

まず、フランスの緊急事態宣言が5月23日切れるに際して、2か月延長のための法案が今日上院に提出されるとのことです。

フランスでは、この延長は日本のように政府の一存ではできずに、必ず国会で決められなければならないからです。

 

この法案について、国会が判断をする前に、政府はコンセイユデタに法案審査をかけました。

その回答が5月4日にありました。

 

コンセイユデタは、法案には原則として問題はないとしながらも、その提案を法案に織り込むことを条件としています。

興味深いのは、例えば、感染が疑われる人の隔離に関して、

 

― 法案自体が14日を超える拘束に関しては、裁判官の許可を必要としているが、国務院はさらにその内容を充実させることを要望し、

 

― 隔離中も家族生活を通常通りに行う権利を保障すること等も要望しているところです。

 

このようなコンセイユデタの審査ののち、法案が国会に提出されます。

 

そして、上下院通過後に法律が成立した後に、施行前に今度は憲法院の審査に付されることになっています。

 

なので、緊急事態宣言延長法案は、以下のようなチェックを受けることになっています。

 

 

 政府法案 → コンセイユデタの審査・意見 → 国会審議 

         → 憲法院審査 → 合憲判決なら施行

 

 

今後院の判断も気になるところです。

 

また、コンセイユデタは裁判機関(行政最高裁)でもあり、この意見の直前には2件ほど、国敗訴の判決を出しています。

判決においてコンセイユデタは、緊急事態下で国により取られた措置が、人の権利を「重大かつ顕著に違法に侵害している」と判断しました。

 

一つは、亡命希望者の受付について。もう一つは、自転車での移動の自由についてです。

 

一時期コンセイユデタの判決が緊急事態宣言発令以降、国よりになり、国敗訴の判決を書かなくなったとの批判がありましたが、国に対して厳しい判決が続いて出されました。

 

それぞれ内容は以下のとおりです。

 

【緊急事態宣言延長に関する政府法案に対する意見】

 

政府作成の法律案は、コンセイユデタの諮問に諮ることとなっています。

法律案については、特段の違法はないとしたものの、いくつかの注意を喚起しています。

 

 

 

 

概略以下のとおりです。

基本的人権の保障の観点から、国に対する法案修正の要望を行っています。

 

https://www.conseil-etat.fr/ressources/avis-aux-pouvoirs-publics/derniers-avis-publies/avis-sur-un-projet-de-loi-prorogeant-l-etat-d-urgence-sanitaire-et-completant-ses-dispositions

 

  • 法案の趣旨は、3つの原則にあると理解する。すなわち、守る、試す、隔離するである。

 

  • コンセイユデタは、現状に鑑みて2か月間の緊急事態宣言の延長はやむを得ないと考える。

 

  • しかし、コンセイユデタは、とりわけ以下の点において、政府の注意を喚起する。

 

― まずは、期間である。

 

多くの場合、特例措置の期間は3月23日からの当初の2か月間、その後延長の2か月、これに加えて1か月となっている。これは、3月17日からの国民の外出禁止に基づく全国の様々な動きの停止により正当化されたものである。したがって、コンセイユデタとしては、政府に対し、近日中に、ケースバイケースでその必要性とそれが必要性に比例するものとなっているかを再検証することを要請する。

 

― 法案は、公衆衛生法典の改正を予定している。

 

コンセイユデタは、健康の保護という憲法的価値を持つ目的を擁護するという観点から、法案が、公衆衛生上の重大な問題により生じる健康上のリスクと、とりわけ1789年人権宣言第2条及び第4条、そして憲法66条によりその補償が司法権へと託された個人の自由である往来の自由及び私生活上の自由との間でバランスを欠くことがないよう、法案が調和を図るものとなるよう監督するものである。

 

また、コンセイユデタは、法案の内容がEU法上の権利や基本権の保護を尊重したものとなるよう監督する。

 

コンセイユデタは、コンセイユデタが提案する文言に置き換えることを条件として、以下に関する公衆衛生法典の改正を容認する。

 

― マスク着用の義務付けにかかる公共交通機関による移動(L.3131-5条1)及び人々が集まる場所の再開(L.3131-15条5)に関する条項

 

― 医療従事者等の徴用に関する条項(L.3131-15条7)

 

― 感染の疑いがある人の隔離措置(検疫)(L.1313-15条3、4)

 

  これについては、コンセイユデタは、対象となる人(感染地域からフランスに入国しようとする人等)をさらに限定することを要請する。また、政府は、検疫隔離を行う際には、生活必需品にアクセスできる状態等を条件とするが、コンセイユデタは、通常の家族生活を送ることのできること、また未成年者に対し配慮を払うという条件を加えることも要請する。

 

  法案においては、入国者の検疫隔離措置あるいは隔離措置については、対象者は、「自由と勾留」裁判官に審査請求をすることができる。(※自由と勾留裁判官とは、通常刑事事件で勾留などの身柄拘束に関し判断をする権限を有する裁判官)また、この期間は14日に限られるが、その延長は当事者が同意をした場合、あるいは自由と勾留裁判官の許可があった場合に限られる。

 

 コンセイユデタは、法案は、すべての自由の制限は司法権の審査に服さなければならないという憲法66条の要請を満たすものであると考える。

 

 しかしながら、コンセイユデタは、以下を提案する

 

  • 申立てを受けてから、自由と勾留裁判官は、72時間以内判断を示さなければならないが、同様に、職権でも案件を審理できること、県知事は隔離期間の延長を考える場合には、8日以内に申立てを行うべきであること、14日の期限満了前に自由と勾留裁判官が判断を示さず、また当事者が同意をしていない場合には、隔離措置が当然に解除される旨明確にすること

 

  • 隔離措置の最大期間を1か月とすること

 

  • 県知事は、対象者が電話あるいはインターネットの手段によって外部とコミュニケーションをとれる状況であることを保障すること

― さらにコンセイユデタは、法案の中に、緊急事態発令の手前の状況であり、何らかの個別の措置が必要とされるような事態に関する条項がないということを問題視する。この場合であっても、隔離措置などの自由を侵害する措置が取られることもあり得、したがって、政府に対しては、法案が憲法および条約上の要請を満たすものとなるよう見直すことを求める

 

― 法案第6条は、感染症拡大防止を目的とする、情報の共有システムの設置を許可する。

この法案は、厚生大臣、公衆衛生庁、保険機関及び地域健康庁との間で、その情報を共有することを認めるとしている。

コンセイユデタは、法案がそのために定める条件は、1789年人権宣言2条に基づく私生活の保護、欧州人権上やきう8条及びGDPRの規定に違反するものではないと考えるが、情報収集の目的が厳密に守られていること、暫定的な措置であるということに注意を喚起する。

 

 

【判決】

 

緊急事態宣言下の国の措置を違法だと断じる判決が2件続きました。

 

【2020年4月29日判決−亡命者リストへの登録を再開しないことが人権侵害であること】

 

https://www.conseil-etat.fr/actualites/actualites/le-conseil-d-etat-ordonne-au-gouvernement-de-retablir-l-enregistrement-des-demandes-d-asile

 

 

 

 

 

コンセイユデタは、国に対し、5日以内に、また、covid-19の感染防止のために必要とされる措置を講じた上、フランスへの亡命者リストへの登録受付の再開及び電話相談窓口の再開を命じる。

 

同様の案件に関してはすでに同じ内容の申立てが行われ、コンセイユデタは4月9日、国の側が、とりわけ弱い立場にある人を優先的に登録受付を継続すること、また登録を求める人の有無の調査を継続することを約束していたため、その時点では基本権に対して重大かつ顕著に違法な侵害があるとは判断しなかった。

 

しかしながら、裁判官は、提供された資料に鑑み、国が講じた措置は不十分であると判断する。

 

裁判官は、国の説明と異なり、窓口に必要最低限の人員を配置することは可能であると考える。危険を回避するため措置やソーシャル・ディスタンスを確保できないという国の主張も認めない。

 

以上より、国が亡命者の登録受付を実施の怠慢は、亡命権に対する重大かつ顕著に違法な侵害を構成し、緊急審理裁判官の介入を正当化する。

 

 

【2020年4月30日判決 − 自転車の利用が基本的人権であること】

 

https://www.conseil-etat.fr/actualites/actualites/le-gouvernement-doit-indiquer-publiquement-que-le-velo-est-autorise-durant-le-confinement

 

 

 

 

外出禁止措置が取られている現状、外出はそれを必要とする理由がない場合に認められない中、自転車の利用者を違反者として取り扱う例が存在する。しかし、法令上、移動方法を明示したものはない。

 

自転車の利用は、往来の自由及び個々人の自由の尊重の権利に基づき保障されるものであり、この点を明確にしない政府の姿勢は、その権利に対する重大かつ顕著に違法な侵害となる。

 

したがって、コンセイユデタは、政府に対し、公に、そして大きく、自転車による移動は許可されると明示することを命じる。

 

***

 

欧米ではできる強権発動がなぜ日本ではできないのか、という話もありますが、まさに、それは、何よりも自由を愛するフランス人が我慢を受け入れているからではなく、フランスでは、強権発動と同時に、このような審査が存在し、行政の監督がなされ、権利侵害が最小限に抑えられるようになっているからです。

 

もし何らかの事態に備えて強権発動が必要だと考える場合には、合わせてバランスの取れた制度構築の議論が必要でしょう。

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