裁判所と弁護士会:他の国の状況

  • 2020.05.21 Thursday
  • 15:02

パリ弁護士会が、海外にいるパリ弁護士会会員に、それぞれの国での裁判所や弁護士会の対応についてインタビュー記事を載せました。

2020年5月20日付のパリ弁護士会会報です。

 

https://fr.zone-secure.net/109394/1178241/#page=1

 

 

 

会報表紙

(なんていうか弁護士会の会報なのにさすがセンスいい)

 

対象となったのは、マリ、日本、アルゼンチン、ロシア、カナダ、(アメリカ)

 

 

 

日本はなんと一番マリに近い。

 

特集のタイトルは、「同じ危機、異なる状況」。

 

感染者や亡くなった人の数は各国で異なるにせよ、同じウイルスによる危機的状況を前に取られる対応が違うということは、その国々での司法や弁護士の在り方を浮き彫りにします。そして、この状況が世界各地で同時に起きている、タイムラグもないということから、通常時以上に、比較法的な検討を容易にすると思います。

 

所与の状況が同じ(同じウイルスの蔓延による裁判所の閉鎖)な場合に、結果として現れてくる状況(裁判所や弁護士会の対応)を見ることにより、そこに適用されるその社会ごとの関数(どのような政治哲学、思想、理念、そもそもそのようなものがあるのか否かという点も含めて)を探れるように思います。

 

***

 

この特集では、各国の弁護士に質問がなされています。

 

その質問は、

 

仝什澆離灰蹈覆隆鏡拡大に関する状況は、裁判や弁護士の業務にどのような影響を与えましたか?

 

∪府や弁護士会から、弁護士に対してどのような対策が講じられましたか?

 

4靄榲人権に対する対応はどうなっていますか?

 

といったものです。

 

それぞれの概略は以下のとおりです。

(アメリカ(カリフォルニア)に関しては回答者の回答内容が少なかったため割愛しています。)

 

 

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マリ Daouda BA 弁護士

 

仝什澆離灰蹈覆隆鏡拡大に関する状況は、裁判や弁護士の業務にどのような影響を与えましたか?

 

裁判所の閉鎖:2020年3月19日〜5月11日

ただし緊急を要する手続きは別とする。

健康と生命を守ることが優先するため、裁判所の継続性については特段の配慮は払われない。

 

 

∪府や弁護士会から、弁護士に対してどのような対策が講じられましたか?

 

マリ政府は、支援金として約1000万ユーロを準備し、また、鉱山会社、銀行、保険会社等がマリ政府に対して巨額の資金提供を行った。これらの資金が、コロナ対策に使われることを期待している。

 

4靄榲権利に関する対応はどうなっていますか?

 

マリでは全面的な外出禁止令はないが、2020年3月25日付で大統領が、21時から翌朝5時までの間の夜間外出禁止措置を命じる政令を発令した。

 

また、過剰収容が問題となっている刑事収容施設での感染拡大を避けるため、ミッシェル・バシュレ国連人権高等弁務官の要請に基づき、大統領は1200人の受刑者を恩赦とした。

 

アルゼンチン、Christophe Dubois弁護士

 

仝什澆両況は裁判や弁護士の業務にどのような影響を与えましたか?

 

緊急の事案を除き、大統領は直ちに裁判の停止を決定。この根拠は、憲法に根拠をもつ例外的状況かの「必要かつ緊急政令」であり、この政令やその後国会により承認されなければならない。この裁判の停止は、5月10日までとされた(その後延長の可能性あり)。

 

しかしながら、最高裁はこのような決定にもかかわらず、オンラインの方法を用いることにより、早期に裁判手続きの再開を決定した。

 

− (裁判所により)書面の電子提出とビデオ会議の方法による期日

 

− 裁判官のサインを電子サインとすることを許可し、遠隔地からの告訴や訴え提起の受付にも特別な対応を導入

 

− 一定の裁判所においては、調停手続きにおいても、オンラインでのコミュニケーションの方法により実施。一定の手続きにおいては調停前置主義が取られているため、調停手続きを行えないことは裁判を麻痺を生じさせるため必要な措置

 

− なお、アルゼンチンは連邦国家であるため、これら措置の実施は州によって異なり、十分に準備のできていた州とそうでない州との間で差が生じた。

 

∪府や弁護士会から、弁護士に対してどのような対策が講じられましたか?

 

弁護士会が政府に対し働きかけたことにより、弁護士は、社会保障料の納付(使用者負担分)に関する特例及び他のセクターのために予定されていた融資を受けることが可能となった。

 

アルゼンチンでは、外出禁止及び移動の禁止が発令されたが、複数の州において、弁護士は移動を許可されている。その際の衛生保持に関する遵守事項は、裁判所によって異なる。

 

4靄榲権利に関する対応はどのようになっていますか?

 

― 国会は閉鎖され、国会の委員会は業務を継続し、その後オンラインの方式で国会も審議を再開

 

― 受刑者及び勾留されている人に関し、政府は特段の措置を講じていない。

しかしながら、裁判所は、感染の場合のリスクが高く、また対象となる罪が重くない人々に関しては自宅での拘禁を命じた。

 

― 移動の自由に関しては、政府は二つのアプリを導入した。

・外国からアルゼンチンに入国する人に対して、14日間「Covid-19 厚生省」というアプリをインストールする義務

・国民に対しては、自分にCovid-19の症状が出ていないかを自己診断することのできるアプリのインストール

これらのアプリにより政府がGPS機能を使い、ユーザーの位置関係を把握することが可能となるため、個人情報の保護の観点から問題視する声もあがっている。

 

ロシア Julie Losson弁護士

 

仝什澆両況は裁判や弁護士の業務にどのような影響を与えましたか?

 

裁判所は3月19日から5月1日まで閉鎖された。原稿が書かれたタイミングでは外出禁止は継続しているが、裁判は再開している。

 

裁判所の閉鎖期間中も、裁判は継続された(最高裁3月18日及び4月8日判決)

 

・訴え提起や申立てはオンラインあるいは郵送で可能

 

・憲法、行政に関する訴訟、刑事訴訟であり緊急性を要するもの、当事者の出頭が必要のないもの、あるいは未成年を対象とする案件は継続審理される(全体の10〜15%のケース)

 

・上記以外のケースでも、裁判官及び裁判所がそれぞれの判断で審理の継続を決定できる。

 

・ビデオ会議の方法での開廷が要請される(ただし弁護士は弁護権の侵害の危険があるとして反対している人が多い)

 

・法律相談等に対応する弁護士、公証人及び執行吏の全国リストを作成

 

・全国の弁護士会は、電話相談だけでなく、重要なケースにおいて相談者と直接面談をして相談を行う体制を整えた

 

・刑事収容施設は家族面会を禁止

 

・その他のケースについては、期日が延期された。但し、多くの弁護士たちは、自分たちを排除した上で審理がなされるのではないかとの不安から、閉鎖された裁判所に赴くなどした。

 

∪府や弁護士会から、弁護士に対してどのような対策が講じられましたか?

 

弁護士会:

― 法律相談担当の弁護士に対するマスクの提供

 

― 弁護士からの質問に答えるために、弁護士会がビデオ会議の方法での対応を整備

 

― ロシアの全国の弁護士会及び単位会がほぼ毎日webinarの方法で研修を実施

 

― 2020年度の会費免除

 

― 弁護士会から政府に対し、税金の支払い猶予、社会保険料の使用者負担部分、年金掛け金の支払い等の一部減免を申し入れ(まだ政府からの回答はない)

 

4靄榲権利に関する対応はどのようになっていますか?

 

人権保障に関してはロシアは集団の安全の確保が人権に優越するとされるので、見るべきところはない。

 

3月31日からは、違法な移動、感染症に関する間違った情報の流布、医薬品の価格を吊り上げる行為などが罰金の対象となり、1000万ルーブルまでの罰金が科されることになる。移動はGPSや監視カメラで監視されている。

 

カナダ Elisa Henry 弁護士、Fanny Albrecht弁護士

 

仝什澆両況は裁判や弁護士の業務にどのような影響を与えましたか?

 

ケベックでは、緊急事態宣言が2020年3月13日に発令された。生活に本質的でないサービスは停止が求められるが、法律事務所は、「生活にとって本質的である業務のリスト」に入っている。

 

裁判所も緊急性を有する事案を除き業務を停止した。時効や手続きに関する期限については中断することとされているが、裁判所は弁護士に対して、事件を進行するように要請している(2020年4月17日付最高裁声明)。

 

カナダ最高裁を含め多くの裁判所はビデオ会議や電話などの方法により期日が行われた。多くの裁判所においてはオンラインでの申立てが認められている。

 

弁護士による無料法律相談も実施されている。

 

∪府や弁護士会から、弁護士に対してどのような対策が講じられましたか?

 

政府からの支援としては、個人事業主に対して、最大4か月間、毎月2000カナダドルが支給される。

 

ケベックでは中小企業向け(弁護士含む)に対し、最大5万カナダドルの貸付あるいは保証が提供される。

 

弁護士会に関しては、ケベックでは弁護士会の会費の納付猶予が認められた。

 

4靄榲権利に関する対応はどのようになっていますか?

 

私生活の保護と感染者及び感染が疑われる人に対する差別が問題となり、行動の追跡アプリについても問題となっている。

 

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回答がそれぞれなのですべての論点が埋まっているわけではないですが、裁判所と弁護士会の対応についてまとめみると以下のような感じになります。

 

 

裁判所の状況

ビデオ会議など裁判の継続のための工夫

弁護士会による弁護士の支援
(会費免除や経済的問題など弁護士を守るための対策を求める政府への申入れ)

その他

マリ

業務停止

特段なし

なし

 

日本

業務停止

特段なし

なし

弁護士による無料法律相談の実施、オンライン研修の実施

アルゼンチン

業務停止

オンラインでの期日、電子提出等

あり

社会保険料の納付猶予など

 

ロシア

業務停止

オンラインでの期日、電子提出等

あり

政府に対する申入れ

弁護士のためのオンライン研修(ほぼ毎日)

カナダ

業務停止

オンラインでの期日、電子提出等

あり

会費の支払い猶予

弁護士による無料法律相談の実施、一部ビデオ研修

フランス

業務停止

一部オンラインでの期日あり

あり

会費の支払い猶予

無料法律相談、オンライン研修、毎日テレビでの法律問題の一般向け説明、弁護士や市民向けの活発かつ詳細な情報発信(HP、facebook等)、弁護士会による基本的人権擁護のための各種裁判の申立て、政府への様々な申入れ、司法大臣との協議

 

フランスについては、とても積極的に活動しているのは別の記事で書いたとおりです。

 

残念ながら日本は、裁判所に関しては、オンラインの期日ができないとか技術的・法律的な制約はあるにしても、どうにかして期日を行おうという意欲が感じれないこと、また、弁護士会の活動については、日本は個々の弁護士の素晴らしい日々の努力(無料法律相談や様々な情報発信など)はありますが、マリ以外の国に比べると、残念ながら組織としての取り組みが弱く、また、弁護士向けの対応や情報発信が足りていない状況です。

 

もちろん、これは限られた国に関する情報なので、各国の事情はいろいろとあると思います。

 

とはいえ、緊急事態において、司法や弁護士会の役割や位置づけに関して考える機会にはなりました。