緊急事態宣言を延長する法律に対する憲法院の判断

  • 2020.05.25 Monday
  • 01:02

 

 

フランスは緊急事態が2020年5月11日の法律で、2020年7月10日まで延長されました。

 

延長は法律でのみ行われるので、まず法案が作成され、それがコンセイユデタでの審理を経たのち(以前の記事http://ayanokanezuka.jugem.jp/?page=1&cid=7)、両院で可決されました。そしてその後、改めて法律の施行前に憲法院に合憲性の審査の負託が行われました。当初の申立てはマクロン大統領から行われました(そのほか、上院議長、上院の60名以上の議員、下院の60名以上の議員も申立て)。

 

 

 

 

少しずつ状況も落ち着いている今日この頃ですが、そうであるだけいっそう、権利制約に観点からの審査がしっかり行われました。

 

憲法院の判断を自分の今後の参考のためも含めてまとめておきたいと思います。

 

1.過失犯規定について

 

新法は、「地方行政や使用者」などの意思や政策決定者に関しての過失の有無については、その職務や地位の性質など、公衆衛生に関する緊急事態の基礎となった状況の中で行為者が有していた能力、権限、手段に鑑みて、刑法121−3条(過失犯規定)は適用される、としました。

 

今回すでに政府に対しては業務上過失致死などの内容で、60件以上の刑事告訴がなされています。

 

このような状況の中で、今後責任ある地位にある人々の刑事責任がどのように問われるのかが問題になります。

 

そこで、新法は過失犯規定の中で、その人が具体的な状況下で具体的にどのような権限等を有していたかということを過失犯の成立にあたって判断することを求めています。

 

これについては、行政や使用者などについて特別な定めを置くものであり、法の下の平等に反するという訴えもなされました。憲法院は、この新しい規定は、すでにある刑法の規定を解釈するだけのものであり、新しい人のカテゴリーを作るものではないと判断しました。

 

日本ではあまり問題にならない、政策決定者や責任者の責任追及についてですが、法理論的には十分あり得る解釈だと思います。

 

 

2.緊急事態宣言について

 

様々な生活面での制約を伴う緊急事態宣言は、国民の健康を守ることを目的とするものである一方、フランス共和国の領域で暮らす人々に認められる権利と自由と調和が図られなければならないとしています。

 

そこで重要なのは、1789年人権宣言上の権利です。

 

 

第2条(政治的結合の目的と権利の種類)

 あらゆる政治的結合の目的は、人の、時効によって消滅することのない自然的な諸権利の保全にある

 これらの諸権利とは、自由、所有、安全および圧制への抵抗である。

 

第4条(自由の定義、権利行使の限界)

 自由とは、他人を害しないすべてのことをなしうることにある。したがって、各人の自然的諸権利の行使は、社会の他の構成員にこれらと同一の権利の享受を確保すること以外の限界をもたない。これらの限界は、法律によらなければ定められない。

 

第11条(表現の自由)

 思想および意見の自由な伝達は、人の最も貴重な権利の一つである。したがって、すべての市民は、法律が定める場合にその自由の濫用について責任を負うほかは、自由に、話し、書き、印刷をすることができる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

より具体的には、

 

・2条と4条により保護される往来の自由

 

・2条より保護される私生活の尊重

 

・4条より保護される営業の自由

 

・11条より保護される集団的意見表明の自由

 

が侵害される権利とされます。

 

緊急事態宣言の延長によって、一定の行動の自由が制約されること、他方で多くの人が集まることのできる場所を一時的に閉鎖することを命じることに関する具体的措置は、これらの重要な権利や価値の間で調和を図っているといえるため、憲法上問題はないとしました。

 

 

3.待機と隔離措置について:14日間の待機及び隔離措置

 

感染の可能性がある人の14日間の自宅等での待機と、14日間の隔離措置については、憲法院は、何人も恣意的に拘禁されてはならないと定める憲法66条に鑑み、必要性のない厳格な措置により自由が阻害されてはならず、追及されている目的に比べて、その自由の侵害は、適合的であり、必要であり、かつ比例的でなければならないとしました。

 

その上で、憲法院は、自宅待機や隔離措置をとること自体は、その対象者が限定されており、手続きも医師の診断書を要求することから、法は、必要な場合に限り行動の自由を制約しているため、憲法に違反しないとしました。

 

他方で、その措置に関するコントロールについては、可能な限り早い段階で、裁判官の関与がある場合に限り、権利が尊重されているとみなされるという原則を憲法院は改めて指摘しました。

 

現在の法律においては、自宅待機や隔離措置の14日間を超えた延長は裁判官の許可を要請していますが、その他の場合においては、裁判官の関与が明確にされていません(なお、自宅待機や隔離措置の対象となった人はいつでも裁判官に対し異議の申立てをすることができます。)。したがって、裁判官の関与なしに、一日あたり12時間以上の自宅待機や隔離措置を伴う延長は認められないと解釈するべきであると憲法院は指摘し、そのような解釈の留保をつける範囲において、法律は憲法に違反しないと判断しました。

 

 

4.トラッキングについて

 

感染拡大を阻止するための濃厚接触通知アプリケーションの導入に関し、憲法院はまず、憲法上の要請として、個人情報の収集や、登録、移転等は一般の利益により正当化されなければならず、その目的のために適合的であり比例的でなければならないということを改めて指摘します。また、とりわけ医療情報に対しては極めて高度な注意が払われなければならないとします。

 

この通知アプリは当事者及び濃厚接触者に関する情報を当事者の同意なしに収集するものであり、憲法上の私生活の保護の権利を制約するものであるが、感染防止という目的のために必要最小限のものでなければならないとする中で、できる限り行政が詳細に手続きを定め、情報の処理に関して業務委託を行う場合にはその委託先を十分に監督するよう要請をし、そのようなことが確保されることを前提に、通知アプリの導入に関する条項は憲法に違反しないとします。しかしながら、医療関係者や保険会社を超えて、ソーシャルワーカーに対する情報の共有は、感染拡大防止に直結するものではないため、憲法上認められない、としました。

 

***

 

こうして、2020年5月11日の法律による緊急事態における権利の制約の審査は、3月23日の時点よりも細かくなされ、法案提出前のコンセイユデタの審査に続き、憲法院でも厳格な審査がなされました。

 

緊急事態における権利制約はどこまで許されるかという審査・アプローチがしっかり行われています。

 

日本では結局明日からの緊急事態宣言解除にあたっても、この点うやむやなままで来てしまい、このままうやむやに収束していきそうです。

 

最後に、5月11日の法律と憲法院の判決に関する弁護士の反応が興味深かったのでメモしておきます。

 

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5月19日にwebinarでこの法律と憲法院の判断に関する研修が行われました。

オンラインで800人ほど参加したようです。

 

この研修では、他にも想定される民事上、刑事上、行政上の責任追及のあり方についても議論がなされました。

 

特筆すべきだったのは、最後のまとめの部分での以下のような発言です。

緊急事態を日常化せずに、これを緊急事態における権利侵害と考え、緊急事態を理由として、どの程度まで権利侵害が容認されるのか、弁護士の役割は何かという視点は意識しておきたいと思います。

 

― 「緊急事態時の措置に誰もが慣れてしまってこれが日常化してしまうことに注意しなければならないこと」

 

― 「目的が良くてもそのことゆえにすべての手段が正当化されることはない。法治国家にとっては譲ることのできない理念がある。弁護士会は、「自由の歩哨」Sentinelle des Libertésである。緊急事態であるからといって、人々の権利が侵害されていないかを監視するための「自由の歩哨」プロジェクトを立ち上げた。私たち弁護士は、法治国家の戦士として、嘘を告発し、譲ることのできない理念の侵害すべてを告発していく。」

 

― 「どのような場合においても、権利とそれに対抗する権利との間の均衡は保たれなければならない。私たち弁護士の活動によって裁判官の意識にも働きかけ、司法をより人の顔をもったものとしていくことができる。こうして私たちは法治国家を実現し、私たちが住みたい国を作っていく。弁護士の活動は個人的であるが、このような考えを共有することによって、私たちはつながり、連帯することができる。」

 

― 「大臣に対する刑事告訴が数多く行われていることに対する批判もある。予見できなかったことについて結果責任を問うことはできないという考えもある。しかし、とりわけ医療従事者は、情報を求めて告訴を行う。彼らは、なぜどうしてそのような決定がなされたのか、他に政府としてどのような決定をとることができたのかということについて答えを求めている。」

 

考えさせられます。