友愛と連帯の罪

  • 2020.07.11 Saturday
  • 18:35

 

少し古い事案ですが、憲法院がフランスの標語である「自由・平等・友愛」のうち、「友愛」に憲法的価値を認め、裁判規範となることを初めて認めた判決です(2018年7月6日判決)。

 

憲法院は、「友愛」の原理の名のもとに、いったんフランス国内に入ってきた不法滞在の外国人の交通や滞在を人道的目的をもって援助することを罰することは許されないという画期的な判断をしました。

 

入国の手助けは新たな不法状態を作ることになるから許されないが、いったん入国した外国人に対して人道的な援助をすることは罪にあたらないという判断です。

 

 

 

 

【事案】

 

― Cédric Herrou氏:200人のエリトリア人及びスーダン人の移民のイタリアからフランス入国を援助し、フランスの自宅及び受入れキャンプで宿泊させたことについて4か月の拘禁刑(執行猶予)(2018年2月10日エクスアンプロヴァンス控訴院判決)

 

― Pierre-Alain Mannoni教授:3人のエリトリア人のため駅まで付き添いをしたことについて2か月の拘禁刑(執行猶予)

 

Herrou氏は36時間の身柄拘束の際に、以下のように担当検察官に言ったとされます。

 

« Sachez, monsieur le procureur, que je resterai fidèle à mes convictions, que ma France, que notre France continuera à défendre les droits des hommes, des femmes, des enfants présents sur le sol français au nom de nos valeurs qui fondent la République française. »

 

「検事殿、私は、私のフランス、私たちのフランスが、フランス共和国の基礎となる価値の名の下に、現在フランスにいる男性の、女性の、子供の権利を守り続けるであろうという私の信念に忠実であり続けます」

 

この2名が裁判所により有罪の判決を受けたのは、外国人の入国と滞在及び庇護権に関する法律で定める滞在許可のない外国人の入国、通行、滞在を援助した罪、通称「連帯の罪」あるいは「ホスピタリティの罪」に基づくものです。

 

両名はこの「連帯の罪」が憲法に違反するとして、憲法院に判断を求めました。

 

 

 

友愛のアレゴリー

 

Fraternité.

Debucourt, Philibert Louis , Graveur
Debucourt, Philibert Louis , Dessinateur
Musée Carnavalet, Histoire de Paris

 

 

【外国人の保護】

 

「連帯の罪」はフランスでも歴史の長い、不法滞在の外国人をどのように守るかという戦いの一環でした。

 

フランス革命の当初は、国籍を申請しなくても外国人にはフランス国籍が認められる時代を経て、滞在許可のない外国人に対する対応については様々な変遷がありました。

 

しかし、恐怖政治の時代には、1793年2月26日のデクレにより、有償無償を問わず亡命貴族あるいは国外追放の法律の適用対象となった者をかくまった者は6年の拘禁刑とされました。

 

20世紀になるとフランスはヨーロッパでも最も移民を受け入れる国となっていましたが、

世界恐慌の後50万人の不法滞在者の強制送還に踏み切り、その後ナチスドイツやムッソリーニのイタリア、フランコのスペインを逃れてきた人々に対しても強硬的な対応に応じていました。1938年5月2日のデクレ‐ロワでは、不法滞在の外国人の入国、交通、滞在を容易にし、容易にしようとした者は、100から1000フランの罰金及び1か月から1年の拘禁刑に処することとされていました。

 

フランスがドイツと1940年6月22日に休戦協定を締結した後には、ユダヤ人をどうかくまうかということが問題となり、「市民的不服従」の名の下、多くのユダヤ人をかくまったフランス人もいました。

 

戦後はしかしながら、1938年のデクレ‐ロワと同じ内容の法(1945年11月2日のオルドナンス)が制定され、その後、1991年、1994年、1998年及び2003年の法改正により、重罰化が図られていったといいます。

 

このように外国人に対して援助をすることに対して刑罰に対して抗議をする人々からは「連帯の罪」という名称が与えられ、一般化していきました。

2003年には、354の団体及び2万の人々が「連帯の犯罪者のマニフェスト」を策定しました。その中では、不法滞在の外国人を無償で家に泊めた人々が訴追され、あるいは訴追の恐れの中にあることが明らかにされていました。

 

2005年に1945年のオルドナンスが、「外国人の入国と滞在及び庇護権に関する法典」の中に引き継がれることになりました。

 

このような中、南フランスでイタリア国境を越えて逃れてくるアフリカの移民たちに対する援助が問題となったのです。

 

【ホスピタリティ】

 

こうした援助や「連帯」を考えるとき、キーワードになるのが「ホスピタリティ」です。「連帯の罪」を「ホスピタリティの罪」という人もいます。

 

このホスピタリティは単なる「おもてなし」と超えた道徳的、時には宗教的義務が想起されます。

 

このことを考えるとき、ロマン主義の文学を切り開いたユゴーの「エルナニ」のこの節を思い出さずにはいられません。

 

 

 

エルナニ

(これはヴェルディのオペラのための挿絵)

 

Scene from the Opera of "Hernani" at her Majesty's Theatre.

Anonyme , Graveur
Anonyme , Dessinateur
Anonyme , Editeur

En 1845

2e quart du 19e siècle

Maison de Victor Hugo - Hauteville House

 

ドン・リュイ・ゴメス公爵は、恋敵のエルナニが巡礼を名乗り自分の城を訪ねてくるにあたり、以下のように受け入れます。

(「エルナニ」ユゴー作、稲垣直樹訳 岩波文庫より)

 

小姓                 殿、城の門に

  男が一人参りまして、巡礼か、物乞いか存じませぬが、

  一夜の宿を求めております。

 ドン・リュイ・ゴメス 

              巡礼でも物乞いでも構わぬ。

  『よその者をもてなせば、幸いもともに訪れる』と申すからな。

  入れてやるがよい。」

 

ドン・リュイ・ゴメス  無理に名乗るには

  及ばぬ。この城の誰にも、お名を知る権利などないからな。

  一夜の宿を求めて、参ったのだな?

 エルナニ             はい、公爵様

 ドン・リュイ・ゴメス             ありがたきこと。

  よくぞこの城に来てくれた!わが友よ、好きなだけここにいて下され。遠慮は

  ご無用に願いたい。お名のことは、私の客人とでも申しておこう。

  貴公が誰であれ、構うことではない。なにしろ、憂うことなく、

  悪魔といえども迎え入れたはず、神がここに遣わしてくださったとなれば。」

 

ドン・リュイ・ゴメス公爵はのちにこの巡礼が恋敵であることを理解するが、その恋敵の引き渡しを要請する国王に対しては、自分の命をかけてもこれを断ります。

 

ドン・リュイ・ゴメス 巡礼殿、貴公の首に指一本触れようものなら、下僕たちは自らの首があぶないのだぞ!

  エルナニであろうが、もっとおぞましい人間であろうがな。

  貴公の命と引き換えに、黄金ではなく、帝国を与えようと言われようが、

  わが客人よ!この城では、私は貴公を守らねばならぬ、

  たとえ国王を向うに回しても。貴公を神から預かったからには!

  貴公の頭から髪一本落ちたところで、私は命を捨てなければならなぬのだ!」

 

ドン・カルロス          即刻、お尋ねものを引き渡せ!  

 ドン・リュイ・ゴメス 

  この肖像画は私めでございます。国王ドン・カルロス!お断りいたします!

  この肖像画を見ながら、世の人々がこう申すのをお望みでありましょうが。

  『この最後の肖像画は、これほど高貴な一族の立派な子孫に生まれながら、

   恐るべき卑劣漢で、客人の首を売り渡した』などと。」

 

通常の生活でも、フランス人が人をよく家に招く、泊めるということに驚き(なかなか慣れない)、この戯曲を読んだときにも、客人を守ることが名誉となることに驚きました。

 

この背景には当然隣人を愛することを求めるキリスト教の精神があると思いますし、聖書には、人をもてなすことに関する記述がたくさんでてきます。

 

『ルカによる福音書』の「客と招待する者への教訓」14 章 12 節〜14 節

 

昼食や夕食の会を催すときには、友人も、兄弟も、親戚も、近所の金持ちも呼んではならない。その人たちも、あなたを招いてお返しをするかもしれないからである。宴会を催すときには、むしろ、貧しい人、体の不自由な人、足の不自由な人、目の見えない人を招きなさい。そうすれば、その人たちはお返しができないから、あなたは幸いだ。正しい者たちが復活するとき、あなたは報われる。

 

『ローマの信徒への手紙』「キリスト教的生活の規範」12 章 13 節

 

聖なる者たちの貧しさを自分のものとして彼らを助け、旅人をもてなすよう努めなさい。

 

『ヨハネの手紙 三』「善を行う者、悪を行う者」5 節〜8 節

 

愛する者よ、あなたは、兄弟たち、それも、よそから来た人々のために誠意を持って尽くしています。彼らは教会であなたの愛を証ししました。

どうか、神が喜ばれるように、彼らを送り出してください。この人たちは、御名のために旅に出た人で、異邦人からは何ももらっていません。

 

 

【連帯の罪の内容】

 

本件がキリスト教的な考え方に基づいたと明確に言われているわけではありません。

しかしながら、そこには確固とした困窮している違法人を守るという精神がありました。

 

それに対する罰則は以下のとおりとなっていました。

 

外国人の入国と滞在及び庇護権に関する法典L.622−1条は、入国資格のない外国人の入国を助け、あるいは助けようとした者は3万ユーロの罰金としています。

 

但し、L.622−4条により訴追免除が認められていて

 

― 家族や配偶者、事実上の配偶者による援助

― 無償で、法的助言あるいは外国人の尊厳と身体の完全性をまもるために提供されたレストランでの食事、宿泊、医療の提供、援助である場合、

 

には処罰されないとなっています。

 

【憲法違反の主張】

 

これに対して有罪の宣告を受けたHerrou氏らの側は、いわゆる連帯の罪が憲法違反だとして、違憲の申立をしました(QPC)。

 

ここで同氏らは、

。味僑横押檻款鬚亡陲鼎訴追の免除は、外国人の不法滞在の場合にのみ適用され、入国の際には適用されないことが、友愛の精神に反するとし、

 

また、

 

⇔禺┐気譴討い覆ぬ欺の単なる人道上の援助行為を行った場合にも訴追免除がなされないことから、同じく友愛の精神に反している

 

と主張しました。

 

【憲法院の判断】

 

これに対して、憲法院は以下の通り判断しました。

 

**

 

憲法2条により、フランスの標語は『自由・平等・博愛』である。また、72−3条においても、『共和国は、自由・平等・博愛という共通の理想のもとに、フランス人民のなかに海外住民が存在することを承認する』としている。したがって、友愛は憲法的価値を持つ原理である

 

 

友愛のアレゴリー

 

La Fraternité

Anonyme , Graveur
Chéreau, Jacques-Simon (fils) , Marchand d'estampes

Après 1792

Musée Carnavalet, Histoire de Paris

 

 

この友愛の原理から、その他人が合法的にフランス国内に滞在できるか否かを問わず、人道的目的のために他人を助ける自由が帰結される。

 

但し、どのような場合であれ、外国人に絶対的一般的な入国及び滞在の権利が憲法上保障されているわけではない。また、不法滞在との戦いはそれ自体憲法的目的を有する公序を保障するために必要である。

 

L.622−4条3項の訴追免除の規定は、滞在を対象とし、外国人の不法入国及び交通についても援助を提供することを罰しているが、入国と異なり交通の援助は新たに不法な状態を作り出すことにはならないしたがって、滞在許可のない外国人の国内の交通に対して、人道的な観点からの援助を行うことも罰する法律は、友愛の原理と公序の保障との間の均衡のとれた調和を図ったものとは言えず、刑の免除の場合を「不法滞在」に限ったL.622−4条は憲法に違反する。

 

さらにL.622−4条が、免除の対象を無償の「法的助言あるいは対象となる外国人の尊厳ある然るべき生活を保障するためのレストランでの食事の提供、宿泊、医療の提供、外国人の尊厳と身体の完全性をまもるために提供された援助」に限っていることについては、この中では、目的のいかんを問わず訴追の免除の対象となるのは法的助言だけであり、他の援助行為については、外国人の尊厳ある然るべき生活を保障するということを目的とすることが条件となる。友愛の原理からは、この訴追の免除規定は、同じ目的を条件とする限り、その他の援助行為についても適用されると解釈されるべきである。

 

したがって、このことを条件として、L.622−4条自体は憲法に違反するものではないと判断する。

 

憲法違反と宣言された条項は2018年12月1日以降廃止される。

本判決公表の日以降廃止の日までは、L.622−4条による訴追免除は、外国人のフランス国内通行の際に人道目的で行われる援助の場合にも適用されるものとする。

 

 

***

 

この判決により、「自由・平等・友愛」のすべてが憲法上の価値を持ち、裁判規範となることが明らかにされました。

 

この結果、L.622−4条による訴追免除は、滞在と通行の場合にも広げられ、対象となる行為は、無償かつ「法的上限あるいは法的、言語的福祉的援助その他の人道的目的のみを目的とした援助」に適用されることとなりました(2018年9月10日改正)。

 

ホスピタリティの精神は文化的な文脈を超えて適用可能かどうかの検討は重要かも知れません。

 

 

 

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