歴史的裁判の映像による保存

  • 2020.09.02 Wednesday
  • 22:57

 

 

歴史的な裁判の記録はどのようにして残すべきなのでしょうか。

 

今日パリで2015年のテロ(シャルリ・エブド襲撃事件等)の初公判が9月2日に開始しました。

もう5年前になるんですね。17人が犠牲になった事件です。

 

この事件は、フランスのテロ事件で初めて録画されることが決定しました。

 

今回の記事ではフランスの歴史的に重要だとされる裁判についての録画についてご紹介します。

 

 

 

 

 

 

日本のアンスティテュ・フランセ(旧東京日仏学院)でも追悼式が行われました。

 

 

どんな理由があるにせよテロは許されません。風刺画のゆえにテロが正当化されるわけではありません。

ただ、その問題とは別の問題として、風刺画が何をどこまで描いていいのかということについても考えさせられました。

 

 

【テロ事案の特別法廷】

 

この裁判では、14人がテロ行為の共犯として、パリの重罪院で審理が行われます。私訴原告(被害者や遺族で刑事裁判に参加をし、損害賠償を求める訴訟当事者)は200人、弁護士は100人以上が参加するという大型の裁判です。本来はもう少し早く開かれるはずでしたが、コロナのため延期されていました。

主犯の3名は現場で射殺されているため裁判の当事者にはならず、その共犯者の11名が出席、3名が欠席の下裁判が始まります。

 

通常、重大事案の場合には日本と同様、裁判員(フランスでは参審員)が裁判に参加して、事実の認定と量刑を決めます。

しかし、テロ事案においては参審員に対する危険性から、参審員なし、そのかわり5名の裁判官により審理が行われることとなります。

 

この特別法廷はパリに一か所のみ設置されていて、フランス全国どこにおいても発生したテロ事案を管轄します。

 

通常は、シテ島にあるパレ・ド・ジュスティスの中に法廷が置かれていますが、今回は人数も多いということから、移転したばかりの新しいパリの裁判所で裁判が行われます。

 

 

パリ控訴院の入るシテ島の裁判所

今回はここではありませんが現在テロ特別法廷が準備中とのことです。

 

 

裁判の期間は2か月が予定されています。

被告人の起訴罪名はテロ行為共謀罪ということで法定刑は20年〜30年です。

 

 

今回の裁判所はこんな感じだそうです。

 

 

 

STEPHANE DE SAKUTIN / AFP

 

(引用元)https://theconversation.com/le-proces-charlie-hebdo-une-epreuve-aussi-pour-letat-de-droit-145362

 

 

【裁判の録音・録画】

 

通常フランスでは日本と同様法廷を撮影・録画することは認められていません。

法律により禁止されています。

 

しかしながら、フランスの裁判は、1985年7月11日のバダンテール法により映像の歴史的記録を残すことを目的として認められるようになり、その条件は「文化財法典」において定められています。これは通常の裁判記録の公開ということではなく、歴史の記録という意味において保存されることになります。

 

なので、この裁判の映像あるいは音声による保存は、民事訴訟法典や刑事訴訟法典などではなく、「文化財法典」で定められているのが特徴です。

 

文化財法典によると、

 

− 職権であるいは当事者等の申立により、裁判の審理を録音あるいは録画することができる

− 人道に対する罪あるいはテロ犯罪については検察官の申し立てがあれば当然に録音あるいは録画される

− 裁判確定後すぐに誰でも録音あるいは録画を視聴・閲覧することが可能

− 複製・放送は許可が必要

− ただし50年経過後は、複製・放送は自由

 

となっています。

(条文は以下抄訳してあります。)

 

【実際に録画された裁判】

 

これまで実際に行われたのは、以下の録画です。

 

− クラウス・バルビー事件(185時間の録画、1987年)

  ※バルビーはナチスの親衛隊で、フランスのヴィシー政権のリヨンにゲシュタポの責任者として赴任し、ユダヤ人やレジスタンスのメンバーを虐殺した罪で、フランスで1985年に人道に対する罪で裁かれた。終身禁固刑で1991年にフランスの刑務所で死亡。戦後はボリビアに亡命し、軍事政権に協力。軍事政権崩壊後の左派政権の時代にフランスに身柄が引き渡されていた。

 

− HIV感染血液製剤・輸血に関する裁判(被害者のプライバシー保護のため録音のみ、1992年−1993年)

 

− ポール・トゥーヴィエ事件(108時間の録画、1994年)

 ※トゥーヴィエはヴィシー政権下での民兵団に参加し、ユダヤ人やレジスタンスを弾圧、殺害。1994年に人道に対する罪で終身禁固刑。1996年にフレンヌ刑務所で死亡。

 

− モーリス・パポン事件(380時間、1997年から1998年)

 ※パポンはヴィシー政権下のジロンド県の事務局長(国家公務員である県知事に次ぐ県のナンバー2)として、子供を含む多くのユダヤ人を連行・強制収容所に移送したなどの罪で1998年禁固10年に処せられた。レジオン・ドヌール勲章剥奪。最終的に高齢のため仮釈放され、2007年に病院で死亡。フランスの高級官僚(戦後パリ警視総監にも就任。この際にアルジェリア独立を求めるアルジェリア人の虐殺も指示したとも言われている。)が初めて人道に対する罪で裁かれるということで大きな注目を集めた事件。

 

 この事件はちょうど私が高校生のときにボルドーの重罪院で審理されていました。

 存命の被害者がほぼいない(生き延びた人もすでに亡くなっている人が多い)中、多くの歴史家が証言台に立ちました。裁くのは事件か歴史かという争点に関する議論も戦わされていました。

 

− ロベール・バダンテールに対して行われた歴史修正主義者による名誉棄損訴訟(申立人敗訴)

 

− トゥールーズの化学肥料工場の爆発事件(400時間、2009年)

 ※硝酸アンモニウムの爆発で29人が死亡、2440人が負傷、2万5000戸の家屋が崩壊した事件。2001年だったためテロ説が流れたが、事故との判断。

 

− チリの軍事独裁政権に関する裁判、被告人は欠席判決(2010年)

 

− ルワンダのジェノサイドに関する4つの訴訟(2014年―2018年)

 

***

 

ニュルンベルグ裁判でも録画が行われたとのことですが、例えば歴史的な裁判では文字起こしではわからないような沈黙が何よりも雄弁だったという記録も残されています。

歴史的な裁判を録画として残しておくということも日本でも今後考えられるかも知れません。

 

この裁判を前に、現在テロの実行行為だけでなく、被告人の「危険性」をどのように裁くべきかということが問題になっています。近代刑法の理念からは正面から認められない論点です。

テロの裁判について、これから少しまとめていきたいと思います。

 

 

 

アンスティテュ・フランセ前での献花(2015年)

***

 

【文化財法典】

 

L.221-1条

司法及び行政裁裁判所の公開の審理は、本章に定める条件に従い、裁判(justice)の歴史的記録を作成するための利益があると認められる場合に録画あるいは録音が認められる。

 

L.221-2条

審理の録画あるいは録音を決めるのは、

− 権限紛争裁判所の場合:副所長

− 行政裁判系列についてはコンセイユデタは副所長、その他の裁判所は各所長

− 司法裁判系列については、破毀院については第一院長、控訴院及びその他の裁判所については管轄を有する控訴院の院長

 

L.221-3条

1.L.221-2条の決定は、職権で、あるいは当事者、その代理人あるいは検察庁の申立に基づいて行う。緊急の場合を除き、録音あるいは録画を必要とする日の8日前までに申立は行われなければならない。

 

2.決定前に決定権限者は、当事者、代理人、録音録画が予定されている裁判体の長及び検察庁の意見を徴する。決定権限者はその意見提出のための期限を定めることができる。

 

3.人道に対する罪あるいはテロ犯罪については、検察庁の申し立てがあった場合には当然に録音あるいは録画がなされる。

 

L.221-4条

1.録音あるいは録画は、審理の遂行及び弁護権を阻害しない方法で行われなければならない。録音あるいは録画は固定の位置から行われる。

 

2.前項の定めが順守されない場合、担当裁判体の裁判所は法廷警察権の行使として録音あるいは録画に反対し、あるいは中断することができる。

 

L.221-5条

録音あるいは録画は、担当裁判体の裁判長によりフ国立資料館の管理下に提供される。裁判長は録音あるいは録画を実施する際に何らかの問題が生じた場合には、その旨国立資料館に情報提供する。

 

L.221-6条

1.録音あるいは録画されたものは、歴史的研究あるいは学術的研究のため、判決確定後から直ちに閲覧可能となる。

 

2.録音あるいは録画の一部の複製あるいは放送は事前の許可を要する。許可を与えるに際してパリ司法裁判所の所長あるいは所長から権限を委譲された裁判官は利害関係を有する者がその権利を行使することが可能な状況を確保しなければならない。しかしながら、人道に対する罪あるいはテロ犯罪に関する録音あるいは録画は、その判決確定の時点から直ちに複製あるいは放送を許可することができる。

 

3.50年の期間経過後は、自由に録画及び録音を複製し、放送することができる。