国務院による行政の監督

  • 2020.05.06 Wednesday
  • 12:56

フランスのコンセイユデタ(国務院、行政最高裁府兼政府の諮問機関)の公衆衛生上の緊急事態宣言に関する意見と判決をご紹介します。

 

コンセイユデタは、政府の諮問機関としての権能において、緊急事態宣言の延長のための法案において人権保障を明確にすることを政府に求めるとともに、裁判所としての権能において、緊急事態下にあっても、政府による基本的人権の侵害は認められないとし、国を敗訴とする判決を2つ立て続けに出しました。

 

 

 

コンセイユデタのホームページ

(スマホ版)

 

まず、フランスの緊急事態宣言が5月23日切れるに際して、2か月延長のための法案が今日上院に提出されるとのことです。

フランスでは、この延長は日本のように政府の一存ではできずに、必ず国会で決められなければならないからです。

 

この法案について、国会が判断をする前に、政府はコンセイユデタに法案審査をかけました。

その回答が5月4日にありました。

 

コンセイユデタは、法案には原則として問題はないとしながらも、その提案を法案に織り込むことを条件としています。

興味深いのは、例えば、感染が疑われる人の隔離に関して、

 

― 法案自体が14日を超える拘束に関しては、裁判官の許可を必要としているが、国務院はさらにその内容を充実させることを要望し、

 

― 隔離中も家族生活を通常通りに行う権利を保障すること等も要望しているところです。

 

このようなコンセイユデタの審査ののち、法案が国会に提出されます。

 

そして、上下院通過後に法律が成立した後に、施行前に今度は憲法院の審査に付されることになっています。

 

なので、緊急事態宣言延長法案は、以下のようなチェックを受けることになっています。

 

 

 政府法案 → コンセイユデタの審査・意見 → 国会審議 

         → 憲法院審査 → 合憲判決なら施行

 

 

今後院の判断も気になるところです。

 

また、コンセイユデタは裁判機関(行政最高裁)でもあり、この意見の直前には2件ほど、国敗訴の判決を出しています。

判決においてコンセイユデタは、緊急事態下で国により取られた措置が、人の権利を「重大かつ顕著に違法に侵害している」と判断しました。

 

一つは、亡命希望者の受付について。もう一つは、自転車での移動の自由についてです。

 

一時期コンセイユデタの判決が緊急事態宣言発令以降、国よりになり、国敗訴の判決を書かなくなったとの批判がありましたが、国に対して厳しい判決が続いて出されました。

 

それぞれ内容は以下のとおりです。

 

【緊急事態宣言延長に関する政府法案に対する意見】

 

政府作成の法律案は、コンセイユデタの諮問に諮ることとなっています。

法律案については、特段の違法はないとしたものの、いくつかの注意を喚起しています。

 

 

 

 

概略以下のとおりです。

基本的人権の保障の観点から、国に対する法案修正の要望を行っています。

 

https://www.conseil-etat.fr/ressources/avis-aux-pouvoirs-publics/derniers-avis-publies/avis-sur-un-projet-de-loi-prorogeant-l-etat-d-urgence-sanitaire-et-completant-ses-dispositions

 

  • 法案の趣旨は、3つの原則にあると理解する。すなわち、守る、試す、隔離するである。

 

  • コンセイユデタは、現状に鑑みて2か月間の緊急事態宣言の延長はやむを得ないと考える。

 

  • しかし、コンセイユデタは、とりわけ以下の点において、政府の注意を喚起する。

 

― まずは、期間である。

 

多くの場合、特例措置の期間は3月23日からの当初の2か月間、その後延長の2か月、これに加えて1か月となっている。これは、3月17日からの国民の外出禁止に基づく全国の様々な動きの停止により正当化されたものである。したがって、コンセイユデタとしては、政府に対し、近日中に、ケースバイケースでその必要性とそれが必要性に比例するものとなっているかを再検証することを要請する。

 

― 法案は、公衆衛生法典の改正を予定している。

 

コンセイユデタは、健康の保護という憲法的価値を持つ目的を擁護するという観点から、法案が、公衆衛生上の重大な問題により生じる健康上のリスクと、とりわけ1789年人権宣言第2条及び第4条、そして憲法66条によりその補償が司法権へと託された個人の自由である往来の自由及び私生活上の自由との間でバランスを欠くことがないよう、法案が調和を図るものとなるよう監督するものである。

 

また、コンセイユデタは、法案の内容がEU法上の権利や基本権の保護を尊重したものとなるよう監督する。

 

コンセイユデタは、コンセイユデタが提案する文言に置き換えることを条件として、以下に関する公衆衛生法典の改正を容認する。

 

― マスク着用の義務付けにかかる公共交通機関による移動(L.3131-5条1)及び人々が集まる場所の再開(L.3131-15条5)に関する条項

 

― 医療従事者等の徴用に関する条項(L.3131-15条7)

 

― 感染の疑いがある人の隔離措置(検疫)(L.1313-15条3、4)

 

  これについては、コンセイユデタは、対象となる人(感染地域からフランスに入国しようとする人等)をさらに限定することを要請する。また、政府は、検疫隔離を行う際には、生活必需品にアクセスできる状態等を条件とするが、コンセイユデタは、通常の家族生活を送ることのできること、また未成年者に対し配慮を払うという条件を加えることも要請する。

 

  法案においては、入国者の検疫隔離措置あるいは隔離措置については、対象者は、「自由と勾留」裁判官に審査請求をすることができる。(※自由と勾留裁判官とは、通常刑事事件で勾留などの身柄拘束に関し判断をする権限を有する裁判官)また、この期間は14日に限られるが、その延長は当事者が同意をした場合、あるいは自由と勾留裁判官の許可があった場合に限られる。

 

 コンセイユデタは、法案は、すべての自由の制限は司法権の審査に服さなければならないという憲法66条の要請を満たすものであると考える。

 

 しかしながら、コンセイユデタは、以下を提案する

 

  • 申立てを受けてから、自由と勾留裁判官は、72時間以内判断を示さなければならないが、同様に、職権でも案件を審理できること、県知事は隔離期間の延長を考える場合には、8日以内に申立てを行うべきであること、14日の期限満了前に自由と勾留裁判官が判断を示さず、また当事者が同意をしていない場合には、隔離措置が当然に解除される旨明確にすること

 

  • 隔離措置の最大期間を1か月とすること

 

  • 県知事は、対象者が電話あるいはインターネットの手段によって外部とコミュニケーションをとれる状況であることを保障すること

― さらにコンセイユデタは、法案の中に、緊急事態発令の手前の状況であり、何らかの個別の措置が必要とされるような事態に関する条項がないということを問題視する。この場合であっても、隔離措置などの自由を侵害する措置が取られることもあり得、したがって、政府に対しては、法案が憲法および条約上の要請を満たすものとなるよう見直すことを求める

 

― 法案第6条は、感染症拡大防止を目的とする、情報の共有システムの設置を許可する。

この法案は、厚生大臣、公衆衛生庁、保険機関及び地域健康庁との間で、その情報を共有することを認めるとしている。

コンセイユデタは、法案がそのために定める条件は、1789年人権宣言2条に基づく私生活の保護、欧州人権上やきう8条及びGDPRの規定に違反するものではないと考えるが、情報収集の目的が厳密に守られていること、暫定的な措置であるということに注意を喚起する。

 

 

【判決】

 

緊急事態宣言下の国の措置を違法だと断じる判決が2件続きました。

 

【2020年4月29日判決−亡命者リストへの登録を再開しないことが人権侵害であること】

 

https://www.conseil-etat.fr/actualites/actualites/le-conseil-d-etat-ordonne-au-gouvernement-de-retablir-l-enregistrement-des-demandes-d-asile

 

 

 

 

 

コンセイユデタは、国に対し、5日以内に、また、covid-19の感染防止のために必要とされる措置を講じた上、フランスへの亡命者リストへの登録受付の再開及び電話相談窓口の再開を命じる。

 

同様の案件に関してはすでに同じ内容の申立てが行われ、コンセイユデタは4月9日、国の側が、とりわけ弱い立場にある人を優先的に登録受付を継続すること、また登録を求める人の有無の調査を継続することを約束していたため、その時点では基本権に対して重大かつ顕著に違法な侵害があるとは判断しなかった。

 

しかしながら、裁判官は、提供された資料に鑑み、国が講じた措置は不十分であると判断する。

 

裁判官は、国の説明と異なり、窓口に必要最低限の人員を配置することは可能であると考える。危険を回避するため措置やソーシャル・ディスタンスを確保できないという国の主張も認めない。

 

以上より、国が亡命者の登録受付を実施の怠慢は、亡命権に対する重大かつ顕著に違法な侵害を構成し、緊急審理裁判官の介入を正当化する。

 

 

【2020年4月30日判決 − 自転車の利用が基本的人権であること】

 

https://www.conseil-etat.fr/actualites/actualites/le-gouvernement-doit-indiquer-publiquement-que-le-velo-est-autorise-durant-le-confinement

 

 

 

 

外出禁止措置が取られている現状、外出はそれを必要とする理由がない場合に認められない中、自転車の利用者を違反者として取り扱う例が存在する。しかし、法令上、移動方法を明示したものはない。

 

自転車の利用は、往来の自由及び個々人の自由の尊重の権利に基づき保障されるものであり、この点を明確にしない政府の姿勢は、その権利に対する重大かつ顕著に違法な侵害となる。

 

したがって、コンセイユデタは、政府に対し、公に、そして大きく、自転車による移動は許可されると明示することを命じる。

 

***

 

欧米ではできる強権発動がなぜ日本ではできないのか、という話もありますが、まさに、それは、何よりも自由を愛するフランス人が我慢を受け入れているからではなく、フランスでは、強権発動と同時に、このような審査が存在し、行政の監督がなされ、権利侵害が最小限に抑えられるようになっているからです。

 

もし何らかの事態に備えて強権発動が必要だと考える場合には、合わせてバランスの取れた制度構築の議論が必要でしょう。

フランスにおける検察官の独立と憲法

  • 2020.04.26 Sunday
  • 14:47

現在検察庁法の改正が問題になっています。

 

フランスでは、検察官の独立が憲法上の要請であるということ、また、検察官の独立をさらに強めるための憲法改正が準備されています。ご紹介します。

 

1.検察官の独立に関する憲法院の判断

 

フランスでは、検察官の独立が憲法上保障されているかどうかが問われた憲法裁判があります。2017年12月8日の憲法院判決(QPC)です。

この判断を求めたのは、司法官(裁判官と検察官を含むもの)組合連合 Union syndicale des magistratsです。

 

この裁判において、検察官について、1958年12月22日の政令第5条が、

 

「検察官はその階級上の上位者の指揮及び管理に服し、また、司法大臣の権威に服する。法廷において、弁論は自由である」

 

と定めているところ、この政令は、検察官を司法大臣の権威の下に置くものであり、憲法64条が定める司法官の独立を侵害するものであるとの主張がなされました。

 

また、この政令5条は、権力の分立を保障した、1789年人権宣言16条にも違反すると主張されました。

 

フランスでは、裁判官と検察官をあわせて「司法官」と称し、憲法64条が、司法権autorité judiciaireについて、「共和国大統領は、司法権の独立の保障者である」と謳っています。

この条文が司法官の独立の憲法上の根拠とされています。

 

独立性は裁判官にとってはより自明であるものの、検察官はその職務の特殊性から、「司法官」でありながら、独立は保障されないのではないかということが論点となりました。

 

 

 

 

この申立てに対して、憲法院は、

 

憲法は検察官の独立を保障する

 

しかし、その独立は、政府の有する権限と調和されなければならず、裁判官と同程度の保障を受けるものではない

 

と判断しました。

 

その上で、任命には、後述する司法官職高等評議会の意見が聴取されていること、司法大臣は、検察官の職務について、一般的な指揮権しかなく、個別の事案に介入することはできないとされていること、刑事訴訟法典に基づき、検察官は自由にその見解を表明できること、検察官が司法警察の捜査を監督できること、起訴便宜主義が保障されていること、政令第5条において、法定における弁論は自由であるとされていることから、検察官の独立と政府の要請との間で調和が図られているとして、政令第5条は憲法に違反しないと判断されました。

 

この判決は、初めて検察官の独立が憲法上保障されていると確認した点で画期的とされる一方、現実的に検察官の独立を保障するためには不十分だという批判があがりました。

 

そこで、検察官の独立を憲法上より一層強めるべきではないかという議論が高まりました。

 

なお、これまでに何度もフランスは欧州人権裁判所から、フランスでは検察官の独立が守られていないとの批判を受けています。

 

2.憲法及び改正への声

 

【憲法上の規定】

 

検察官の独立性は、フランスでも常に問題になってきました。

政治に絡む事件においては、検察官は常に政権よりだという批判がなされます。

 

そこで、より一層検察官の独立を高めるために、憲法改正が準備されました。残念ながら、黄色いベスト運動をはじめフランス社会の動乱の中で今はこの憲法改正が棚上げされていますが、いずれまた議論の俎上に戻ってくると思われます。

 

この憲法改正は、検察官の任命に関するものです。

 

現在、裁判官と検察官の任命は、憲法上でとおり定められています(憲法65条)。

 

 

裁判官:原則として、司法官高等評議会の裁判官部会の拘束的意見に基づき共和国大統領が任命する。共和国大統領はこの意見に従わなければならない。司法官高等評議会は破毀院(司法最高裁)の裁判官、控訴院院長及び地方裁判所所長については、司法官高等評議会の提案に基づき大統領が任命する。

 

 

検察官司法官高等評議会の検察部会の単純意見を受け、司法大臣が大統領に提案をし、大統領が任命する。この単純意見に大統領は拘束されない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

司法官高等評議会とは、憲法上設置が定められたもので、司法権の独立の保障者としての大統領を補佐するものとされています。

 

 

 

 

検察官部会については、破毀院(司法最高裁)付き検事長により主宰され、この部会は、さらに、1名のコンセイユ・デタ評定官、1名の弁護士、ならびに第2項に掲げる6名の有識者から構成されるとなっています。ちなみに、「6名の有識者」とは、国会にも司法機構・行政機構にも所属しない6名の資格ある有識者であり、共和国大統領、国民議会(下院)議長、及び元老院(上院)議長がそれぞれ2名任命するとされています。

 

この検察官部会が、検察官の任命について政府に提案をするとともに、検察官の懲戒についても意見を述べることができるとされています。

 

このように、裁判官については、裁判官の任命について行政府の判断がほぼ入らないことに比べ、検察官については、憲法上の組織に意見を出す権限があるという意味において、日本の検察官よりも任命に関し一定の保護がありますが、それでも、条文上自体も、裁判官と異なる扱いがなされています。

 

これを受けて、現在準備されている憲法改正案は、検察官の任命について、司法官高等評議会の任命に関する意見は政府・大統領を拘束することが目指されています。

 

この改正により、検察官の任命に対する行政官の介入を阻止し、検察官の独立をより一層強いものにすることが狙いとなっています。

 

【改正の必要性】

 

このような議論がなさる中、検察官の任命に関し行政の関与が問題になりました。これは、2018年のパリの共和国検事正のフランソワ・モランFrançois Molinの後継者の任命に際してのことです。

この際、通常の手続きに従い、司法官高等評議会の意見聴取の後、司法大臣が3名の候補者名を出したところ、大統領がそのすべてを拒否しました。さらに、この候補者3名は、首相の前で一種の「口頭試問」のようなものを課せられたとのことで、前代未聞だったとのことです。

このようなことが今後もし繰り返されては、結局司法官高等評議会は、大統領が任命するだろうと思われる者のみを候補者として掲げることになり、検察官の独立が侵害されるとして問題になりました。

 

そこで改めて、憲法改正への強い要請が出ることになりました。

 

【検察官の独立を求める、司法官、国会議員、検事正の声】

 

この中で、パリの司法官Benjamin Blanchetがル・モンド紙に寄稿しています。

https://www.lemonde.fr/idees/article/2018/11/21/independance-du-parquet-il-faut-que-soient-definitivement-ecartees-la-suspicion-et-la-controverse_5386543_3232.html

 

現職の司法官からの主張であること自体日本では考えられませんが、検察官の独立を認めること自体、三権分立を基礎とする民主主義の要請であり、(ルソーから来る)一般意志を体現するものとしての法治国家の要請である、とされています。

 

そして、検察官の独立を認めることは、常に政権よりだとの検察官への疑念を払しょくし、何よりも検察官への信頼を取り戻すことになるとともに、民主主義社会が検察官に示さなければならない深い敬意の念を示すことになる、としています。

 

Blanchet司法官は、「政治スキャンダルが生じるたびに、検察官は常に権力の指揮下にあると言われる。このような議論が行われないようにするためにも、司法改革をして、その完全な独立を認めなければならない」と主張しています。

 

そして、憲法院の判決は、「不完全な独立」を認めたに過ぎず、これは法的に何ら意味のないことであり、独立は存在するかしないかであって、その中間は認められないとしています。このような不完全な独立を謳うことにより、憲法院は常に検察官に対して、不公平で政権と癒着しているという疑いを温存すると批判します。

 

Blachet司法官は、検察官の実務においては、司法省から、各検察官に対する文書や通達によって刑事政策が決定されることから、司法省としては、検察官の独立が認められた場合には、このような一般的な指示が無視されるというところにも存在しているだろうと指摘しています。あたかも、かつての領主がその権限の及ぶ範囲で自由に領主裁判権を行使していたかのような状況の再来が懸念されているとします。しかしながら、主権者国民の代表者により制定された法律を検察官が無視することは考えられないとします。

 

そうであるとするならば、私たちの民主主義社会が検察官に対して示さなければならない深い敬意を確認することにより、傷つけられ続けているフランスの司法のイメージと決別する必要があり、そのために、検察官の独立に対して疑いを生じさせないような法を制定する必要があるとしています。

 

検察官の独立に反対をする人は、検察官が、一般意志の表明である法治国家において当然のことである忠実な職務遂行という基本的な検察官の約束を守ることができないと主張するものであり、容認できるものではないとしています。

 

そして最後に、共和国は、どちらを選ぶのかと問いかけをして主張を締めくくります。

 

共和国はどこに身を置くのか?その決定に法的効力を与えることのできる国民の代表者による政府の方針に関する公の議論の上に策定され、かつ、独立した司法官により適用される刑事政策の中か?あるいは法的効力は全く法に及ばない、司法大臣により作成された秘密の文書の中か?

 

また、検察官の独立を強く主張する国会議員は、「検察官の独立が認められた初めてフランスはモンテスキューの国になれる」と主張します。

https://www.lemonde.fr/idees/article/2018/10/04/pour-garantir-l-independance-du-parquet-il-est-urgent-de-reformer-la-constitution_5364315_3232.html

 

検察官自体も、憲法改正の必要性を強く訴えています。

https://www.lemonde.fr/police-justice/article/2018/10/22/les-procureurs-de-la-republique-veulent-clarifier-le-statut-du-parquet_5372832_1653578.html

 

このイニシアティブを取るのは全国検事正協議会です。

同協議会は、検察官の任命に関する憲法改正の早期実現を求めています。検事正たちは、実際に検察官は独立して職務遂行をすることは可能であるが、客観的にも独立していることが必要であると主張しています。

 

***

 

今日本では検察庁法改正が問題になっています。

日本の憲法上、裁判官の独立に検察官の独立まで読み込むのは難しいかも知れません。

 

しかし、検察官の独立を認めることがなぜ重要であるか、ということについての議論自体は参考になるところがあるかも知れません。

検察官も裁判官に準じるものとして、また、政府―法務省の密室の影響の下行われる刑事政策ではなく民主的議論を経た法を独立した検察官が適用することこそ三権分立に適うのではないか、何よりも検察官自体が不公正だとのレッテルを貼られずに職務を遂行することこそ重要なのではないか、フランスの議論は示唆に富む部分があると思います。

 

 

緊急事態と弁護士と弁護士会(続き)

  • 2020.04.23 Thursday
  • 22:12

 

弁護士会が国に対して申し立てた裁判は、弁護士会実質勝訴、と言えると思います。

 

たかがマスクかも知れません。

 

でもそれが、民主主義にとって重要な価値は何か、民主主義の国における自助努力と国の責任の線引きはどこにおくべきかという問題を提起するものともなりました。この点をめぐり、弁護士会が申立てた裁判(自由権保護緊急審理手続き)に対し、行政最高裁が判断を示しました。

 

今回は弁護士会の申立てなので、弁護士に対する保護をどうするべきかという点が論点でしたが、より一般的に、緊急事態下で国と個人(あるいはその他団体)の領域の線引きに関する問題提起は常になされていかなくてはならないというメッセージを伝えるものでもあるように思えます。

 

 

 

 

行政最高裁のホームページ

Covid-19に関連する申立てについての決定を掲載するページ

左下の法服の弁護士の写真が今回の判決を紹介する部分

 

***

 

2020年4月20日の判決で、弁護士の法廷活動に際して国に弁護士へのマスクの提供を義務付けるよう求めたパリ弁護士会とマルセイユ弁護士会の申立てに対し、行政最高裁は、弁護士は司法justiceを補助し、司法justiceという公役務に参画するものであるから、国は、弁護士が公務員ではなく民間の自由業であることを理由として、弁護活動における弁護士の健康の保護を拒否することはできない、と判断しました

 

結論としては、現実問題として必要な量のマスクがないため、国に対して弁護士へのマスク等の具体的な提供を義務付けることはできないとなりましたが、行政裁判所により、公務員ではない自由業であっても、弁護士は「司法の補助職auxiliaire de justice」であり、司法にとって不可欠であるから、国に弁護士(特に刑事弁護人)の健康に関する保護義務があると判断されたところは重要です。

 

これは、前の記事でご紹介した、緊急事態下の弁護士会の活動における、

 

 ヾ躓‥状況にあっても、国にとって根本的に重要な公役務として司法を位置づけることを求め、そして法治国家が蹂躙されることがないよう国に対し積極的に求めること。

 

の具体化になります。

 

弁護士会は、現状でも維持されなければならない重要な裁判対応を行うにあたって、マスク等の感染防止手段がない中で弁護士がその任務を果たさなければならないのは、弁護士や依頼者の命や健康を危険に晒すものであり、また、弁護士が弁護活動ができなくなった場合には、国民の裁判を受ける権利が侵害されると主張しました。裁判を受ける権利は、民主主義の根幹をなすものです。

 

そして、行政最高裁は、裁判が適切に機能するようにすることは国の責務であること、弁護士はこの司法を支えるものであり、国はそのために弁護士を守る責務を有することを明確にしました。

 

主文で敗訴となったのは、この手続きの技術的限界(暫定措置しか出せない事、現実に国家が有している手段に鑑みて、権利の侵害があっても政府の不作為が正当化されるか否かという判断)によるものですが、実質的な内容については、弁護士会は行政裁判所の判断を極めて高く評価しています。

 

マスクの入手は難しくとも、とりあえずマスクを入手して仕事のできる私たち日本人の弁護士との危機感は違うかも知れません。犠牲者の数もフランスの方が圧倒的に多いです。そのため、日本の感覚でいると、マスクの配布義務付けのための訴訟にいまいちピンとこないかも知れません。

 

しかし、重要なのは、この裁判では、国家的危機の状況にあって、現場で奮闘する弁護士の自助努力だけで司法を支えるのではなく、まさに国こそが司法の運営に責務を持つものであることを自覚させるための申立てであり、それを行政最高裁が受け止めたという象徴的な点にあると言えると思います。

 

【これまでの申立て】

 

弁護士会はこれまでも、人権擁護と法の支配の貫徹の観点から、行政最高裁に対し、以下のような申立てを行ってきました。

 

― 不法滞在者収容施設の閉鎖義務付けのための申立て

これは、感染の危険から収容者を守るために収容者の開放を求めるものです。

 

行政最高裁は、現在1800人の収容施設に152人しか滞在していないとし、また感染予防策が取られていることを理由として、申立てを棄却しました(3月27日)。

 

― 勾留期限の延長を定めた政令及び通達の適用停止の義務付けのための申立て

裁判官の決定なくして、勾留の期限の延長を行うことの違法性を問う申立てです。

 

行政最高裁は残念ながら、政令と通達は、基本的自由に対する重大かつ著しい違法性を有する侵害とはならないと判断しました(4月3日)。

 

― 身柄拘束をされている人の釈放及び刑事収容施設の衛生状況の改善を義務付けるための申立て

 

行政最高裁は、現在刑事収容施設では衛生状況が改善され、必要な措置は講じられているとして、申立てを棄却しました(4月8日)。

 

― 司法及び行政裁判における臨時措置の適用停止を義務付けるための申立て

 

これは、民事や行政事件におけるビデオ会議の使用や、保全手続きにおいて当事者呼出しを省略することを認めた政令の適用停止を求めるものですが、行政裁判所はいずれも棄却しました(4月10日)。

 

現在行政最高裁はその職責を果たしていないとして批判を浴びており、弁護士会や弁護士からの人権救済を目的として申立ても立て続けに棄却されてきました。

 

そしてようやくの4月20日の判決。

主文では弁護士会は負けたものの、実質的な勝利(緊急事態における国に対する弁護士の位置づけ)を勝ち取りました。

 

こうした流れを見てくると、緊急事態であっても、主張を行うこと、権利行使をやめないこと、「権利のための闘争」を差し控えないことの重要さを見て取ることができます。

 

この裁判の内容はざっと以下のとおりです。

 

 

 

実質勝訴を伝えるパリ弁護士会のfacebookのページ

毎回洒落てる

 

 

【裁判の当事者】

 

パリ弁護士会とマルセイユ弁護士会は、4月6日(マルセイユ弁護士会)、4月8日(パリ弁護士会)がそれぞれ、行政最高裁に対し、弁護士のため以下を政府に義務付けるよう、首相、厚生大臣、司法大臣を相手方とし、訴えを提起しました。

 

そのほか、弁護士会長連絡会、ヴァル・ド・マルヌ弁護士会、ヴェルサイユ弁護士会、フランス弁護士組合、全国弁護士会評議会(CNB)、オ・ド・セーヌ弁護士会、若手弁護士全国連盟が訴訟に参加しました。

 

【求めた内容】

 

裁判で求められた内容は以下のとおりです。

 

(マルセイユ弁護士会)

 

裁判所の命令により、弁護士が刑事弁護を行う場合に、弁護士に対して手袋、防護服、消毒ジェルを提供することを国に義務付け、実際に提供させること

 

(パリ弁護士会)

 

裁判所の命令により、国に対し以下を義務付けること:

 

― 生命に対する権利、弁護を受ける権利、司法の利用者のために弁護を行う権利の自由な行使、弁護士の十全なるミッションの遂行のために、必要となるあらゆる手段を講じること

 

― 警察署における逮捕時の接見、即時出頭手続き(※)のための裁判準備のための打ち合わせ、その他、依頼者の弁護のために弁護士の存在が必要とされる手続きの際に、マスク及び消毒ジェルを弁護士に提供すること

 

  • 即時出頭手続き procédure de comparution immédiate:一定の犯罪(短期2年以上の刑、現行犯の場合には短期6か月以上の刑)について、事実関係が明確で、詳細な捜査が不要な事案について、共和国検事正の決定で逮捕の日に裁判が行われるというもの。当日にできない場合には、勾留がなされるが、裁判期日は3日以内に開かれなければならないという迅速な手続き。刑事訴訟法典393条以下

 

【主張の根拠】

 

上記のような措置を講じなければならない理由は、以下にあると主張されました。

 

― コロナウイルスの蔓延の中で、弁護士はその弁護活動を行うにあたり極めて危険な状況に置かれていること

 

― そのような中で、司法省が「本質的な手続きprocédures essentielles」(裁判所閉鎖中も継続しなければならない重要な裁判)として指定する手続のために、弁護士が、依頼者を代理し、弁護するにあたり、必要な感染防止策が講じられていない状況が放置されることは、弁護士自身とその依頼者及びその関係者を危険に晒すものであり、生命への権利、健康への権利、自分の健康のために適切な対応を受ける権利に対する、重要かつ著しく違法な侵害となること

 

― 弁護士に対する必要な感染防止策が講じられないことは、そのミッションの遂行を阻害するものであり、公平な裁判を受ける権利、弁護を受ける権利、対審の裁判を受ける権利、黙秘権、弁護人依頼権・立会権を侵害するものであること

 

【政府の反論】

 

司法省は、弁護士に対して特段の措置を講じる必要はないとしましたが、その理由としては、

 

,垢任砲任る限りの措置(法廷で距離を取るなどの感染防止策)が講じられていること、マスクは全国的に足りていない事、

 

∧杆郢里聾務員ではなく、独立した自由業者であり、マスクの優先配布の権利はないこと

 

を主張していました。

 

【裁判所の判断とその重要性】

 

このような主張を受け、裁判所は当事者(各弁護士会、参加人、首相、厚生大臣、司法大臣の各代理人)を出頭させ、それぞれの言い分を聞いた後、裁判所は、以下のような判断をしました。

 

― 公役務が適切に機能するようにすることは、国の責任であること

 

― そのために、covid-19との戦いにおいては、感染防止のために、衛生的措置と人々の間に最低限の距離を保つよう、国が配慮していかなければならないこと

 

そして、その上での国の義務として、

 

― マスクが欠乏している現状においては、

  • 国はまずは使用者としてその雇用する者を保護する必要がある。公務員に対しては、雇用主として、健康を守るための特別の義務を国は負うこと

 

  • しかし、国は、司法justiceの補助職であり、司法justiceという公役務に参画する弁護士に対しては、弁護士自身がマスクを持っていない場合には、その供給網に弁護士がアクセスし、マスクを入手できるようにする義務を負うこと

 

  • 消毒ジェルについては、現在欠乏状態にはなく、弁護士自身がこれを入手することはできるが、そうであったとしても、国は必要に応じてこれを利用できる状況にしておく義務を負うこと

 

― しかし、緊急審理手続きは暫定的な処分しか命じることができないこと、現在国が講じることのできる手段が限られていることからすると、マスク等を国が提供できていないことは、行政裁判所により国に対する暫定的な命令を出す条件を満たさない。したがって、弁護士会の申立ては認められないこと

 

***

 

今回の申立てはこのようにして終了しました。

 

これを受けて、パリ弁護士会は、会として今後マスクと消毒ジェルを会員に提供していくとのことでした。

国の責務自体が明確にされた以上(しかし、実際に国に必要な枚数のマスクがない以上)、弁護士会が措置を講じたとしても、弁護士の自助努力として国が責任を否定することはできなくなったためです。このことは、申立の時点からパリ弁護士会は明確にしていました。

 

このように見てくると、この裁判の中で重要なのは、国や司法に対する弁護士の位置づけ自体に加え、司法に関して、その対応を、現場で奮闘する弁護士個々人の自己責任にしないこと、国にこそその責務を自覚させることだったと言えるでしょうそして、行政裁判所は、弁護士の自助努力のみで司法を支えさせることを否定しました。

パリ弁護士会も、判決に対するコメントで、弁護士が自由業だという理由で国による健康の保護を否定した司法省の主張が否定された、ということを強調しています。

 

こうした今回の案件は、結局のところ、緊急事態下、及びそれだけでなく国の責務はどこまで及ぶのかという点を正面から争った重要な事案として評価されるべきだと考えます。

国の責務と自助努力の線引きをどこで行うかということは、現実的には明らかでなく、このようにして積み重ねていくということもまた、よく分かります。

 

この点、日本では自助努力にあまりにも偏りすぎているように思います。

国にここまでの要求をするのかということは発想としてあまり出てこない感じもします。

 

一方、裁判手続きなど、国の三権の一角に参画する弁護士は、民主主義にとって不可欠なプロフェッションだという一貫したフランスの弁護士会の考え方からすると、その弁護士を国が放置することは民主主義の観点から看過できないと、なすべくしてなされた主張とも言えます。

 

考えなくてはならない点も多そうです。

 

 

緊急事態と弁護士と弁護士会

  • 2020.04.15 Wednesday
  • 01:48

緊急事態の中で、弁護士の役割は何か、特に弁護士会の役割は何でしょうか。

 

日本では強制力のない「緊急事態宣言」のためか、あまり議論がありません。

しかし実際に人々の様々な自由は制約され、法律事務所の形態や取扱い分野によっては、法律事務所も経済的な問題を抱えこむことが想定されます。

緊急事態であるからこそ、明確にしておくべきことがあるようにも思います。

 

この点に関し、フランスの弁護士会は大きくまとめると次の二つの問題提起をし、行動に移しています。

 

 

 ヾ躓‥状況にあっても、国にとって根本的に重要な公役務として司法を位置づけることを求め、そして法治国家が蹂躙されることがないよう国に対し積極的に求めること。

 

◆(杆郢里侶从囘困窮状態を正面から受け止めて、個々の弁護士を守るための政策を明確に国に対し求めること。なぜなら弁護士を守ることは法治国家を守ることであり、危機的状況下における民主主義にとっての弁護士の重要性を国は明確に認識しなければならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これは個々の弁護士にとって有益であるだけでなく、緊急事態下で法治国家を守り抜くために極めて重要な要素だと思います。

 

通常はフランスのことを紹介する際には、できる限り客観的にと思っていますが、この点については素直にこのような活動ができるフランスの弁護士会を素晴らしいと思っています。

 

 

 

 

 

パリ弁護士会役員会議室

 

 

【緊急事態に伴う問題】

 

フランスでは、緊急事態宣言に伴い、以下の問題が生じているとされます。

 

 〆枷十蠅竜’縦篁澆砲茲襦勾留期間の延長

 

緊急事態宣言によって、裁判所もフランスはすべて機能を停止しました(身柄の刑事事件、保全事件、DVの保護命令等の緊急性のある事件は除く。)。

維持される刑事手続きにおいても、勾留期間の上限が延長されました(対象となる罪に応じて+2〜6か月)。

このような身柄拘束の延長は容認できるのかという問題があります。

 

◆(杆郢里僚估が必要となる手続きにおける感染からの安全の確保の不十分さ

 

マスクやアルコールの常備の問題ですが、これは個々人の自助努力だけでなく、弁護士という職業が民主主義にとって不可欠な要素であるとすれば、国が責任を持って対応しなければならないのではないかという問題です。

 

 弁護士の経済的困窮

 

弁護士個々人の問題でもあり、またプロフェッションとしてこの問題を抱え込むことは、民主主義の柱を破壊することにつながってしまうという問題提起があります。


これは日本でも同じ問題が生じるものと思います。

現に日本では、フランスと異なり法律などではなく、裁判所の判断で裁判期日が取り消されたり、期日の変更の結果期日がかなり先になったりで、身体拘束が長引くという問題や、民事事件でも迅速な裁判を受けることができなくなっています。

 

また、表面上はマスクや経済的補償という形をとるにせよ、緊急事態下でなお一層、弱い立場の人と寄り添うことを職務とする弁護士というプロフェッションを国との関係でどのように位置づけるべきなのか、というのは、日本においてもプロフェッションとして本来は考えておく必要があると思われます。

 

 

【フランスの対応】

 

 

 

 

 

パリ弁護士会会長室

 

 

 

フランスには、日本と同様に、弁護士は必ず弁護士会に所属しなければ弁護士としての職務を行うことができません。フランスの弁護士は、その事務所のある地方単位会に登録をします。全国164ある地方単位会に加えて、弁護士会に代表者により構成される全国弁護士会評議会Conseil National des Barreaux (CNB)という組織があります。日本の日弁連に似た組織です(但し日本と違って、弁護士個々人はCNBの会員ではありません。)。

 

 

 

弁護士の直面する問題やCNBの取り組みにについてインタビューに答えるChristiane Féral-Schuhl会長

(元パリ弁護士会会長)

 

 

当初よりパリ弁護士会やCNBはフランス政府に申入れを行い、緊急事態法を受けた政府によるオルドナンスの策定に対して意見を述べ、一定程度実を結んできました。しかし、十分に目的は達成されませんでした。

 

そこで、CNBやパリ弁護士会、その他の弁護士会や組織が様々な取り組みを行ってきました。

その目的は、緊急事態宣言下における人権侵害の防止、法治国家の維持、弁護士の保護です。

 

 

 仝衆衛生上の緊急事態における法治国家のためのマニフェスト : Manifeste pour l’Etat de droit en temps de crise sanitaire (CNB)

 

 

 

 

まず、日本の弁護士の観点から特筆すべきは、4月3日にCNBが出した「公衆衛生上の緊急事態における法治国家のためのマニフェスト : Manifeste pour l’Etat de droit en temps de crise sanitaire 」です。

CNB総会で満場一致で可決されました。

https://www.cnb.avocat.fr/sites/default/files/2020.04.03_manifeste-etat-de-droit-crise-sanitaire.pdf

 

まず、次のように始まります。

 

「(現在極めてフランスが困難な状況にあるという指摘をした上で)、そうであるとしても、このような時期においても、弁護士は、法治国家をまさに生きたものとするために、日々増大する困難に直面した同胞を支えるために、法治国家にとって本質的なミッションを果たさなければならない。

 

その上で、以下の点を明確にし、国の対応を求めます。

 

1.司法という公的役務は国民の生活にとって不可欠の役務であること

 

「司法justiceという公的役務は、著しく困難な状況にある今日においても、社会生活の調整を保障しなければならない。弁護士はこのような民主的要請を担っている。

 司法justiceという公的役務は、公衆衛生上の緊急事態においても、国内においてその力や一貫性を失ってはならない」

 

弁護士は、かつてない困難な状況において、虐待を受けている子供、配偶者からの暴力の被害者、受刑者・身体を拘束されている被疑者、強制入院をさせられている人々、移民の人々等とともにある。

 しかし、国は弁護士に対し、自らもそしてクライアントも危険に晒すような状況において、最も弱い立場にある人を支え続けさせようとしている。私たちはこれを容認することはできない。」

 

2.弁護士は国民的連帯から忘れられた独立事業者であること

 

弁護士は、国の援助の多くを享受することができない。弁護士はその独立性の故に経済的にも脆弱である。弁護士に対する経済的援助の方法も早急に確立されなければならない。弁護士をなくすようなことになってはならない。

 

弁護士の消滅は、公衆衛生上の緊急事態の期間を超えて法治国家を長期間侵害し続ける。」

 

3.公的自由及び個人の人権を侵害しながら伝染病と戦うことはできないこと

 

弁護士は民主主義のホイッスルブロワーである。弁護士は時として、世論が直ちに受け入れることができないような立場も取らなければならない。

 

弁護士は公衆衛生に基づく絶対的に必要な理由から課される強制的措置に従わなければならないことを当然に認識している。

 

しかし、そのような絶対的な要請により正当化されない理由により、司法から阻害されることを認めることはできない。弁護士は逮捕された人、勾留中の人たちのためのミッションを継続しなければならない。

 

弁護士はしたがって、無罪推定を受ける被疑者の勾留期間が当然に延長されることを認めることはできない。これは、私たちの憲法、自由権規約にも反する。

 

国は裁判を受ける権利を有する人及びその弁護士の不在を容認する。

 

弁護士は外出禁止が異なる目的のために使われることがないかを監視する。

 

弁護士はすでに行政最高裁に対して、法治国家の例外となる措置は厳密に必要なものに限られるべきであることの確認のため申立てを行った。さらに、基本権の侵害が緊急事態宣言の時期を超えて適用されることは容認できず、あらゆる措置は緊急事態宣言の終了とともに終了されなければならない。

 

衛生上の安全が保たれ、他の職業と同様に経済的にも保障された状況において、弁護士は、法治国家の根本的なミッションを果たすことを約束する。これが弁護士の要請である

 

私たち弁護士professionは、ここに厳粛に公権力に対し、法治国家の要請であるこれら要請を聞き入れるよう求める。」

 

以上のとおり、緊急事態下における法治国家の維持とともに、法治国家を支える弁護士の擁護が明確に謳われています。

 

◆CNBによる政府への働きかけ

 

複数ありますが、CNBは弁護士を困窮から守るため、以下のようなレターを各担当大臣に送っています。

 

4月7日:子供が自宅にいる結果仕事ができなくなった弁護士(子供がいるためにテレワークが難しくなった弁護士も含む)に対しても、休業補償が適用されるよう要請

 

4月8日:財政的困難にある弁護士のために、法律扶助の報酬の前払を要請(将来事件を受けた際の報酬と相殺)

 

4月10日;弁護士及び法律事務所の負担する社会保険料の免除、弁護士報酬に対する消費税をゼロに引き下げること

 

 パリ弁護士会の活動

 

パリ弁護士会は3月17日の時点から、政府に対し、弁護士の安全確保(マスクやアルコール消毒薬の常備の要請)を行ってきました。また、裁判所とともに、弁護士や依頼者(とりわけ被告人)の安全確保のため、裁判所内の動線の確保、大きな法廷の利用、パーテーションの利用等について協議を行ってきました。

 

しかし、政府が弁護士会の要請に耳を傾けなかったことから、パリ弁護士会は、政府にプレッシャーをかけるために、安全の確保されない状況下で弁護士を働かせることはできないとして、すべての国選弁護や民事扶助事件の弁護士選任を拒絶しました。

 

その結果、マスクやアルコールの確保が約束されましたが、その数は十分ではありませんでした。確保されたマスクは優先的に医療従事者に届けられるため、裁判所もマスクを備蓄しておくことができない状況にありました。

 

それを受けて、パリ弁護士会会長、Olivier Cousi会長は以下のとおり述べています。

 

一度として政府は司法を優先的な分野だと認識していない。これは民主主義にとって危険なことであり、そのため、私たちは、行政最高裁に申立てを行った

 

 

パリ弁護士会会長Olivier Cousi弁護士

(c) club des juristes 

https://www.leclubdesjuristes.com/le-refere-liberte-du-conseil-de-lordre-devant-le-conseil-detat/?fbclid=IwAR04MkKHuXChWnYIZ7HS_sLNe3-7Jnz7ROltjQ7AaO0CH4K5ZWF6tRFOiaA

 

ぁ々埓最高裁への自由権保護緊急審理手続きの申立て

 

緊急事態宣言の下での基本的人権を守るため、また、弁護士の安全(ひいてはその外の裁判関係者の安全)を守るため、CNB、パリ弁護士会その他の地方弁護士会が協働して行政最高裁への申立てを行いました。

 

特筆すべきは現段階では二つあります。

 

― 勾留期間延長に関する申立て(3月31日申立て)

 

公衆衛生上の緊急事態を発令した3月23日の法律に基づき、その内容を実質化する政令(オルドナンス)が制定されました。これは、事後的に国会により追認されることにより法律としての効力を有するものです(憲法38条)。

 

3月25日付のオルドナンスにより、勾留期間が、以下のとおり当然に延長されました。

 

・懲役5年までの刑にあたる罪については最大2か月

・懲役7年から10年までの刑にあたる罪については最大3か月

・懲役10年以上の重罪については最大6か月

 

となりました。

 

様々な論点がありますが、まだ追認されていない以上は政令は政令としての効力しかなく、政令で身体の自由を奪うことはできないこと、期間が長すぎること(緊急事態の期間よりも長い)、裁判官の関与なく行政の判断で身体拘束を継続することは、憲法66条に違反することなどです。

 

そのために、行政裁判所に対し、政令の適用停止を求めています。

 

― 司法の位置づけと弁護士の安全(4月8日)

 

さらに、政府が緊急事態下において人権制約の重要性を軽視していることは、司法の軽視の表れであり、また、そのために弁護士が感染の危険を冒しながら業務を行わなければならないとして、

 

― 司法justiceが重要かつ優先的な公役務であることの政府による承認

― 必要な量のマスク及びアルコールの供給を裁判所に対し行う事の義務付け

 

を求めて申立てがなされました。

 

***

 

以上のように、緊急事態が人権侵害につながってはならないこと、弁護士が民主主義や法治国家にとって不可欠の存在であることを繰り返し明確にした上で、弁護士会が活発に動いています。

弁護士会としては、人権侵害を看過することはできず、また、そのためには強いプロフェッションでなければならないという事、強いというのは個々の弁護士のためだけでなく、民主主義の社会にとって必要不可欠な要素だという視点が貫かれています。

 

その他、パリ弁護士会からは毎日何通も、CNBからも頻繁に、メールやフェイスブックにおける情報共有や、弁護士が使うことのできる補償の内容の告知、政府への申入れに関する情報の共有など多くの情報が送られてきます。

 

そして、パリ弁護士会からは、

 

「弁護士会はあなたとともにあります」

 

というメッセージが伝えられてきます。

 

 

 

パリ弁護士会 Maison du Barreau

 

***

 

フランスでは、日本よりも弁護士会に対する愛着が強いです。

それはこのような弁護士会の姿勢からも分かる気がします。

 

対外的には弁護士会が誇りをもって、弁護士が民主主義や法治国家にとって不可欠であると主張すること、そのために必要な手段を駆使すること

 

対内的には弁護士を守り抜くという姿勢を明確に、一貫して示すこと

 

これは常日頃からのメッセージですが、改めて危機の状況において強調されています。

自分の仕事だけでなく、そのような弁護士会に属していること自体を誇りに思うことができ、また守ってもらえる安心感の中で業務をすることができます。

その結果、弁護士会への愛着や弁護士同士の結束も強くなり、そのことはさらに強い誇りをもって、よりよい弁護士としての活動、人権擁護のための活動を行うことができるようになると思われます。

 

こうしたフランスの弁護士会の活動からは学ぶべきところが多いと強く感じます。

 

 

コロナウイルスの脅威への経済的・財政的負担の不平等に対する問題提起

  • 2020.04.12 Sunday
  • 12:55

 

緊急事態宣言の負担を強いられるのは、個人や中小企業だけでいいのか?

 

このような問題を正面から問いかけた裁判の申立てがフランスであったのでご紹介します。

 

現在多くの国において、自宅待機をしなければならないとなっていることから、経済がストップし、様々な緊急の対応が取られています。とりわけ、一時帰休による減収や、店舗の閉鎖、事業の縮小に伴う売上の減少などですで、個人や中小企業への負担が重くのしかかってきます。日本も全く同じ状況にあります。

 

そのような企業や個人事業主を支えるために、フランスでは税金を原資とする「連帯基金」fonds de solidaritéも創設されました(2020年3月25日のオルドナンス第2020−317号)。

 

マクロン大統領も首相も、今は「戦時下だ」と言いました。

 

そして、家から出かけることもできない、――往来の自由という根本的な人権も制約されています。

 

一方では、大企業はその利益を危機対応のために使うことなく、巨額の配当を株主に行うということを発表しています。

 

このように、国民すべてが緊急事態の中で負担を強いられる中で、大企業がその利益を従業員の給与や危機対応などに充てることなく、株主に配当し、自己株式の取得を続けて株価を吊り上げるようなことをし続けることは、連帯の精神と平等原則から許されるのか?というのが4月8日にフランスで申し立てられた裁判の論点です。

 

この裁判においては、申立人は、1789年人権宣言第13条等に基づき、租税や社会的負担の平等の見地から、2020年内の大企業に対する配当凍結や自己株式取得禁止の措置を取るよう、首相や経済担当大臣に対して義務付けることを求めています。

 

 

*********

― 1789年人権宣言第13条

 

第13条 【租税の分担】

「公的強制力の維持および行政の支出のために、共同の租税が不可欠である、共同の租税は、すべての市民の間で、その能力に応じて、平等に分担されなければならない」(条文の翻訳は主に辻村みよ子・糠塚康江『フランス憲法入門』による。以下同じ)

 

― 1946年憲法前文第12項

 

「国は、全国的な災禍から生じた負担について、すべてのフランス人の連帯平等を宣言する」

 

*********

 

 

 

パリの証券取引所

 

出典:Palais de la Bourse, 2ème arrondissement, Paris

Blancard, Hippolyte , Photographe Vers 1890 

Musée Carnavalet, Histoire de Paris

 

 

【他国の対応】

 

実際、現在の危機的状況の中で、大企業による配当については、例えば以下のような警鐘が鳴らされています。

 

出典:

https://www.la-croix.com/Economie/Entreprises/Coronavirus-versement-dividendes-debat-2020-03-22-1201085377

https://www.mediapart.fr/journal/economie/270320/le-gouvernement-fait-marche-arriere-sur-les-dividendes?onglet=full

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO57497850R00C20A4EAF000/

及び緊急審理手続きの申立書

 

− 欧州銀行連盟(EU加盟国を含む欧州32か国の銀行協会が参加する連盟)

 

加盟国の銀行は、株主に対する配当や自己株の取得を行わず、その分の資金を企業や消費者への貸付に回すように要請

 

― 欧州中央銀行

 

ユーロ圏の銀行に対し、少なくとも2020年末までは配当の凍結と自己株取得の見合わせを指示、スペインの銀行(Banco Santander)は実際に配当を凍結し、頭取は収入の50%を医療機器を購入するために設立された基金に寄付することを表明

 

― アメリカ

 

政府は自己株の取得とボーナス支給を行った企業については、2000億ドル相当の経済

再生プランからの排除を表明

JPMorgan, Bank of America及びCitigroupは、7月までは自己株の取得は見合わせることを表明

 

― ドイツ

 

ドイツ連邦金融監督庁が、国内銀行に対して自社株の取得を見合わせることを要請

 

― イギリス:

 

イングランド銀行及び金融監督当局は、大手銀行に対し、配当や自己株取得を控えるよう要請、監督権限行使の可能性を示しながら、配当支払いや賞与の支給も行わないように通達、これを受けて、HSBCホールディングス、バークレイ、ロイズ等が2020年中の株主への配当を見合わせると一斉に発表(3月31日)

 

― スペイン

 

ZARAが配当を行わないことを表明

 

― イタリア

 

プラダは昨年度25%の利益増であったが、配当額は前年度の3分の1にすると表明

 

― スウェーデン

 

国内の銀行及び保険会社に対し、今年いっぱいの配当の凍結を指示

 

【フランス政府の対応】

 

今後配当が予定されているのは、2019年度の決算に基づくものであり、2019年度が好調な年であったことから、以前よりも高配当が予定されているとのことです。去年の時点においてすでに、ユーロネクスト上場の40社だけでも、490億ユーロの配当がなされ、110億ユーロが自己株取得に支出されているとのことです。ですので、今年行われる配当はこれを上回るものと予想されています。

 

これに対し、2020年3月27日の時点で、大統領府としても、今後、社会保険料及び法人税の納付の延期を申請している大企業について、株主配当を行うことの禁止を検討しているとされていました。

 

ルメール経済財政大臣もインタビューで、「資金不足を理由として国の援助を求めている企業は、株主に対する配当を行うべきではない」と述べています。

また、株主に対する配当を行った企業は、国の保証を利用した借入はできず、延納している社会保険慮については遅延利息とともに直ちに支払いを求める」ともしています。

しかしながら、当初の予定と異なり、配当の禁止については、法律による強制はしないとなりました。

 

https://www.liberation.fr/direct/element/bercy-reflechit-a-linterdiction-de-versement-de-certains-dividendes_111407/

https://www.lci.fr/politique/coronavirus-covid-19-ncov-pandemie-confinement-le-gouvernement-bruno-le-maire-veut-limiter-le-versement-des-dividendes-2149327.html

 

フランス金融監督当局も、3月30日、欧州中央銀行の指令に従い、少なくとも10月までは、配当を行わないよう通達しました。

これを受け、ソシエテ・ジェネラル(3月31日に発表、18億7000万ユーロを配当予定だった。)、Natixis, Crédit Agricole(4月1日、20億ユーロを予定していた。)及びBNP Paribas(4月2日、37億ユーロを予定していた。)が配当を見合わせると4月2日に発表しました。

 

航空産業も同様で、エアバスも配当を行わないことを決定(3月23日、14億ユーロを予定していた。)、Safranも4月3日に10億ユーロの配当を見合わせました。

 

さらに、国が株式を保有している会社(Orange, ルノー、タレス等)について、配当を行わないよう国が要請を出しました。

 

ヘルメスなどは、十分な資金があるため、国の一時休業の補助は受けないと表明しつつも、配当金を減額(5ユーロから4.55ユーロ)、ミシュランやVeoliaも後に続いています。

 

しかし、タレスも政府の要請にかかわらず配当を行うと発表し、Totalも4月1日に17億ユーロの配当を実行(但し5000万ユーロ相当のガソリンクーポンを医療従事者に提供)、ロレアルも240億円の配当(2018年度に比べて10%増)、Pubicisも5億5000万ユーロを配当するとのことです。

 

https://www.capital.fr/entreprises-marches/bnp-paribas-derniere-grande-banque-a-navoir-pas-annonce-la-suspension-du-dividende-1366615

https://www.tradingsat.com/actualites/dossier/les-actionnaires-du-cac-40-prives-d-au-moins-18-milliards-de-dividendes-908033.html

 

このような流れの中で上場40社は今年は543億ユーロの配当を見込んでいたところ、現在そのうちの180億ユーロが配当に回されないことになっているとのことです。

https://www.tradingsat.com/actualites/dossier/les-actionnaires-du-cac-40-prives-d-au-moins-18-milliards-de-dividendes-908033.html

 

となると、それでも360億ユーロ(約4兆円以上)が株主への配当として使われることになります。

 

 

証券取引所のカリカチュア

「証券取引所と呼ばれたこの怪しい賭博場で、これだけの人がサイコロひとつで。。。」

 

出典:aricature sur la Bourse de Paris : Dans ce tripot toléré / Appelé du nom de Bourse / Que de gens, d’un coup de dé etc…

Anonyme , Dessinateur-lithographe
Plattel, Henri Daniel , Dessinateur
Aubert et Cie , Imprimeur-lithographe
Bauger , Editeur

19e siècle

Musée Carnavalet, Histoire de Paris

 

【租税負担の平等を理由とした行政訴訟の申立て】

 

このように、フランスでも様々な動きがありますが、個人への移動の禁止や、商店の閉鎖などの強制的措置が発動されたこととは対照的に、何らかの強制的な措置は発動されていません。

 

そのような中で、パリ及びトゥールーズ弁護士会所属の弁護士で、ローマ法の博士号を持つ(!)弁護士が、行政最高裁のコンセイユデタに対し、「自由権保護急速審理」référé-libertéの申立てを行いました。1000人近い賛同者が集まったそうです。

 

https://www.leguevaques.com/attachment/1899689/

 

「自由権保護急速審理」とは、フランスの行政訴訟法典L.521−2条において認められている手続きで、以下の要件があるときに認められます。フランスでこれまで緊急事態宣言が出されてきたときに、行政の措置の違法性が争われる際には、この手続きが取られ、実際に裁判所は行政行為を違法と認める判決も多く出してきています。

 

― 緊急性があること

 

― 基本的人権が侵害されていること

 

― 基本的人権に対する侵害が、深刻で著しく重大な違法性を有するものであること

 

その上で主に裁判所に対して求めたのは、

 

公衆衛生上の危機が経済及び民主主義の危機を招くのを避けるために、首相、経済大臣及び公会計担当大臣に対して、以下の命令を出すこと:

 

― ユーロネクスト上場企業40社等に対し、2019年度の結果に基づく配当を禁止するように義務付けること

 

― 上記会社に対し、自己株の取得を禁止するように義務付けること

 

― 高額の報酬を得ている経営者あるいは従業員に対するボーナスの支払いの禁止を義務付けること

 

― まだ支払われていない配当については供託することを義務付けること

 

― 2019年度の結果に対して支払われる配当については、75%の課税をすること

などです。

 

【申立ての法的根拠】

 

根拠は以下のとおりです。

 

 ゞ杁淦の存在

 

フランスの会計年度は12月で終わることが多いため、4から5月にかけて配当が行われることが見込まれています。実際、上位10社(LVMH, Danone,Vivendi, Loreal等)だけで、2020年4月30日に、200億ユーロの配当が予定されている。しかし、これを凍結させるために法律の制定を待つことはできないため、今緊急に対応する必要がある。

 

◆ヾ靄榲人権の侵害

 

適切な対応を取らないフランス政府の勇気のない対応は、複数の基本的人権に対する重大な侵害となっている。上場企業等は、現在のような状況にもかかわらず、配当を続けることによって、以下のような基本的人権を直接間接を問わず侵害している。

 

― 1789年人権宣言第13条

 

第13条 【租税の分担】

「公的強制力の維持および行政の支出のために、共同の租税が不可欠である、共同の租税は、すべての市民の間で、その能力に応じて、平等に分担されなければならない

 

しかし、現状財政的負担は国民の中間層だけが負担することとなっており、市民の租税の前における平等の原理を侵害し大多数の市民の経済的自由を侵害している。

 

― 1946年憲法前文第12項

 

「国は、全国的な災禍から生じた負担について、すべてのフランス人の連帯平等を宣言する」

コロナ危機は「全国的な災禍」であることは疑いを入れないところであるが、そのような中で、一方では大多数の国民がその負担を強いられ、他方では大企業が何百億ユーロをばらまいている。

 

― 全ての市民の法の下の平等を定める憲法第1条

 

「フランスは、出生、人種または宗教による差別なしに、すべての市民に対して法律の前の平等を保障する」

 

― 1952年3月30日付欧州人権宣言付属議定書第1条

 

「すべての自然人及び法人はその財産を尊重される権利を有する。何人も、公益のために、かつ、法律および国際法の一般原則で定める条件に従う場合をのぞくほか、その財産を奪われない。

 ただし、この規定は、国が一般的利益に基づいて財産の使用を規制するため、または税その他の拠出もしくは罰金の支払いを確保するために、必要とみなす法律を実施する権利を決して妨げるものではない。」

 

― 経済活動の自由

 

とりわけ中小企業は取引先の大企業から、資金繰りを問題として支払いの繰り延べを要請され、現場の従業員は命を危険にさらしながら業務を行っているが、上場40社の株主はただ配当を待つのみである。

 

― 生命への権利

 

従業員個々人の生命と企業の維持は憲法上保護されるべき権利であるが、現状その保護は十分ではなく、申立人は、本申立てにより、このような重要な権利の擁護を求める。

 

 行政による著しい人権侵害であること

 

この人権侵害は、何らの具体的な対応策を取らない行政の不作為にあるとされています。

 

本来、このような措置は、財産権の侵害を伴うことから、法律によってのみ認められるものです。

しかし、すでにフランス政府は、3月17日の時点で、「緊急時の法理」に基づき、法律に基づかず、行政の判断で、人々の移動の自由を制限しました(その後公衆衛生に関する緊急事態法が制定されました。)。「緊急時の法理」は、第一次大戦のころに認められた法理で、緊急時においては、行政権の権限が法理事項にも拡大するというものです。

 

申立人は、実際今は大統領が強調するとおり、「戦時下」にあるのであり、人の往来の自由という経済的自由よりもさらに保護されるべき自由の制約が正当化される以上、緊急時の法理が妥当すると主張しています。

 

 

*********

 

なかなか、フランスにおいても、一般論としてこのような申立てが認められるのにはハードルが高そうです。しかし、自由権保護緊急審理手続きの柔軟な条文構成と、1789年人権宣言の現代的意味を思い起こすとき、今回の申立ては、未曽有の危機的状況に際しての問題の提起としては非常に興味深いものと思います。

 

このような危機的状況の痛みを国民と企業はどこまで分かち合うべきなのか、裁判所の判断が待たれます。

フランスの公衆衛生に関する緊急事態宣言

  • 2020.04.01 Wednesday
  • 10:43

 

フランスの「公衆衛生の緊急事態」に関する法律に基づき、以下の法改正が行われました。

手続きとしては、国会から授権を得た政府が行う委任立法という位置づけですが、法律としての効力を持ちます。

 

どんどん新しく改正がなされているのでフォローが大変ですが、緊急事態に国の運営をどう調整していくかということ、国の仕組みや役割がよくわかるので興味深いです。

 

重要そうと思われるところがブルーになっています。

裁判の在り方に関する見直し、倒産法の見直し、労働法の見直しに加え、アーティストに対する援助や、零細企業への助成金、家賃や公共料金の支払いの繰り延べ、住居の明渡の強制執行の禁止等の社会的弱者に対する配慮等幅広い分野に及んでいます。

 

 

 

医療体制や雇用、助成金の在り方など、命や生活に直結する問題だけではなく、フランスの例が、国全体の働きをどう調整していくかということ、それをどういかに迅速にやるかということの参考になれば幸いです。

 

 

政令ナンバー

主な主任大臣

対象

内容

期間

2020年3月25日のオルドナンス(※憲法上法律と同じ効力を持つ政令)

2020−303

司法大臣

刑事裁判

刑及び訴追時効の延長、不服申立て期間の延長、郵便による不服申立ての許可、当事者の同意を得る必要なくテレビ会議の方法での期日開催の許可、裁判の公開の例外(※非公開の場合であってもジャーナリストの出席は可能との定めあり)、裁判体の構成の特例、電話やインターネットを通じた逮捕手続きの際の弁護人接見の許可、電話やインターネットを通じた弁護人の取調べ立会い許可、勾留期間の延長(対象となる罪に応じて2〜3か月)、刑の執行の特例、一定の受刑者の刑期の短縮

2020年3月12日から法により定められた緊急事態宣言終了の日から1か月

2020−304

司法大臣

民事裁判

裁判の公開の例外(※非公開の場合でもジャーナリストの出席は可能との定めあり)、口頭主義の例外等

同上

2020−305

司法大臣

行政裁判

裁判の公開の例外、不服申立て期間の延長等

2020年3月12日から法により定められた緊急事態宣言の終了の日まで

2020−306

司法大臣

時効等の法律行為にかかる期限の延長

時効等の期間の延長(政令の適用期間終了後遅くとも2か月以内の期間)、仮処分の期間の延長、義務の不履行に対する違約金等の適用時期の延期、行政手続きにおける期間の延長

2020年3月12日から法により定められた緊急事態宣言終了の日から1か月

2020−307

外務大臣

海外におけるフランス人代表者

任期の延長

 

2020−315

経済財務大臣

旅行業者

旅行業者の旅行キャンセルに対する対応の特例(返金ではなく、別の旅行にかかる契約とすること等を認める)

2020年3月1日から2020年9月15日までの間にキャンセルされた旅行

2020−316

経済財務大臣

家賃、水道光熱費

連帯基金適用対象企業や個人事業主を対象とする、/綟燦熱費の不払いの場合の契約解除や供給停止の禁止、分割払いの許可及び∋業用賃貸借の家賃不払いによる契約解除の禁止(対象となる家賃は、2020年3月12日から緊急事態宣言終了から2か月までの期間に発生したもの)

3月27日から法により定められた緊急事態宣言終了の日

2020−317

経済財務大臣

連帯基金

国及び地方公共団体並びに企業及からの連帯基金の創設、連帯基金から財政的危機にある企業及び個人事業主への資金援助を行う
※1500ユーロの資金援助(中小企業、個人事業主、自由業者であり、2019年3月時点の売上に比べて70%以上の売上減少(今後50%に見直し予定)があり、売上が100万ユーロ以下(中小企業、個人事業主)あるいは課税所得4万ユーロ(自由業)が対象

※国が7億5000万ユーロを調達、地方から2億5000万ユーロの拠出
※個別に2000ユーロの追加援助可能

3月27日から3か月間(3か月の延長可能)

2020−318

経済財務大臣

監査、計算書類等作成

監査、株主総会開催期限(3か月)、決算書類等作成の期限の延長(2か月)

会計年度が2020年12月31日から緊急事態宣言終了の日から1か月以内に終わる法人等

2020−319

経済財務大臣

公契約

公契約の締結、契約の履行等に関する特例

 

2020−321

経済財務大臣

株主総会、取締役会

株主総会、取締役会等の招集手続き、開催等の特例

 

2020−320

経済財務大臣

インターネット回線

増設のための手続きの簡素化

 

2020−309

連帯及び厚生大臣

医療機関及び健康保険

資金援助の特例

3月27日から少なくとも3か月、最大1年

2020−310

連帯及び厚生大臣

子どもの預かり

保育ママが預かれる人数の上限の緩和(6人まで)、マッチングするためのインターネットサイトの開設

3月27日から大臣が定める日まで(遅くとも7月31日)

2020−311

連帯及び厚生大臣

医療過誤に対する補償

申請期間の延長

3月12日から大臣が定める日まで(遅くとも2020年7月12日)

2020−312

連帯及び厚生大臣

社会保障にかかる権利の延長

障がい者及び生活困窮者のための社会保障にかかる権利行使及び給付期間の延長、申請受理手続きの簡素化等

 

2020−313

連帯及び厚生省、障がい者担当国務長官

障がい者、社会的排除者等の緊急受入施設

受入施設の設置、運営、資金援助条件の簡素化、給与の保障

 

2020−322

労働大臣

従業員の病気による休業

病欠者に対する追加手当の支給、対象従業員の拡大等

3月27日から8月31日

2020−323

労働大臣

有給休暇、労働時間、休日

有給休暇の取得の時期、労働時間の延長、休日変更に関する特例

 

2020−324

労働大臣

失業手当

失業手当の支給期間の延長

3月12日から大臣が定める日まで(遅くとも2020年7月31日まで)

2020−326

公的行為・会計担当大臣

会計担当官

責任の軽減、免除

 

2020−330

公的行為・会計担当大臣

地方公共団体における予算編成等

期限の特例

 

2020−328

内務大臣

ビザ、滞在許可証

ビザ等の有効期間の延長(90日間)

3月16日から5月15日までの間に有効期限の切れるビザ等

2020−331

地方連携担当大臣

建物明渡禁止期間

冬季の建物明渡強制の禁止期間の延長(通常は11月1日から翌年3月31日までのところ5月31日まで)※民事執行法典L412-6条

 

2020−329

農業大臣

農業従事者のための社会保障機関の理事会

理事の任期延長

 

2020年3月27日のオルドナンス

デクレ第2020−325号及びオルドナンス第2020−346号

労働大臣

一部休業

一部休業に対する手当の見直し、手続きの簡素化

企業は従業員に対し額面給与の70%を支払う(最低賃金1539.42ユーロについては全額補償)、企業が従業員に対して支払った額は6927ユーロまでは全額国から補助される(最低賃金の4.5倍)

2020−353

文化大臣

アーティスト

著作物の私的複製を可能とする媒体の販売者は一定の対価を著作権料徴収機関に支払うとされているところ、通常作品の創作、上演、研修等に使われる徴収額の25%をアーティストの経済的援助に充てることを可能にするもの

3月29日から12月31日

2020−351

公的行為・会計担当相、教育相

国家試験

バカロレアと公務員試験に関する特例

3月12日から12月31日

2020−347

公的行為・会計担当相

公的機関

会議のオンライン化等に関する特例

3月12日から緊急事態宣言終了まで

2020−341

司法大臣・経済財務大臣

企業及び農業経営企業

倒産手続きにおける期限の特例等

3月29日から緊急事態宣言終了後3か月(あるいは1か月)

 

 

 

 

フランスの公衆衛生に関する緊急事態宣言

  • 2020.03.29 Sunday
  • 22:26

 

フランスでは、3月24日から2か月間、「公衆衛生に関する緊急事態」が発令されました。

 

これまでは、テロや自然災害のときを対象とした緊急事態法(1955年の法律)がありましたが、改めて立法がなされたので、ご紹介します。

 

まず、時系列は以下のとおりです。

動きがとても速いです。

 

3月16日:政令による外出禁止令。「緊急事態の法理」に基づく発令

・3月18日に政府による公衆衛生上の緊急事態に関する法案提出

・3月19日に上院で可決

・3月21日下院で可決

・3月23日の法律として成立

・3月24日から施行

・3月25日:法律に基づく政令公布

 

この流れで大切だと思われるのが、

 

/彗さ

∨,量榲として市民の生活の保護に明確に焦点を当てていること

9餡颪蛤枷十蠅量魍笋僚纏

 

です。

 

 


 国民議会の設立(1789年)

 

 

上記の時系列に沿って、ちょっと詳しくご紹介していきます。

 

 

・3月16日:政令による外出禁止令。「緊急事態の法理」に基づく発令     

 

まず、フランスでは3月16日から外出禁止令が出ましたが、その根拠は政令でした。その政令の根拠とされているのが、民法典1条(施行日の関係)、公衆衛生法典L.3131−1条(伝染病の恐れがあるときに厚生大臣が必要な命令を下し、これを県知事に代行させることができる旨の規定)、「covid-19伝染病による特別な事情」に鑑みた「特別の事情」です。これにより、一定の例外を除き(ペットの散歩も例外として書いてあります。)外出が禁止となりました。

 

「特別な事情」の法理は、第一次世界大戦のときに生まれたもので、特別な事情がある場合には、公役務の継続の保障のため、通常では認められない行政の行為(越権的行為)が認められます。今回は非常事態宣言ではなく、この古い判例法理に基づいてまず政府は外出禁止令を出しました。

画像に含まれている可能性があるもの:テキスト

 

・3月18日に政府による公衆衛生上の緊急事態に関する法案提出

その後、政府はやはり法的根拠が必要と考え、急ぎ法案を提出し、これが公開されました。

 

・3月18日:フランス国務院(コンセイユデタ)の政府提出法案に対する意見

 

フランスでは政府提出法案は事前にコンセイユデタ(国務院)に諮問します。コンセイユデタは行政最高裁としての役割もありますが、元々は政府の諮問機関です。ナポレオンによる設立されました。

 

コンセイユデタは、政府の法案は全体において、緊急事態宣言の中の特殊ルールは現在の公衆衛生上の危機に鑑み一般の利益により法案の内容は正当化される、としてます。

 

このコンセイユデタは、政府の諮問機関として、また、行政最高裁として、人権の砦として役割を果たします。

日本のものとは大きく異なるフランスの行政裁判所と行政法についてはまた別途ご紹介したいと思います。

 

・3月19日に上院で可決

 

・3月21日下院で可決

 

 

フランス上院の入るリュクサンブール宮

 

 

・3月22日:コンセイユデタによる判決

3月16日の政令に基づく緊急事態宣言に関し、お医者さんの組合などが、行政最高裁に対し、政府の取った緊急事態宣言は不十分であり、行政不作為が基本的人権を侵害しているとして、より強い措置(例外のない外出禁止)を命じるよう、申立てが行われていました。これについて、コンセイユデタが直ちに判断を出しました。

 

申立てに対して、裁判所は、申立人の求める例外のない外出禁止措置は不可能であること、そのようなことを行っていないからといって、政府の責任を問うことはできないと判断しました。しかし、政府の出した方針は明確ではない(一定のスポーツをしてもいいが、どの範囲が許されるのかは明確ではないなど)、として政府の方針の定め方を批判しました。

フランスで面白いのは、この行政裁判へ訴えることのできる余地が非常に広いため、一市民が政府の取った方針を問題視し、それに対する裁判所の判断を求めることができることです。この判断を政府は無視することはできないので、行政最高裁の指摘通り、より詳しい措置を取ることとなりました。

 

・3月23日:法律成立(緊急事態法案とそれに付随する組織法律成立)

 

以下のような内容になりました。

 

内容としては、主に「公衆衛生法典」を改正する法律という内容になっています。

 

“令の状況政府による発令、国会の重視(法第1条)

 

緊急事態宣言は、国民の健康に脅威となるような公衆衛生上の問題が生じたときに、閣議決定に基づく政令により発令することができる。発令の根拠となる公衆衛生上の状況は公表される。

 

政府が取った措置については、直ちに上院及び下院に報告される取られた措置を監督し、評価するために、両院はあらゆる情報の提供を求めることができる

 

1か月を超える緊急事態の延長は、専門家会議の意見を聴取した上で、法律によってのみ可能。

 

今回に限り、法律の施行日より、法に基づき2か月の緊急事態の発令とする。(法第4条)

 

延長については法律によってのみ可能です。

緊急事態宣言が発令された場合、国民の健康を守るため、首相(必要に応じ県知事)は以下の措置を取ることができる。違反の場合には刑事罰が課されます(改正後の公衆衛生法典L..3136−1条)。

 

権利の制限行政裁判所による救済の明記

 

・政令により定められた時間と場所への人あるいは自動車のアクセスの制限あるいは制限

・例外を除き自宅を離れることの禁止

・生活必需品を提供する店舗以外の施設の閉鎖

・集会等の禁止

・必要な物資に関する価格統制等

 

緊急事態宣言に基づき取られた行政の措置については、すべて行政裁判所の緊急審理手続きによる審理を受けることができる(法改正後の公衆衛生法典L.3131−18条)。

 

 

※フランスでは行政裁判所が人権の砦とされています。この条項がなくても、かつてのテロや公害の暴動の際の緊急事態宣言の場合と同様、当然に行政裁判所に訴えることができますが、改めて行政裁判所に申立てができると記載したことは、立法者自身が予め人権保障を重視していることを示しているという点で、日本から見ると大変興味深いところだと思います。

 

 

 

ナポレオンによるコンセイユデタの創設(1799年)

 

7从囘援助等

 

政府は委任立法による方法により、とりわけ企業の事業と雇用に対する影響を最小限に抑えるために、以下に関する措置を取ることができる。

 

・労働法: 

― 一部休業に対する援助を強化することにより、解雇を制限

― 有給休暇の取得に関する変更、休日に関する定めの変更に関する権限を使用者に与える

― 健康診断に関する規定の調整

・会社法上の規定の変更

・建物明渡の強制執行に関する期限の付与

・公契約に関する規定の変更

・オフィス等の家賃、公共料金の支払い猶予等

 

また、行政手続き及び裁判手続きに対しする特例措置も政府が取れることになっています。

その中には、時効に関する定め、控訴等の訴訟行為の期限に関する定め、裁判の公開に関する例外、刑事手続き上の規定の変更(逮捕や取調べに関する特例)、刑の執行に関する特例等があります。

 

そのほか大学の教育に関する特例、保育園に関する特例、子どもの預かりに関する規定、医療過誤の被害者の賠償に関する審理の特例、外国人のビザや滞在許可証の有効期間の延長、映画作品のビデオ化の期間の延長(通常封切りから4か月以降はビデオ販売が可能なところ、その期間を延長)などについて政府が措置を取ることができることが法律上定められています。

 

っ亙選挙に関する特例

 

このとおり、フランスの公衆衛生に関する緊急事態制限は、非常に強い市民の基本権の制約を伴うことになりましたが、他方では、明確に、企業活動や雇用を守ることが打ち出され、かつ国会の重視、裁判所の役割の重視が特徴となっています。

 

・3月23日:首相により、組織法律合憲性審査のため法案が憲法院付託される

フランスでは、成立した後の法律の施行前に、通常法律については大統領、首相、両院議長、あるいは60名以上の下院議員あるいは上院議員によって憲法院に合憲性の審査のために申立てを行うことが可能です。また、憲法と一体となるような法律(組織法律)については、施行前に必ず首相が憲法院に法律を審査の付託をしなければならないこととなっています。法律が実際に施行される前に、憲法院の判断を求めることができるのがフランスの特徴です(日本にもあるといいです。)。

 

それに加え、フランスでは、一度施行された法律が、具体的な事件に適用される際に、日本のようにその事件に関して適用される法律が合憲か違憲かについても争うことができます。これをQPC(優先的合憲問題)といいます。QPCも事件を担当する裁判所から憲法院に事件が送られて、憲法院で審理されます。

 

今回、組織法律が主張により憲法院に付託されました。この組織法律は、緊急事態法案の違憲性を争うQPCについては、直ちに審理をすると、緊急事態法の即効性が損なわれることから、真理開始時期を将来のある時点(6か月先)とすることとするものです。そのような裁判の時期を先にする法律が憲法違反になるかどうかが審理されました。

 

憲法院は、3月26日に、その法律は憲法に違反しないと判断しました。

 

・3月24日から施行

この日から2か月の緊急事態宣言が発令となりました。

 

・3月25日:法律に基づく政令公布

法律に基づく具体的な措置が政令によって定められました。

次の記事でご紹介します。

 

 

フランスにおける緊急事態宣言の民主的・裁判的統制のあり方

  • 2020.03.13 Friday
  • 20:40

 

緊急事態宣言は行政権に対して大きな権限を与えるものです。

そのため、フランスの緊急事態宣言は、様々な統制のもとにあります。

 

1.民主的統制

 

そもそも、緊急事態は閣議決定で発令できるとしても、12日を超えての延長は国会のみが法律で認めることができます。

 

民主国家である以上、国会の関与は不可欠です。

 

 

 

下院の入るブルボン宮入り口

 

 

クレマンソーの演説

 

 

「そのメンバーが集まるところ、そこに国民議会がある」

(1789年6月20日テニスコートの誓い)

(下院のお土産で売っているクリアファイル)

 

 

2.裁判的統制 − 行政裁判所とコンセイユデタ、憲法院の役割

 

緊急事態宣言が行政権に広範な権限を与える以上、行政権を統制する行政裁判所の役割が非常に大きくなります。

 

 

 

 

 

 

 

Motion au jardin du Palais-Royal, Camille Desmoulins appelle le peuple à la résistance, le 12 juillet 1789.

Lesueur, Jean-Baptiste , Dessinateur

Entre 1789 et 1795

Musée Carnavalet, Histoire de Paris

D.9066

CC0 Paris Musées / Musée Carnavalet

Dessin

 

思えば、コンセイユデタ(行政最高裁)の入るパレ・ロワイヤルはフランス革命の拠点でもありました。

(当時はコンセイユデタはまだありませんでしたが)

バスティーユ奪取のための演説をカミーユ・デムーランが行ったのもパレ・ロワイヤルにおいてでした。

 

 々埓訴訟

 

非常事態宣言が行政権の発動である以上、行政裁判所が行政の行為の適法性を判断することになります。そのため、行政裁判官が決定的に重要な権限を有することになります。

 

 

 

パリ行政控訴院

 

― 非常事態宣言事態に対する訴え提起:広く認められる訴えの利益

 

まず、非常事態宣言を出すこと自体が、行政裁判所に対する申立ての対象となります。

コンセイユデタの2005年12月9日決定です。

(コンセイユデタは、フランスの行政系列の裁判所の最高裁判所にあたります。)

 

この判断では、結論としては、非常事態宣言を出したことが適法と判断されました。

非常事態宣言の適法性の判断については「制約された審理」が行われ、明らかに違法な行為を行政が行っていない以上、違法との評価を受けないという手法が使われています。

 

しかし、日本との対比で考える場合には、このような申立てができること自体が重要であるというべきでしょう。「明らかな評価の過誤」が行政にある場合には、非常事態宣言自体が行政裁判官により違法の評価を受ける可能性があります。

 

このような訴え自体が可能なのは、訴えの利益を広く認めるからです。

この判決においては、非常事態宣言が出されているフランス本土居住の大学教授は非常事態宣言が無効である旨の確認を求める裁判を行う訴えの利益があると判断される一方、非常事態宣言が出されていないフランス領ポリネシアの住民には訴えの利益が認められないとされました。

居住の要件さえあれば、訴えを行うことが可能となっています。

 

― 非常事態宣言の下で具体的に取られた措置に対する訴え提起 :40%の無効判決

 

非常事態宣言の中で行われた行政の行為についての審査が適切に行われるか否かも極めて重要です。

この点、フランスの行政裁判官は極めて積極的に対応をしています

 

行政裁判官は、非常事態宣言の発令が必要となった特別な状況に鑑み、行政が発令した命令が適切なものであり、その目的に対して必要かつ均衡が取れているものであるかについて、「完全な審理」(行政の行為の適法性について最大限の審理を行うもの)を行うとなっています。

 

さらに、明確に非常事態宣言の下で行われた行政の行為(とりわけ捜索差押)は国家賠償の対象となるとされています。

 

このような判断に基づき、2016年1月1日から2017年5月5日までに間において、行政裁判所には実に863件の申立てがあり、32.8%のケースにおいて、行政による行為の無効宣言あるいは中断の命令が出されています。

コンセイユデタも、112の決定を出しており、最終的に内務大臣の責任の下において取られた行為の40%の効力が否定されました。

 

― 非常事態宣言を終結させなかったことの対する訴え提起:大統領も行政裁判所の判断に服する(2016年1月27日コンセイユデタ緊急審理決定)

 

この事件は、人権連盟Ligue des droits de l’homme という人権擁護のために活動する団体(ドレフュス事件を契機に1898年設立)が、コンセイユデタに対し、。横娃隠鞠に発令された緊急事態宣言の停止、共和国大統領に対し緊急事態宣言を直ちに停止するように命じること、6杁淹態宣言の発令の根拠となった状況及び事実に関する再評価を共和国大統領に対し命じること等を求めてコンセイユデタに対し申立てをしたものです。

 

興味深いのは、この申立て自体の訴えの利益について議論なく認められていることと、449人の大学教員、警察官の組合(CGT)、パリ警視庁の組合、裁判官(司法官)の組合も人権連盟側で訴訟参加を申立て、その申立てが認められていることです。

 

このコンセイユデタの決定は、訴えを認めませんでしたが、判断が非常に興味深いです。

 

内容としては、

ゞ杁淹態宣言の停止自体を命じることはその根拠となった法律の違憲性を問うに等しいものであるから、それは憲法院のみが判断できる

 

一方、大統領に対して一定の行為を命じることは行政裁判所の権限に属する。しかし、本件においては、未だ緊急事態宣言の継続を必要とする状況があるため、コンセイユデタは大統領に対して、緊急事態宣言の停止の命令を行わない

 

というものです。

重要なのは、△良分です。

以下のように判断されています。

 

「共和国大統領は、法律により定められた3カ月の緊急事態宣言の期間を、法律により大統領に与えられた期限前に終了させる権限を発動するか否かについて広い裁量権を有しているとしても、緊急時の権力体制の有する効果が、法治国家においては時間的場所的限界を有するものであるという事態に鑑み、その大統領の有する権限をいつ発動するかという条件について法が何も定めていないとしても、その法の沈黙は、裁判官によるあらゆる適法性審査を逃れさせるものとみなされてはならない。したがって、緊急審理を担当する(行政)裁判官は、閣議決定によって共和国大統領が3カ月の期限の前に緊急事態宣言を終了させる権限を発動するか、あるいは少なくとも状況を見直すことを命じることを求める申立人の主張に対して判断をすることができる。」

 

この事案についてはテロの後の状況という特別な状況に鑑み、緊急事態を継続させる必要性があると裁判官が判断をしたため、共和国大統領に対する緊急事態宣言の終了宣言を義務付けることにはなりませんでした。

 

しかし興味深いのは、大統領の権限発動の適否も行政裁判所の判断対象となり、場合によっては、行政裁判所が大統領に対して緊急事態宣言の終了を命じることができるということです

 

警察や司法官の組合も緊急事態宣言の終了を求めて訴訟に参加しているのも興味深いところです。

 

◆〃法院による違憲判決

 

行政裁判所及び司法裁判所は、適用すべき法令に違憲の疑いがある場合には、その審理のため事件を憲法院に送ることになっています(QPCの申立て)。

 

緊急事態宣言に関する法律についてもQPCの申立てが行われ、憲法院より憲法適合性に関する判断が行われています。

 

 

「憲法は、立法者に対し、緊急事態条項を予定することを禁じていないが、立法者は公共の秩序に対する侵害とフランス共和国領土内に暮らすすべての人の権利と自由の尊重とを調和させるようにしなければならない

 

行政裁判所に対する異議申立てができることを法律の合憲性の要素とする」(2015年12月22日QPC)

 

したがって、上記のように行政裁判所による判断を受けることができることが、緊急事態宣言を定める法律を合憲とすることのできる条件とされています。

 

その上で、これまで緊急事態宣言に関して憲法院に違憲判決が出されてきました。

 

 

 

そのうちで重要なのは、以下のものになります。

 

―1985年1月25日判決

 

これは、ニューカレドニアでの緊急事態宣言の延長に関する国会決議に対する違憲審査申立てに関するものです。結論としては、憲法院はかかる延長の法律は合憲である旨判断しました。その中で憲法院は、「自由の尊重と公共の秩序との間で必要となる調整を行う」義務が国会に存するとし、また、フランス憲法がその中で戒厳令を認めている以上、法律で緊急事態宣言を制定することは認められるとしています。

 

― 捜索差押に関する3つの違憲判決

 

違憲判決が出されたのは、とりわけ行政により行われる捜索差押についてです。

 

憲法院は、捜索差押に関する条文の重要な部分について「公共の秩序の保障という憲法的価値を有する目的と憲法院が1789年(人権)宣言第2条の下に保障する私生活の尊重との間に均衡のとれた調和がなされていない」等として、2016年2月19日判決、2016年9月23日判決、2016年12月2日判決において違憲判決を出しています。

 

― 往来の自由に関する違憲判決

 

1955年の法律第5条3号において、その方法を問わず公権力の行使を妨げようとする人物の県の全部または一部の地域の滞在禁止の権限が県知事に与えられていましたが、これも、公共の秩序の保障という憲法的価値を有する目的と往来の自由と通常の家族生活を送る事由との間に均衡のとれた調和がなされていないとして、憲法院は違憲判決を出しました(2017年6月9日判決)。

 

― 職務質問や持物検査

 

職務質問や持物検査を出さめる条項(2016年7月21日の法により改正された1955年の法第8−1条)は「公共の秩序の保障という憲法的価値を有する目的と往来の自由と私生活の尊重との間に均衡のとれた調和がなされていない」として違憲判決を出しました(2017年12月1日判決)

 

― 保護地域の設定

 

1955年法第5条2号は、県知事に対してその決定により、人の居住が制約される保護あるいは保全地域の設定ができるとしていましたが、これについても、憲法院は、「公共の秩序の保障という憲法的価値を有する目的と往来の自由との間に均衡のとれた調和がなされていない」として違憲の判決を出しました(2018年1月11日判決)。

 

***

 

フランスの裁判所の緊急事態宣言に対する大枠は上記のとおりです。

これに加えて、個別の案件に関する行政裁判所の判断も興味深いところがあります。

 

緊急事態宣言に関してはフランスでも是非が問われ、2015年の時点で仕方がなかったとしても批判が多かったことも事実です。

 

しかし、いずれにしても、行政権に大きな権限を与え、通常は法律あるいは裁判所による令嬢なくして行えない私権の制限を行う以上は、民主的統制(国会による議論)と強力な裁判所による人権保障が行われることが大前提であると考えられます。

 

 

フランスにおける緊急事態宣言

  • 2020.03.13 Friday
  • 20:27

 

 

 

「私たちは、国が裁判所の統制に服するのを見るのに慣れている。行政法の存在自体が奇跡の産物であることを忘れてしまうほどに。」[1]

 

これはフランスの行政法の入門書の一番初めの言葉です。

フランスの行政法は国民の権利を守るためにあり、フランスの人権保障は行政法と行政裁判所を通じて実現されてきました。

フランスを手放しで賛美することはしませんが、こればかりはただただフランスの制度をうらやましく思います。

 

フランスには「越権訴訟」という行政訴訟の類型があります。国がその権限を逸脱したときにその行為を違法だというものです。

 

これに関して、ガストン・ジェーズ教授は、

自由を擁護するために世界に存在する最も効果的で、最も経済的で、最も利用しやすい手段

だといいました[2]

 

 

 

コンセイユデタの入るパレ・ロワイヤル

 

 

このような裁判所による統制は、緊急事態宣言においても発揮されました。

 

今日本でもコロナウイルスに関して緊急事態宣言が取りざたされていますが、民主的成熟度が残念ながらない国においては危険でしかない制度だと思います[3]

 

なので、裁判所の役割を含め、緊急事態宣言の制度を持つためにはどのような民主的・裁判的統制を持たなければならないかといことをフランスの例をもとにご紹介したいと思います。

 

 

 

パレ・ロワイヤルの庭園

 

 

フランスの緊急事態宣言

 

歴史的経緯から緊急事態宣言の導入の必要性が少なからずあったフランスでは、その統制を以下のようにしています。

 

1.導入の歴史的経緯

 

もともと、フランスで緊急事態宣言が導入されたのは、1955年。アルジェリア戦争の時代です。1954年から頻発したアルジェリア開放戦線のテロに対抗するためでありますが、憲法に定めのある戒厳令の発令を避けるために、これに代わる手段として1955年4月3日の法律として制定されました。

 

2.緊急事態宣言でできること

 

― 発令は閣議決定。

「公の秩序に対する重大な侵害から生じる差し迫った危険あるいはその性質及びその重大性から、大災害としての特質を持つような事象が生じた時」に発令が行われる。

 

― 但し12日を超える場合には法律で延長をする。

 

― できることは、

・県知事による一定の場所及び一定の時間における通行の禁止、「その行動が公の秩序及び安全に対する脅威となると考えられる者」に対して「保護区域」における居住の禁止すること

・閣議決定に基づく政府の「公の秩序に対して重大な侵害を与える行為の実行に参加する」団体の解散命令

・内務大臣あるいは県知事による合法的に所持が認められた一定の武器の提出命令

・内務大臣による居所指定命令

・内務大臣による劇場、飲食店及び集会場の一時的閉鎖命令及びデモなどの集合の禁止命令

・内務大臣あるいは県知事による自宅の捜索差押命令

・内務大臣によるインターネットサイトのブロック命令

・命令違反の場合には、6か月以下の懲役及び/又は7500ユーロ以下の罰金が課される。

 

― 緊急事態宣言の期間が法律で定められた場合にも閣議決定で終了させることができる。

 

3.実施例

1955年(アルジェリア戦争)

1958年

1961年―1962年

1985年―1987年(ニューカレドニア)

2005年10月の暴動の後

2015年11月13日のテロの後

 − 2015年11月14日閣議決定

 − 法律による延長:2015年11月20日の法律(法律第2015−1501号)

 − 法律による延長:2016年5月20日の法律

  (ニースでのテロ:2016年7月14日)

 − 法律による延長:2016年7月21日の法律(法律第2016−987号)

 − 法律による延長:2016年12月19日の法律(法律第2016−1767号)

 − 法律による延長:2017年7月11日の法律(法律第2017−1154号)

 

 

[1] Prosper Weil, Dominique Pouyaud « Le Droit Administratif », puf, Que sais-je ?, p. 3

[2] G.Jèze, “Les libertés individuelles », Annauaire de l’Institut international de droit public, 1929, p. 180 コンセイユデタ副院長ジャン=マルク・ソヴェ氏の2012年の名古屋大学における講演「コンセイユ・デタと基本権の保護」(市橋克哉等翻訳)による引用

[3] もちろん今回日本で言われているのは、新型コロナウイルスの感染拡大への対策として、新型インフル特措法を改正して、緊急事態宣言の発令ができるようにする法改正がなされるということです。したがって、フランスのテロに際して発令されたような緊急事態宣言とは異なります。しかしこの唐突感から新型コロナウイルスに便乗した憲法改正のための準備でないのかという疑いはぬぐえません。

緊急事態宣言には異なるタイプのものが存在します(するはずです。)。

 ヾ鏡症の拡大を避けるためのもの

◆.謄蹐簑腟模自然災害などの場合に発令されるもの

今現在は,予定されているはずですが、以下の発言を見ると、,鯆未靴騰△僚猗がなされているものと思われます。

「公益を守るために個人の権限をどう制限するか、緊急事態の一つの例、改憲の大きな実験台と考えてよいかもしれない」(元衆院議長伊吹文明)

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO55152430R00C20A2000000/

「人権も大事だが、公共の福祉も大事だ。直接関係ないかもしれないが、(国会での改憲)の議論のきっかけすべきではないか」(自民党選挙対策委員長下村博文)

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO55907380R20C20A2000000/

一気に,ら△某覆爐發里任呂覆い砲靴討癲∩瓦違う事態を想定しているのに、「緊急事態」という怖い言葉に少しずつならされているかも知れません。,寮茲豊△見え隠れしている以上、△鯑各するにはどのような補償が必要なのか、ということを予め考えておくのも無駄ではないでしょう。

 

公務員の定年延長に関するフランスの判例

  • 2020.02.27 Thursday
  • 15:52

公務員の定年延長と法的判断

 

公務員の定年は法改正なく延長できるのか? 

 

どこかで話題になっているものと同じような論点が争われた事件がフランスにもありました。

 

コンセイユデタ2001年5月16日判決です。

 

時は2001年、シラク大統領の時代です。

 

当時のパリ警察長官(政府により指名されます。)が2001年1月14日に定年退職をしなければならないところ、2001年1月12日及び同年3月1日の内務大臣の決定により、「次の警察長官が任命されるまでの間警察長官のポストに留まるように」とされました。(警察と検察だし、本当にどこかで聞いたような…)

 

 

 

 

パリ、ルーブル美術館目の前にある国務院

 

この案件で何が争われていたかというと、この定年を超えてポストにいたパリ警察長官の指示の下行われた不法滞在をしていた外国人の退去命令が有効かどうか、ということでした。

 

この退去命令については、行政行為であるため、法律上の定年を超えて職務を行う公務員による行為が有効であるか否かについて行政裁判所の最高裁である国務院、コンセイユデタが判断を下すことになりました。

 

そこで、国務院は以下のような判断を下しました。

 

「国家公務員の身分について定める1984年1月11日の法律第68条は、『国家公務員は、法令に定める例外の場合を除き、定年を超えてそのポストに留まることはできない。』と定めている。」

 

「公務員は定年を迎えた時点で自動的に公役務から退くこととなる。したがって、定年の適用除外が法律で定められている場合を除き、当該公務員の職務の重要性あるいは実質的にその職務を遂行することのできる後任の者を直ちに任命することが不可能な場合という特別な状況により当該公務員がそのポストに留まることが必要とされる特別な場合以外の場合においては当該公務員が後任の任命が行われるまでの間、そのポストに適法に留まることはできない。

 

1984年1月11日の法律には警察長官の定年を適用除外とする条項はない。

 

また、2001年第一四半期の時点で、当該警察長官が後任の者が決まるまで適法にポストに留まることを正当化する特別な事情は認められない。

 

以上より、警察長官の任命は違法であると判断されました。

 

ただ、事案としては、違法に任命された警察長官の命令であっても、その任命が取り消されるまでの間は事実上の公務員の行ったものであることから有効であると判断され、退去命令は維持されました(パリ控訴院は退去命令自体も違法として取り消していたため、国務院による破毀自判)。

 

結論はともあれ、国家公務員の定年の例外を認めるためには明文の定めもしくは特段の事情が必要とされ、そのどちらもないため、任命が違法であると判断されているのは重要なところです。

 

行政権が無理な法律適用を行っても、フランスでは国務院が適切な判断をするなど法治国家が機能不全に陥ることを妨げる制度がある点は極めて重要だと思われます。

その意味で、日本国憲法は、統治機構の部分がすかすかだし、裁判官は事実上独立していない。個人の資質もあるけれども、やはり制度欠陥もあると思われ、少なくとも日本国憲法は統治機構については機能していない。

 

フランスの弁護士で、ミッテラン政権の下で法務大臣となり、1981年に死刑を廃止した、ロベール・バダンテールは、1986年5月4日にフランスの憲法裁判所である憲法院の院長に任命されたときの以下のような演説を行いました。

 

Monsieur François Mitterrand, mon ami, merci de me nommer président du Conseil constitutionnel, mais sachez que dès à présent, envers vous, j’ai un devoir d’ingratitude. 

 

フランソワ・ミッテラン殿、我が友人、私を憲法院院長に任命してくれたことに感謝申し上げます。

しかしながら、今この時点から、私はあなたに対して、忘恩の義務を負います。

 

日本でも「忘恩の義務」を果たすことのできる資質の裁判官とそれを可能にする制度が絶対に不可欠です。