公務員の定年延長に関するフランスの判例

  • 2020.02.27 Thursday
  • 15:52

公務員の定年延長と法的判断

 

公務員の定年は法改正なく延長できるのか? 

 

どこかで話題になっているものと同じような論点が争われた事件がフランスにもありました。

 

コンセイユデタ2001年5月16日判決です。

 

時は2001年、シラク大統領の時代です。

 

当時のパリ警察長官(政府により指名されます。)が2001年1月14日に定年退職をしなければならないところ、2001年1月12日及び同年3月1日の内務大臣の決定により、「次の警察長官が任命されるまでの間警察長官のポストに留まるように」とされました。(警察と検察だし、本当にどこかで聞いたような…)

 

 

 

 

パリ、ルーブル美術館目の前にある国務院

 

この案件で何が争われていたかというと、この定年を超えてポストにいたパリ警察長官の指示の下行われた不法滞在をしていた外国人の退去命令が有効かどうか、ということでした。

 

この退去命令については、行政行為であるため、法律上の定年を超えて職務を行う公務員による行為が有効であるか否かについて行政裁判所の最高裁である国務院、コンセイユデタが判断を下すことになりました。

 

そこで、国務院は以下のような判断を下しました。

 

「国家公務員の身分について定める1984年1月11日の法律第68条は、『国家公務員は、法令に定める例外の場合を除き、定年を超えてそのポストに留まることはできない。』と定めている。」

 

「公務員は定年を迎えた時点で自動的に公役務から退くこととなる。したがって、定年の適用除外が法律で定められている場合を除き、当該公務員の職務の重要性あるいは実質的にその職務を遂行することのできる後任の者を直ちに任命することが不可能な場合という特別な状況により当該公務員がそのポストに留まることが必要とされる特別な場合以外の場合においては当該公務員が後任の任命が行われるまでの間、そのポストに適法に留まることはできない。

 

1984年1月11日の法律には警察長官の定年を適用除外とする条項はない。

 

また、2001年第一四半期の時点で、当該警察長官が後任の者が決まるまで適法にポストに留まることを正当化する特別な事情は認められない。

 

以上より、警察長官の任命は違法であると判断されました。

 

ただ、事案としては、違法に任命された警察長官の命令であっても、その任命が取り消されるまでの間は事実上の公務員の行ったものであることから有効であると判断され、退去命令は維持されました(パリ控訴院は退去命令自体も違法として取り消していたため、国務院による破毀自判)。

 

結論はともあれ、国家公務員の定年の例外を認めるためには明文の定めもしくは特段の事情が必要とされ、そのどちらもないため、任命が違法であると判断されているのは重要なところです。

 

行政権が無理な法律適用を行っても、フランスでは国務院が適切な判断をするなど法治国家が機能不全に陥ることを妨げる制度がある点は極めて重要だと思われます。

その意味で、日本国憲法は、統治機構の部分がすかすかだし、裁判官は事実上独立していない。個人の資質もあるけれども、やはり制度欠陥もあると思われ、少なくとも日本国憲法は統治機構については機能していない。

 

フランスの弁護士で、ミッテラン政権の下で法務大臣となり、1981年に死刑を廃止した、ロベール・バダンテールは、1986年5月4日にフランスの憲法裁判所である憲法院の院長に任命されたときの以下のような演説を行いました。

 

Monsieur François Mitterrand, mon ami, merci de me nommer président du Conseil constitutionnel, mais sachez que dès à présent, envers vous, j’ai un devoir d’ingratitude. 

 

フランソワ・ミッテラン殿、我が友人、私を憲法院院長に任命してくれたことに感謝申し上げます。

しかしながら、今この時点から、私はあなたに対して、忘恩の義務を負います。

 

日本でも「忘恩の義務」を果たすことのできる資質の裁判官とそれを可能にする制度が絶対に不可欠です。